第206話姉 ⇆  妹




 ゴナタはナゴタから受け取ったハンマーを


「おおりゃっ!!」


 と力任せに地面に叩きつける。


 ドゴォ――――ンッ!!


 その衝撃に、僅かに足元が揺れ地面に大穴を穿つ。

 大の男でも4.5人は入れそうな大きさだった。



「なっ!なんだとっ――」

 それを見て動きを止め驚愕の声を上げるウオ。


「うーん、やっぱり足が痛いから力入らないなぁ」

 と、不満げにハンマーを肩に担ぎあげるゴナタ。


「確かにそうね。でももう無理はしないでね?」

 と、その地面を見てゴナタに同意するナゴタ。


「はぁ、お前のさっきの速さは一体――、そ、それとこの大穴はっ!」

 最後に、ナゴタたちに追いつき目を見開き驚くアオ。


「はいナゴ姉ちゃんっ!」


 ゴナタはハンマーを受け取った際に、手放した長槍をナゴタに渡す。


「ゴナちゃん、足は大丈夫なの?」

 

 ナゴタは長槍を受け取りながらゴナタの足元を見る。


 スカートの中なので患部の状態はわからないが、地面に下したハンマーを支えに右足を浮かせている様子でわかる。


「う~ん、ちょっとだけ痛いけど大丈夫だっ! でもお姉ぇやナゴ姉ちゃんみたく、上手く考えて立ち回りできなかったなっ!せっかく強くなる機会があったのにな……」


 そう言って、少しだけ表情に翳りを見せるゴナタ。

 そのゴナタの今の姿は、金髪のサイドテールに薄青のドレス。


「ふふ、そんなことないでしょ。随分と難しい顔して戦ってたじゃないの。きっとゴナちゃんの為になったわよ」


 そんな妹に微笑みながら、励ましの言葉をかける姉のナゴタ。

 そう声をかけるナゴタの今の姿は、金髪のツインテに赤のホットパンツ。

 そして白のピチT。


「な、お、お前たちはもしかしてっ!?」

「な、中身を入れ替えてたのかっ!?」


「そうですけど」

「まぁ、そうだなっ!」


 姉妹のやり取りを聞いて、すぐさま察したアオとウオ兄弟は二人を驚きの表情で見つめ、姉妹の答えを聞いて今度は困惑する。


 いったい何の意味があるんだろうと。

 なぜそんな事をする必要があるのだろうとも。



「うん?なんか、何でって顔してるな?二人とも」

「そうね、どうも動揺してる風にも見えるわね」


 双子兄弟の様子を見てそう感想を漏らす双子姉妹。


「お、お前らはいつから入れ替わってたんだっ!」

「そ、それに入れ替わってた理由はなんだっ!」


 アオとウオは心底意味が分からないと、声高に質問してくる。


「それは今朝からの話ですね」

「理由はワタシがナゴ姉ちゃんにお願いしたからだっ」


 と、二人は端的に答えるが、


「ゴナちゃん、それじゃ答えになってないわよ?この二人はどうして私にお願いしたかの理由を知りたいのだから」


 すぐさまナゴタに突っ込みを入れられていた。


「あ、そうだなさすがナゴ姉ちゃんだっ!ワタシはあんまり考えないからなっ!だからナゴ姉ちゃんと入れ替わって、お姉ぇやナゴ姉ちゃんみたいに、色々考えて戦いたいと思ったんだよっ!もっと強くなるためになっ!お姉ぇに認めてもらうためになっ!」


「それで、恰好から入りたいってゴナちゃんのお願いでこうなってるって訳ね」


 ゴナタは『これでいいよなっ!』みたいに、ナゴタも含め、アオとウオを見渡し陽気に答えたが、それはでもやはり説明不足でナゴタから間髪入れずに注釈が入る。


「それをわざわざ今日みたいな、お互いの主張を通す大事な戦いでやることなのかっ!個々の違う能力を持ってるのもそうだが、こんな事を許容するお前たちは――――」


「賭けてるものだって、互いには大義と呼べるものだぞっ!それを別々の能力だけじゃなく、それを通すからお前たちは――――」


「だから、出来損ないって言いたいの?それも含めて」

「だからお前たちは二人いても一人なんだよなっ!」


 兄弟の苦言にも侮蔑にも似たセリフに姉妹は言葉を被せる。

 そしてそのまま姉妹は続ける。アオとウオを見ながら。


「確かにあなたたちの言うこともわかります。ですが私たちはこれでも真剣なんです強くなるために。そして偉大なお姉さまに言われたことを忠実に守っているだけなんです」


「そうだぞっ!お姉ぇはワタシたちに楽しめって言ったんだぞっ!人生は長いから楽しまなければ損しちゃうんだともなっ!だからワタシたちは尊敬するお姉ぇの為に、楽しみながら真剣に強くなろうとしてるんだぞっ!」


「なら、お前たちが言うその人物が間違っているっ!」

「こんな愚かなことを教えるそいつがなっ!」


 姉妹の主張に納得がいかない兄弟は声高にそう叫ぶ。


「ふう、ゴナちゃん。この兄弟は愚かだから言葉だけでは伝わらないみたい」

「そうみたいだな、ナゴ姉ちゃん。ワタシらでお仕置きしたいくらいだっ!」


「なっ!どの口がそれを言うっ!」

「お前らが俺たちの制裁を受ける側だぞっ!」


「確かにゴナちゃんの言う通りに、お仕置きと称してお尻に槍を突きたくなるわね。そんな事したら、武器が汚れるから嫌だけどね」

「そうなんだよ。こいつらはお姉ぇにワタシたちが受けたみたいな強烈なのをお見舞いしたいくらいだっ!ハンマーなら大丈夫かな?」


「くっ!よくもお前らは」

「言いたいことばかり抜け抜けとっ!」


 アオとウオの怒声を軽く流して、

 軽口で返す姉妹に怒りをあらわにする兄弟。


 それを見ても姉妹は、特に煽られる訳でもなく会話を続けていく。


「ゴナちゃんその足じゃ辛いでしょ?ケガは後で治すにしてもね」

「う~ん、そうだな、それじゃナゴ姉ちゃんにお願いするかなっ!」

「それじゃ少しスカートを捲ってちょうだい。持ちにくいから」

「うん、わかったっ!」


 そうナゴタに返事をして、ゴナタはスカートを捲り上げる。


 ザッ!っと


「ちょ、ちょっとゴナちゃんっ!?ま、捲りすぎっ!!」

「あ、そうかそうか、ごめんなナゴ姉ちゃんっ!」 


「っ!?」

「っ!?」


 ただし勢いよく捲ったスカートはゴナタの健康的な太腿まで露にする。

 もう数センチでデルタゾーンまでお披露目するところだった。


 それを見て双子の兄弟は一瞬動きを止めるが、

 すぐさま頭を振り雑念を捨てるように口を開く。


「お前たちいい加減しろっ!」

「お前たちは何がしたいんだっ!」


「何って?妹のゴナタがケガしてるんだもの。これじゃ戦いづらいでしょ?だから私がゴナちゃんの足になる。ただそれだけです」


「よし、もういいぞっ!ナゴ姉ちゃんっ!」


 そう言って背を屈めゴナタを背中に背負い、何でもない様子で返答する。


「それで俺たちと戦うつもりかっ!」

「随分とふざけた真似をっ!」


 それを見て更に怒りをあらわにするアオとウオ。


 そのような状態で戦えるか以前に、それに至る思考が愚かだと言わんばかりに。その行為が愚策で舐めていると言わんばかりに。


「別に私たちはふざけてなどいません。私たちがあなたたちの事を理解できないように、あなたたちには私たちがわからないだけでしょう?」


「そうだっ!ワタシたちはこうやってお互いに無いものを持ってるんだっ!だから補っていけるんだっ!お前たちとは違うからなっ!」


 そう言って背中のゴナタはナゴタの背の上でハンマーを構える。


 そこにはお互いに、不安感も違和感も不信感も全く感じさせない、

 不撓不屈の精神の姉妹がいた。


「それじゃ行くわよゴナちゃん。あいつらに双子より大事な事と」

「ワタシたちの強さを教えるためになっ!」


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