第488話初級魔法とスミカの全力




「わたしは簡単な魔法しか使えないんだよ~っ!」


「うぇっ!?」


 フーナから出た予想外の答えに、思わず声が裏返る。


 そんなフーナは、私を鋭く睨む視線とは裏腹に、目には涙を溜めていた。

 しかも頬っぺたをプクぅと膨らませて、かなりご立腹の様子だ。

 

 もしかして、触れてはいけないところだったのだろうか?



「だから上の魔法とか知らないし、魔法書があっても文字が読めないから、中級以上の魔法は使えないんだよ~っ! もぉっ!」


「いや、だって大規模な魔法を使ってたでしょ?」


 やはり逆鱗に触れてしまったようで、がなり立てる様に叫びだす。

 なのでその矛盾を突いて確認してみる。



「あれは魔力量で調整してるんだよっ! それは出来る様になったからぁっ!」


「そ、そうなの? でも現に魔法は使えてるでしょ? あれはどうやって覚えたの? あ、もしかして誰か師匠がいるとか?」


 文字が読めないとすれば、最後の方法しかないはず。


「あれは大好きなリフレに、直接頭の中に魔法の内容を入れてもらったんだよ~っ!」


「ん? 直接脳内にインプットしたって事? そんな魔法あるの? それとリフレって、もしかして現実の友達って事?」


 ピンク色の髪の毛を見ながら、マジマジと聞き返す。

 特にリフレって言葉が気になる。



「うん、多分そうだと思う。でもその子が持っていたのが、挿絵付きの魔法書で『アリでも使える魔法入門書(初級編)』ってやつだったんだよぉ。 あ、リフレはリトルガールフレンドの略だよぉ」


「…………なんで引き合いに蟻なのかは置いておいて。その魔法書が入門編しかないから、フーナが使える魔法も初級魔法しかないって事?」


 リフレの意味はわかったけど、敢えて無視する。

 聞いてもいいけど、藪蛇になりそうだし。

 

「そうなんだよ。それでメドにも教えてもらおうとしたんだけど、私たちと言語が違うからって、難しいって言って教えてくれなかったんだよぉ。だから簡単な魔法しか使えないんだよぉ~ ううう……」


「………………」


 衝撃の事実だった。


 あれだけの魔法を放っておいて、使っていたのは初歩のもの。

 魔法には詳しくない。けど、あの威力が異常だってことはわかる。



『ん~、内包する力と知識が伴ってない感じかぁ。いくら馬力があっても、それを扱える技術が未熟だってことだよね? その見た目通りにチグハグな組み合わせだよ』


 でも強い。単純に強い。


 この世界はもちろん、元の世界でも相対した事ないほどに。

 

 だから中身と技術が伴ってないのなんて、この際些細なこと。

 それ程フーナの持っているポテンシャルは高い。


 でも逆に言い換えれば、このフーナはまだまだ成長する。

 これでまだ未完成なのだから、その伸びしろが予想できない。


 もしも使い方をマスターすれば、ほぼ敵なしの、それこそ文字通りの『無敵』になるだろう。 



「…………ふふ、面白いなぁ」

 

 思わず本音が口から零れる。


「はぁっ!? ぜんっぜん面白くないよっ! 一応オリジナルの魔法もあるけど、それだって制御が難しいから滅多に使えないしっ! 初級だけじゃカッコ悪いしっ!」


「ああ、ごめんごめん。そうじゃなくて、フーナがまだ成長段階なのがおかしくて、ちょっと声に出ちゃったんだよね。まだまだ先がありそうで楽しみだなって思ってさ」


 勘違いしたフーナに謝りながら、思った事を正直に吐露する。


「そうなの? でも楽しいってなんで? お姉さんはわたしに勝てないのに?」


「ん~、それは否定できないんだけどね。 でも自分の中の価値観や常識を超えた何かを見たいって、そういう衝動あるよね? 怖いもの見たさみたいなの。そんな感じ」


「ふ~ん、わたしは怖いのが嫌いだからそれはわかんないなぁ~」


「まぁ、そうだよね。そういう感情は人それぞれだからね。 あ、そう言えば、また魔法少女になれないの? さっきの大人の姿になったやつ」


 今の状態の、ちんまい姿を見て確認する。


「ん~、まだできるよ。でもあれはわたしのオリジナルで、魔力の消費も激しいから、まだ不安定なんだよね。だからあまり長い時間は出来ないよ? さっきみたいに途中で戻っちゃうから。でもなんで?」


 不思議そうに、指を頬に当てながら聞き返してくる。

 てか、元に戻ったのって、時間が原因じゃないよね? 



「ちょっと全力を出そうと思ってさ。だから変身してくれる?」


「全力? ああ、さっき言ってたやつだっ! 負け惜しみみたいなのだっ!」 


「負け惜しみね? まだ見てもいないのに随分な言いようだね。なにか確証があるの?」


 腕を組み、薄目で見ながらフーナの答えを待つ。


「わたしだって色んな敵と戦ってきたんだもん。お姉さんがわたしに勝てないのなんて、今まで戦ってきてわかるもんっ! 全力出したって無駄だよっ!」


「ふ~ん、要は今までの冒険者としての経験則で、相手の強さが分かるって事だよね?」


 自信ありげに胸を張るフーナに聞き返す。


「うん。お姉さんもかなり強い方だけど、わたしはもっと強いのと戦ったことあるから。昔なんて、女神の魔物が現れて―――― って、最後のは何でもないっ! でもそんな感じだよっ!」


 最後だけは慌てたように訂正して、そう話を締めくくる。 



『…………なるほどね』


 フーナの持つ自信の根源が分かった気がする。


 女神の魔物が何なのかは不明だけど、かなり手強かったのは、話の流れでわかる。

 それと長年冒険者に身を置いてるだけあって、相手とも戦っているし、の場数も踏んでいる。


 更に付け足すなら、自分の実力も把握しているからこそ、私との戦いに自信があるのだろう。



「――――パンプ〇・ピン〇ル・ト〇ポップンッ! 大人になあれっ!」


 なんて思案している最中に、フーナの変身が完了する。


 そして眩い光と共に、自称魔法少女が姿を現し、



「ジャキ――――ンっ! 私の夢は可愛い幼女だけの街を作る事っ! それがマイドリームっ! その為にお小遣いを貯めてるんだっ!」


 そして決め台詞を、さっきと同じポーズで言い放った。


「………………」


 だけど願望っていうか、最低で最悪に改悪されたセリフになってるけど。

 全く共感できない、お小遣いの使い道を暴露したんだけど。



「よしっ! なら私も5秒だけ見せるよ」


 変身を終えた姿を見て、私も覚悟を決める。


「え? もしかしてお姉さんも変身っ!? でも5秒って?」


「フーナも今までかなりの相手と戦ってきたんだね? 魔物や人もそうだけど、それこそ人知を超えたおかしな存在とかも。さっきも女神とかって言ってたし」


「うぇっ!? ま、まぁね、変なのいっぱいいたよっ!」


 目を逸らしながら、慌てて答える。

 あまり触れられたくない内容らしい。



「ならその中に異世界人っていたの? 私やフーナみたいに、他の世界から来たプレイヤーとか」


「ぷれいやー? お、お姉さんも、もしかして――――」


「『Safety安全 device装置 release解除 MAX最大』――――」


「えっ?」


「――――『dix』」


 リミッターを一気に最大まで解除し、刹那の間でフーナに詰め寄る。


 パンッ


「うごぉっ!」


 破裂音と同時に、苦悶の表情でくの字に体を折るフーナ。

 全く反応出来ずに、打たれた腹部を両手で押さえ、激痛に悶えている。



『う、くっ、やっぱり体への負担が半端ないっ!』


 ようやくダメージを与えようだが、全身への負荷が尋常ではない。

 脳が破裂しそうな頭痛と、四肢が千切れそうなほどの激痛が私を襲う。



『残り4秒。ここで決めないと………… 私の負けだ』


 唇を強く噛み、最後で最大の攻撃をフーナに仕掛けた。



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