第204話まさかの劣勢?姉のナゴタ


※今回はナゴタ視点になります。



『双子の何たるかを勘違いしているこの男たちには、私とゴナちゃんで教えてあげましょう。かなり荒っぽくはなりますが』


 私は上唇を舌で濡らし、相対するアオとウオの双子兄弟を見る。


 顔も、体形も、立ち振る舞いも、声も全てが同一。

 持っている模擬戦専用の双剣も。その構えも。


『……恐らくこの二人の攻撃パターンは、その息の合った動きからくるコンビ技。それと気配を操作して攪乱してからの攻撃もあるはず。それと――――』


「ゴナちゃんっ!気配もそうだけど他にも警戒してね。私たちみたいな特殊能力の保持者かもしれないからっ!」

「わかったよっ!ナゴ姉ちゃんっ!」


 そうして私は長槍を、ゴナタはハンマーを構え攻撃に備える。


「「それじゃ覚悟して貰おうっ!」」


 そう言ってアオとウオは前後に重なり合い、二つに分かれる。

 もうどちらがアオかウオかは見分けがつかない。


「ゴナちゃんっ!!」

「うん分かってるっ!」


 アオとウオは一足飛びでゴナタの前に接近する。

 その速さは私の目で見ても十二分に速い。


「「シュッ!」」

「んんっ!」


 ガガガガッ――――


 ゴナタは4本の剣での攻撃をハンマーを振り回して防ぐ。

 大型の愛用の武器ではないが、器用に扱えている。


「そこですっ!」


 シュッ!


 私は背後からどちらか分からない一人に突きかかる。


『当たるっ!』


 ガキィンッ


「な、いつの間にっ!?」

「ほぉ、咄嗟によく防いだものだっ!」


 私は右側方からの撃剣に、咄嗟に槍を引き戻しそれを弾く。


 ゴナタ一人に二人で仕掛ける内の一人を攻撃したはずが、


『目の前にいたと言うのに認識が追い付かないなんて。いや、違う、攻撃をもう一人にズラすように誘導されていた?』


 私は混乱する頭で男の剣を大きく弾き、男を真正面に見据える。

 これで1対1に持ち込める。


「……さっきのは何ですか?あなたを背後から攻撃したと思ったら、私の横に回り込んでいましたが。もしかして先ほどのバサと似たような能力なのですか?」


 私は無駄だと思いながら双子のどちらか分からない男に問いかける。


 これで答えてくれれば僥倖。

 そうじゃなくても僅かでも反応を見せてくれれば、少しでも情報を得られる。


「一応言っておく。俺はウオの方だ」

 男は油断なく双剣を構えながら口を開く。


「そうなのですか?」

 正直どうでもいいと思いながら、一応答える。


「そうだ。それと能力についてはバサも合わせ、俺たちはみな同じ系統だ。同じ人物に指導して貰ったからな。細かく言えば効果のほどは違うが」


 ウオは私の問いかけに気にした風もなく答える。

 答えてくれれば僥倖だと思っていたが、これはこれで――


「……随分と軽々しく教えてくれるのですね?重要な事を。それほど私たちを脅威と認識してないと言う事ですか?」


「先ほども言ったろう制裁を加えると。それは何も肉体的な事だけではない。お前たちの精神をも裁くと言う事だ。お前たち姉妹は双子としての悪名を今まで馳せてきたようだからな」


「何故そこまで双子に拘るのですか?」


「なあに、簡単な事だ。お前のとこのナジメもハーフと言う事に誇りを持っていたように、俺たち双子も拘りを持っているだけだ。双子としての有用性とその可能性にな」


 ウオはそう吐き捨て、双剣を持ち深く構える。


「……そうですか。尚更私たち姉妹とは相容れないみたいですね、元々そのつもりはなかったとしても。それと能力はそれだけですか?」


 私も長槍の柄を握り直して、ウオに向かい構える。


「お互い相容れないのは同意見だ。俺たちはお前たちを出来損ないだと判断したからな、双子としてバラバラなお前たちを。能力に関しては、お前たちの上位版といったところだ」


「!?上位版っ!!」


「そうだ。お前たちはそれぞれが異なる物を持っているが、俺たちは同じものをそれぞれ使える。だから上位版だと言ったんだ――――」


「っ!!」


 ウオの返答に数瞬戸惑っていると、ウオの姿が視界からブレた。


「速いっ! でもそこですっ!」


 私はウオを目で追いながら長槍を突き出す。


 ギィンッ


「っ!?」


 突き出した長槍はウオが片手に持った剣ですぐさま叩き落とされる。

 そしてそのまま地面に槍先を付けたまま微動だに動かない。


 それは片手で持った剣だけで上から抑え込まれていた。


「ぐぐっ、動かないっ!」


 どうやら俊敏さも、そして腕力も上昇している?


「それではお前の武器を先に奪ってやろう」

「ぐっ、抜けないっ!なら――」


 私は武器を手放し離脱を選択し、目の前のウオから後ろに跳躍する。 


「なっ!?」


 しかし後ろに跳躍した私は、槍の石突が自分に向かって飛んでくることに気付く。

 ウオが私の動きを見て剣で弾いたものだった。


 ガシィ


 私はそれをギリギリで受け止め、そのままウオの姿に突き返す。


「ま、またっ!?」


 ところが長槍を突きだした先にウオはいない。

 気配を置いて、そして高速移動で私の右大腿部に両剣を叩きつけていた。


「うぐぅっ!!あ、足をっ?」


 私は痛みに堪えながらも左側方に跳躍する。

 その直後着地の衝撃で、双剣を受けた右足に激痛が走る。


 武器と言うのは私の機動力の事だと今更ながらに気付いた。


「っ!!」


 私は左足に体重を移しながら長槍を両手で構える。

 そこに更にウオの両剣が叩きこまれる。


 先ほどよりも数倍速く鋭い踏み込みだ。

 

 ガガギィッ!!


 ズザザザ――――ッ!!


 私はそれを真正面で受けるが、右足に力が入らず踏みとどまれない。

 そのまま数メートル地面を削り停止する。


「ぐぐぐっ!」


 ウオの身体能力は、速度それに膂力も更に上昇していた。


『……これは失敗しました。まさかここまで能力が上昇するなんて、しかも気配と身体能力、そして戦闘経験が段違い。どれも高次元で扱いこなして隙がない。非常に厄介です』


 私は分析を終えてウオに視線を移す。


「なるほど。私たちの上位版と言うのは、あなたは俊敏と腕力の両方を底上げできると言う事でしたか。そしてそれはアオも同じものを持っていると」


 私は長槍を構えなおして、目の前に現れたウオに問いかける。

 余裕の表れなのか、手負いの私に追撃をすることなくこちらを見ている。


 ウオに攻撃を受けた右足は――――

 そしてゴナタの状況は――――


『…………体を支える分には問題なさそうですね。それに一度くらいは無理がききそう。あとゴナタはどうなっているの?』


 私は近くにゴナタの気配がない事に気付く。

 ゴナタなら私より立ち回りが上手だろう。


「何やら妹の方を気にしてるようだが、アオとお前の妹は森の中に戦場を移したようだ。どうやら情報と違って妹の方が頭が回るようだな」


「です、ね。妹は私より状況を把握する事に長けているし、それに頭の回転も機転もきく。姉の私に、似ても似つかない程優秀な妹よ」 


 私はウオの視線の先と気配に注意を払いながら答える。


「どうやらそのようだな。それより妹が善戦しているというのに、お前は機動力と言う最大の武器を奪われてこれからどうするつもりだ」


「そうね、私ももうひと踏ん張りしてみるわ。妹に負けていられないから」


 私は槍を前傾に構え鋭く突き出す。


「遅いな」


 だが突き出した槍はウオに簡単に躱される。

 確かに私より速さは数段階上だ。でも


「だったら、今度は私の槍を受けて見なよっ!」


 私はその速さに感嘆しながら、槍を横薙ぎに振るう。


 ブォンッ!!


「無駄だ。お前の非力な攻撃など俺には――」


 ガガギィ!


「っ!?な、なんだとっ!!」


 ウオは長槍を双剣で受け止め表情を強張らせる。

 押し返したくとも、そこからビクともしないようだった。


「んんんっ!」

 ブォンッ!


 私はそのまま受け止められた槍を力任せに振りぬく。


「くっ!!」


 ガィンッ!


 ウオは堪え切れずに双剣を滑らせやり過ごす。

 能力以外にも攻撃を捌く技術も凄かった。


「お、お前の能力は一体――――」



「――ちゃんっ!これ使ってっ!!」


 広場を挟んだ森から私を呼ぶ声と同時に、

 何かがギュンと私目掛けて高速で飛んでくる。


 パシッ!


 私はそれを受け止め、地面に大きく叩きつけた。


 ドゴォ――――ンッ!!


「なっ、なんだとっ!!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る