第203話期待外れの双子姉妹



「おお、よしよしハラミは柔らかいのぉ、温かいのぉ、フサフサじゃのぉ」

『わう~っ!』


 ナジメはナゴタとゴナタを広場に行くのを見届けた後、ハラミにダイブしてそのモフモフ具合に蕩けた表情になっていた。


「わしもペットが欲しいのぉ。どうだわしのところに来んか?」

『わふ?』

「ちょっとナジメちゃんっ!ボクのハラミ連れてかないでよぉ!」

『わうっ!!」』

「冗談じゃユーアよ。お主とハラミは傍から見ても相思相愛じゃからな。誰もそんな無粋な事する訳なかろう」

「そうしそうあい?」

「うむ。相思相愛じゃ。互いに慕っていると言う事じゃ」

「お互い好きって事?」

「そうじゃよ。じゃからそんな二人の邪魔はせんのじゃ。じゃがのぅ」

「うん?」

「今夜はわしが借りるのじゃっ!ユーアもわしにご褒美をくれるのじゃっ!」


 ガシッ モフモフモフ~~っ!!


「あ、ナジメちゃんボクのハラミだよっ!」

『わうっ!!』


「そうよナジメっ!ハラミはユーアの大事な家族で、アタシもその家族なんだから勝手に決めないでよっ!アタシの許可も取りなさいよねっ!」


 そんな幼女同士のやり取りに、参戦を始めた赤い少女。

 彼女はいつから私の家族になったのだろう?


「そうなのか?ならユーアとラブナ。わしに一晩貸してくれなのじゃ」


 ナジメはハラミから離れて、真剣な趣で二人に頼み込む。


「ダメっだよぉ!」

「ダメに決まってるじゃないっ!」

「うなっ!?――――うぅぅ、無念じゃぁ……」


 が、すぐさま却下され落ち込んでいた。


「こらナジメ」

「あ、痛っ」


 私はこの騒動の発起人のナジメの頭に「コン」と拳骨を落とす。


「な、なんじゃ?ねぇね」

 そんなナジメは頭を抑えながら振り向く。 

 ちょっとだけ涙目だった。


 拳骨の痛みじゃなくきっとユーアたちに無下に断られた事での傷心の方だろう。


「なんじゃ? じゃなくて、ナゴタたちの対戦相手も広場に集まったから、きちんと応援しよう?ユーアとラブナとハラミもね?」


「はいスミカお姉ちゃんっ!」

「わかったわよ。ナゴ師匠たちの戦い参考にするわよっ!」

『わう~~んっ!!』


 私の言葉に、ユーアに続きラブナとハラミも広場に目を向ける。


「ねぇね。ナゴタたちの対戦相手じゃが……」


 と、ナジメだけは真剣な表情で私に目を向ける。


 広場に向かう対戦相手を見て、すぐさま何かを感じ取ったようだ。

 こういったとこは、さすが元高ランクと言ったところだろう。


 見た目はそうは見えないけど。


「うん、既に雰囲気出てるね。それにあの能力はバサと……」


 同じ系統の能力なのだろうか。


 それと、


『ナゴタとゴナタが、何故のかも気になるね……』


 私は二人の今朝の様子と、広場に向かう二人を見てそう思った。




※※※※ナゴタ視点


 



「あなたたちは双子と聞いていたのですが、なぜあなた一人なのですか?」

「うん、うん」


 私たちに向かって歩いてくる一人の男に目を向ける。

 その際後方に、アマジとバサを視界に収める。


 だったらもう一人は何処に?


「ああ、弟の『ウオ』はここまで一緒に歩いてきたが分からなかったのか?」


 そう答える男は双子の兄で名前は『アオ』なのだとわかる。


 ゴマチの話だと『アオ』と『ウオ』と言う名前の双子って聞いてたから。



「一緒、ですか?どうみてもここにはあなたしかいないと思うのですが?」

「うん、うんっ!」


 私はもう一度アオの後ろを確認するが、先程と一緒でアマジとバサ。

 そしてお姉さま率いるシスターズ一のみんなだけ。


 一体この男は何を言ってるのだろう。


『………………』


 私は訝し気にアオに視線を送る。


「っ!?」

「ナゴ姉ちゃんっ!?」


 そこには腕を4本に増殖したアオが私たち姉妹を見て

 「ニヤリ」と口角をあげる。


「ナ、ナゴ姉ちゃんっ!あ、あいつ腕が増えたぞっ!?」

「ゴナちゃん落ち着きなさい。後ろにもう一人いるだけだから」

「そうなのかっ!?」

「そうよゴナちゃん。ナジメゴレムじゃないんだから腕が増えるわけないでしょ? それでそんな事をしてあなたたちは何をしたいのですか?」


 私はそう言ってアオを軽く一瞥する。


「いや、ちょっとした試験のつもりだったのだよ」


 アオの姿が横にぶれ、もう一人のアオが姿を現す。

 こっちが弟のウオだろう。


 双子と言うだけあって声も姿も瓜二つだった。


 それにしても、気配が――――


「試験?ですか。それで私たちの結果はどうだったのですか?」


「不合格だ」「もちろんな」


「何故ですか?」

「うんうん」


「お前たち姉妹は」「俺が手を出すまで気付かなかった」「弟のウオが」

「アオの後ろに潜んでいる事に」「だからだ」


 と言い終わり、二人は軽く肩をすくめる。

 その仕草を見る限り小馬鹿にしてるというよりも


 期待外れだった?


「………………」

「なんかいちいち交互に話してめんどくさくないのかな?」


「俺らはお前たちの事を知っている」

「知ってると言うか、軽くだが調べた」

「俺たちと同じ双子だと言う事に」

「少し興味を持ったからな」


「……それで何が分かったと言うのですか?」

「そうだっ!わざわざ調べて何が分かったんだい?」


「姉のナゴタは聡明で冷静沈着。能力は『俊敏』」

「妹のゴナタは陽気で短絡思考。能力は『剛力」』


「それを知ってあなたたちはどう思ったのですか?」

「うんうんっ!」


「どうもこうも拍子抜けだ」

「双子のくせにバラバラな思考と戦闘スタイル」

「俺たち双子の名声を更に響かせる」

「人柱になってもらうつもりだったが」

「正直その価値がなかった」

「ただそれだけだ」


 そう言ってアオとウオは同時に「はぁ」と溜め息を吐く。

 心底興味を失ったかのような蔑む目で私たちを見る。


「うわっ!何かこいつら感じ悪いよナゴ姉ちゃんっ」

「そうね……」


 私はゴナタに軽く頷きながら、アオが最初に私たちの前に来た時の事を考える。


『歩いてきたアオは確かに気配が一人だった。なのに実際はアオの後ろに弟のウオが身を潜んでいた。私とゴナちゃんに感知されないで……』


 この能力はバサと言う男と同系統?


「っ!?」 

「な、なんだ急に雰囲気がっ!?」


 私とゴナタは突然の異様な気配に驚愕する。


 その気配を放っているのは当然目の前の二人。


「それでだ。俺たちはそんなお前を放置する事が出来なくなった」


「……何故ですか?あなた達には関係ないと思いますが」

「………………」


 私はその気配を真っ向に受けながら聞き返す。


 すると更にその気配が大きくなり、二人の表情も激変する。

 視線も蔑むものではなく、もっと別の何かに。


「何故?だと。そんなの決まっている」

「お前たちのせいで双子の存在が、無能呼ばわりされても迷惑だからだ」


「………………」

「………………」


「だから俺たち双子が――――」

「出来損ないのお前たち双子に――――」


「「制裁を加えるっ!!」」


 そう宣言して、アオとウオはまた一人になる。

 気配を絶って、二人が一人に。


「ゴナちゃんっ!気を付けてっ!」

「うん、任せろナゴ姉ちゃんっ!」


 私はすぐさまゴナタに警告をして武器を構える。


『双子って事に、充分と誇りを持ってるようだけど、双子の何たるかを知らない愚か者です。私とゴナちゃんでそれを教えてあげましょう』 


 隣のゴナタと、対峙するアオとウオを見て私はそう決めた。

 乾いた唇を軽く舌で濡らしながら。


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