第205話もしやの苦戦?妹のゴナタ
※今回はゴナタ視点になります。
2戦目の「アオとウオ」との対戦直前のお話です。
『凄いっ!もう、どっちが兄貴で弟かなんて分からないやっ!』
二人が一度重なって、また二人に別れた双子を見てそう思う。
持ってる武器も、構えの角度も姿勢も全てが同一だった。
そこまでお互いに同調する技能に、感動を通り超え畏敬さえ覚える。
ここに至るまでにどれ程の時間と修錬を繰り返してきたのだろうと。
もしかしたらこの世界でも最高峰の技能かもしれない。
ただ、ワタシがそれを目の当たりにして思う事は
『どちらが兄のアオでも弟のウオでも正直どうでもいいやっ!』
だった。
多分この双子は仕草も癖も声も、技だってきっと同じなんだろう?
なら単純に二人に増えただけ。同じ能力や技が二つになっただけ。
種類が増えた訳じゃない。
『って事は、どちらかが使った技はもう一人も使えるんだよなっ!一人のネタがバレたら必然的にもう一人もバレるんだよなっ!それなら――――』
全然凄くないじゃんっ!
それならワタシたち姉妹の方がもっと――
「ゴナちゃんっ!気配もそうだけど他にも警戒してね。私たちみたいな特殊能力の保持者かもしれないからっ!」
「わかったよっ!ナゴ姉ちゃんっ!」
ナゴ姉ちゃんの言葉に返答しながら、武器を持つ手に力を入れる。
「「シュッ!」」
「っと!?」
ガガガガッ
「ぐっ!」
二人はナゴ姉ちゃんに見向きもしないで、ワタシ一人に攻撃を仕掛けてきた。
その4つの剣戟をハンマーで受け止める。
「ぐ、強いっ!」
二人の双剣での攻撃はかなりの速さと重さだった。
ワタシは押し返そうとグッと力を込めるが、
「うん?」
途端、手にかかる負荷が少しだけ弱くなる。
ナゴ姉ちゃんを見ると、双子のどちらかと相対していた。
「……そういう事、か。ならっ!」
「ぬっ!」
ガギィンッ!
スタタッ―――
ワタシはハンマーで双剣を弾き返し、森を目指し疾走する。
『こいつらはワタシを最初に狙ってきたんだよな』
それはこの中で一番倒し易いと考えての事だろう。
この戦場の中で一番鈍足で狙いやすいワタシを。
『なら、ナゴ姉ちゃんがもう一人を抑えてる間に、ワタシはもう一人を引き離す。これならコンビ技なんか関係ないからなっ!』
スタタタッ――
ワタシは森を目指しながらそう思考を巡らす。
それが今の最善だと思って。
わざわざ相手が得意な舞台で戦う必要なんてないからな。
「よし、やるかっ!」
ザッ
ワタシは後ろに振り向きハンマーを胸の前で構える。
「――お前は確か妹の方だな」
直ぐに切り掛かってくるかと身構えていたが
意外にも向こうから、そう声を掛けてきた。
「……お前はどっちなんだい?」
「俺はアオだ。ウオの兄のな」
「ふ~ん、そうなんだ。あ、ワタシは――」
「いやいい。今のやり取りで妹の方だと確信した」
「ん?だから妹のワタシを最初に狙ったんだろう?遅いから」
この機に、ワタシが予想していたことを聞いてみる。
「ああ、そうだ。だがお前の能力は剛腕の類だろう?」
「そうだけど。何でそんなこと聞くのさ」
「いや、必死に森に逃げるお前が予想以上に素早かったからな」
「それで?ってか、ワタシ逃げてたんじゃないぞっ!」
「誘いこまれたのはわかっている。ただ速さに驚いただけだ」
「まぁ、たくさん鍛えてきたからなっ!」
「ふん、そうらしいな。だが――」
「んっ!?」
そう言い終えた男の雰囲気が変わる。
どうやらもう無駄話は終わりみたいだ。
「――だがそれでも俺たちには及ばないがなっ!」
「うわっ!」
アオは即座間合いを詰め切り掛かってくる。
「早いなっ!」
ワタシは向かって来るアオにハンマーを振り下ろす。
そのワタシの攻撃は、
ドゴォッ!と何もない地面を打ち付ける。
「っいない?って、横ぉっ!」
ワタシはそのままハンマーを横薙ぎに振るう。
アオはハンマーを脇に躱してやり過ごしていたからだ。
ブウォンッ!
が、再度振るったハンマーはまたもやアオを捉えられず空振りに終わる。
アオはそれさえも、後ろに短くステップして難なく躱していた。
そして双剣を前面で構え、ワタシとの距離を一瞬で詰めてくる。
「は、はやっ!でもっ!」
ブンッ!
ワタシは即座にハンマーを戻し目前のアオに振り下ろす。
これ以上ない程のタイミングのはず。
「今度こそ当たった――!」
振るったワタシのハンマーはアオの額に直撃し
スカッ
と、そのまますり抜ける。
「えっ?って気配だけっ!?なら」
ワタシは体を捻り後方にハンマーを振り回す。
目の前の姿が偽物なら、後方からくるに違いないと思ったからだ。
そんなワタシの予想は……
ガッ
確かに的中してはいたが、ハンマーでの一撃はアオの双剣一本で防がれていた。
「はぁっ!?ワタシの一撃を簡単に防いだのかいっ!」
「軽いな」
ガゴォ――ンッ!!
「なぁっ!って体がっ!?」
受け止められた事に唖然とするワタシのハンマーは、
アオのもう1本の剣で大きく弾かれる。
その威力は体ごと浮かされる程の力だった。
ワタシは態勢を崩しながらハンマーを手元に引き寄せる。
アオは踏み込みや体捌きの速さだけじゃなく
「その腕力もお前の能力ってわけだ」
そう。この男は速さと腕力の両方を底上げしている。
「ああ、そうだ。俺たちは、魔力を使って脚力と腕力を上昇できる。どちらか一方しかできない、お前たち出来損ないの双子と違ってな」
「俺たち?って事は弟も同じことできるんだ」
「そうだ。俺を映す鏡はウオだ。ウオが俺でアオも俺だ」
「ふ~ん、それって二人でも一人みたいだね?」
「…………どういう意味だ?単純に言葉通りの意味ではないだろう?」
アオはワタシの言葉に訝し気な視線を向ける。
やっぱり同じ双子でも違うんだなぁ。
どれが正しいって正解はないけどさぁ。
でもそれって
「そんなつまんない生き方してるお前たち双子には分からないよっ!出来損ないでもワタシたちの方が楽しいし、毎日充実してるよっ!」
「な、なんだと貴様っ!」
ワタシはそう言い放ち、森の外に向かって駆けていく。
後ろからアオの怒鳴り声が聞こえたけど無視して広場に向かう。
「逃げても無駄だっ!お前の半端な能力では俺からは逃れられないっ!」
「あら、そうなの?」
シュ― ン
「なっ!お前っ!!く、速いっ!?」
アオも魔力で脚力を底上げしているようだが、到底私には追い付けない。
出来損ないとはいったい誰の事だったのだろう。
私は瞬く間に木々が茂る森を抜け、広場に到着する。
そこには――
「ゴナちゃんっ!これ使ってっ!!」
ブゥンッ!
私は持っているハンマーを妹のゴナタに放り投げる。
パシッ!
「ありがとうっ!ナゴ姉ちゃんっ!」
そこには、ゴナタを前にし驚愕の表情のウオがいた。
どうやら私の双子の妹も、同じ双子の片割れに
一泡吹かせたようだった。
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