第202話双子姉妹の願いとお願い


※前半スミカ視点。

 後半ナゴタ視点。になります。




「お、お姉さまお願いがありますっ!」

「うん、うんっ!!」


「へ?な、何お願いってっ?」


 突然声を荒げた姉妹の二人に驚きながら聞き返す。

 お祈りポーズでムギュと形を変える、大きな物体は気にしない。


 気にしないったら、気にしない。


「あ、あの私たち姉妹が勝ったら……」

「うん、お姉ぇワタシたちが勝ったら………………」


「うん…………」


 この流れって、何かして欲しいって事だよね?きっと。


 姉妹の二人もある意味、私に巻き込まれた形で、危険な戦いに身を投じる事になる。なら一つくらい何かをしてあげる事なんて些細な事。だから私は。


「うん、私にできる事だったらいいよ。それだけの事してもらうんだもん」


 と、姉妹の目を見て笑顔で答える。

 そんな姉妹の目は、若干潤んでる気がしないわけでもない。


「いえ、お姉さまに何かしてもらうって事ではなく……」

「違うの?ご褒美とかそういった事じゃなく?」


 へ?それじゃお願いっていう単語はどこから?

 何か言い間違った?それとも私の聞き違い?


「違うんだお姉ぇっ!ワタシたちはお姉ぇを……」

「う、うん」

「私たちはお姉さまを……」

「う、うん」


 と今度はゴナタもナゴタも同じように言葉尻を濁して口を開く。


『…………』 

 何となく二人とも顔が赤いような……


 そんな二人はすぅ~と息を吸い込んだと思ったら、



「お、お姉さまを抱かせてくださいっ!!」

「お、お姉ぇを抱かせてくれっ!!」


 なんて、とんでもない事を言いだした。



「はっ? え、えええええええっっっっ!!!!」


「抱くって抱っこの事?」

「はぁっ?ナゴ師匠たちはいきなり何言ってんのよっ!!」

「お、お主たち姉妹は、何を唐突にっ!!そ、そんな事をっ!」

「お、女同士でぇ~~~~~~っ!!」


 二人の突然の告白に、ユーアは首を傾げ、ラブナとナジメは顔を赤くして大慌て。ゴマチは頬を染めて俯いてしまった。


 そしな爆弾を投下した当の二人は「きゃぁっ言っちゃったっ!」みたいに、顔を両手で隠し座り込んでしまった。


『な、な、何で何がこうなったらっ!?』


 そんな二人を見て、何か良い言い訳がないか、やんわりと断る方法がないか、沸騰する頭で必死に考える――――が、



「おい、さっさと次の奴を出せ。どうせ姉妹だろうがな」


 と不機嫌を前面に出したアマジから声を掛けられる。


「ふへっ!?わ、わかったよっ!すぐ行くよっ!」

「ふん、だったら早くしろ。相変わらず忌々しい奴め」


 私たちを一瞥して仲間の元に戻って行く。


 それを聞いてナゴタとゴナタは、


「そ、それじゃ私たち言ってきますねっ!」

「お姉ぇっ!さっきの約束お願いだよっ!」


「あ、ちょ、ちょっとぉっ!」


 私はそんな二人を呼び止めようと手を伸ばすが、二人は「うふふ」「あはは」言いながら、そそくさと早足で広場に行ってしまった。


「スミカお姉ちゃんっ!」


 手を伸ばしたまま固まっている私にユーアが声を掛けて来る。


「な、なにっ?ユーアっ」


 私は動悸を抑えながらユーアに振り返る。


「良かったねっ!抱っこして貰えるよっ!」


 とにこにこしながら何故かユーアが喜んでいた。


「う、うん、そうだねユーア」


 私はユーアの頭に優しく手を置きながら上ずった声で答える。


「うんそうだよっ!スミカお姉ちゃんっ!」


『………………』


 ユーア、あなたが思っている事とはきっと違うんだよ?

 ユーアはまだ子供だから知らないと思うけどね……

 くんずほぐれつなんだよ?百合百合な展開かもよ?


 なんて純粋な目のユーアに言えるはずもなく……


「あはははっ、そうだね…………」

 私はただ乾いた笑いで返すのが精いっぱいだった。



 私、どうなるんだろぅ……




※※※※※ナゴタ視点



「あははっ!お姉ぇ驚いた顔してたなっ!」

「うふふ、そうね。でもそれぐらいしてあげたいからね。お姉さまには」

「うんっ!ワタシもそう思ってたんだっ!お姉ぇにもってなっ!」

「それなら、私たちもナジメみたく勝たないとね」

「うん、そうだなっ! 全ては――――」

「そうね、全ては――――」


「「お姉ぇさまのためにっ!!」



 私たち姉妹は模擬戦の武器をそれぞれ選んで、

 森の広場中央に歩みを進める。


 アマジたちが今日用意した数々の模擬専用の武器の中には、さすがに私たちと同じ武器はなかった。本来なら私が長尺の両剣。ゴナタは超重量のハンマー。


 なので、


 私は普通の長さの『槍』を

 ゴナタは通常の重量の『ハンマー』を


 それぞれ手にし、薄暗い森の中央に陣取り相手を待つ。


『相手は単独でBランク、二人でAランク相当の手練れ。それと私たちと同じ双子ですし、どのような戦いをするかちょっと楽しみですね。それでも負けるわけにはいかないですが』


 私は若干緊張しながらも、そこに愉悦を感じずにはいられなかった。

 自然と口元が緩んでいくのがわかる。

 体の奥底から熱が上がってくるのを感じる。


 早く――


 私は隣の最愛の妹ゴナタを見る。


 早くっ――


「楽しみだなっ!ナゴ姉ちゃんっ!!」


 ゴナタは分かりやすい笑顔を浮かべている。

 妹は色々と素直で純粋で正直だ。


 ――戦いたい。


「そうねっ」


 そして私たち二人は憧れのあの方に――もっと


 もっと近づきたい。

 もっと近くに感じたい。

 もっといろいろ知りたい

 もっと色々教えて欲しい。

 もっと頼って欲しい。

 もっとそばに来て欲しい。


 もっと私たちが受けた恩を返したい。


 その為に、私たち姉妹は存在している。

 私たちはあの方に出会って、そう生まれ変わった。


 だからもっと――――


 あの人の笑顔がみたいっ!


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