第207話スミカの見てるもの




「ナ、ナゴ師匠たち何でお互いの武器を交換してるのよっ! それと、もしかしてゴナ師匠をおんぶしてあのまま戦う気なのっ!」


「スミカお姉ちゃんっ!?」

「ねぇね、あやつらもしかして……」


「うん、今朝から入れ替わってたよ」


 ナゴタのドレスを着て背中でハンマーを振り回してるのがゴナタ。

 ゴナタのピチTとホットパンツを着てドレス姿を背負ってるのがナゴタ。


 ナゴタは長槍を後ろ手に握り、その上にゴナタが座っているようだ。


 そんな奇想天外な状況を見れば、ラブナだけじゃなく、ナゴタとゴナタを知るものであればきっと驚くだろう。いや、そもそも二人を知らなくても同じ事だろう。


 二人が入れ替わった事よりも

 人間を騎馬のようにして戦うなんて事がそもそもないのだから。


「ね、ねぇねは会ったときから知っておったというのか?」

「スミカお姉ちゃん?」


「ううん、最初からはさすがにわからないよ。私がおかしいなと思ったのは、最初に会った時と、ここに来る途中と、広場に向かう二人を見た時。それと確信が持てたのは戦いが始まってからだしね」


「そ、それはもしかして癖とかそういった事なのじゃろうか?」

「あ、あれじゃないっ!話し方とかじゃないの?スミ姉っ!!」


 ナジメとラブナはそんな私にお互いの推測を言ってくる。


「ユーアは分かった?そしてどう思った?」


 私は二人への質問には答えずに、傍らのユーアにまず聞いてみる。


「う~ん、ボクはなんか雰囲気が違うなとしか分からなかったです。話し方とか、癖とかからでは全く分からなかったです……」


 ユーアは人差し指を頬に当て、少し悩みながらそう答えた。


「ユーアお主は何となくでも感づいていたのじゃな?凄いのじゃっ!」

「さ、さすがアタシのユーアだわっ!アタシも鼻が高いわっ!!」


 そんなユーアの返答を聞いて、賞賛の言葉を浴びせる二人。


「え?ち、違うよぉ!スミカお姉ちゃんが入れ替わってるって言ったから何となく思い出しただけだよぉ!凄いのはスミカお姉ちゃんだよぉっ!!」


 そんなナジメとラブナのキラキラ視線に耐え切れなかったユーアは、両手を顔の前でブンブン振って顔を赤くして答えていた。


「いいや、わしは聞いても何も思い出せないのじゃ!さすがなのじゃっ!」

「ア、アタシだってそう言われたら何となくわかっちゃったわよっ!」


 ナジメは純粋にユーアを更に褒めてはいたが、ラブナは自称お姉さんを気取りたいせいか、ナジメのような素直な言葉は出てこなかった。まだまだ背伸びしたい年頃なのだろう。姉としても色々と。


「それじゃスミカお姉ちゃんはどうしてわかったの?」

「そうじゃねぇね。どうしてなのじゃ?」

「う~ん、話し方でも癖でもないんでしょう?だったら何があるのよ」


「うんとね、みんなが言った事全部だよ」


 私はみんなの問いかけにそう答える。

 更に続けて


「あの二人は双子なのもあって、生まれた時からお互いを知り尽くしてるんだと思う。だから表情も癖も仕草も真似できるんだよ。の時には見分けがつかないくらいに」


 私はここで一度説明を止めて三人を見る。


「………………」

「………………」

「………………」


 特に何も意見も質問もないようなので再度口を開く。


「でも、ここぞと言う時には癖が出ちゃう。それは気分が高揚した時にみせた仕草と雰囲気、あと歩き方にも所々出てたね。ナゴタとゴナタの二人の特徴が」


「こうようって?」

「気分が高まった時よユーアっ!」


 首を傾げるユーアに、ここぞとばかりにラブナの説明が入る。


「気分が高まる?」

「そう、緊張したり、ワクワクしたりするとかねっ!」

「そうなんだっ!ラブナちゃんもスミカお姉ちゃんみたいに色々知ってるねっ!」

「こ、こんなの当り前じゃない常識だわっ!!」


 ユーアに褒められたラブナはまんざらでもない表情で、腰に手を当て胸をそらしている。お姉さんとしての威厳を示せたといった様相だ。


「そう、ラブナの言う通り。ナゴタとゴナタと会った時、それと森への道中、最後に広場に向かった時、その高揚した気分が出てたんだよ」


「………………」

「………………」

「………………」


「で、会った時は決意、道中は歓楽 広場に向かう時は悦び、それぞれ二人の違いが僅かに出てたんだよ。表情や癖や仕草にね。そんな感じかな?」


「スミカお姉ちゃん……」

「スミ姉……」

「ねぇねは一体何を……」


「あ、あれ?今の説明じゃわかりずらかった?」


 私は瞬きもせずこちらを見つめる3人に慌てて口を開く。

 ちょっと一気に説明し過ぎた?それとも抽象的過ぎた?


「だって、いくら双子だからって同じに見るのは変でしょ?あくまでもナゴタとゴナタで二人いるんだから。二人で一人じゃなくて、二人は二人で別々の人間なんだからねっ!」


 私は捲し立てる様にそう付け足し、説明を終える。

 だって3人の無言の視線が怖かったんだもん。

 最後の方は自分でも良く分からないことを言ったような……。


「わかったよスミカお姉ちゃん!」

「ス、スミ姉っていつもそんなこと考えてるのっ!?」

「ふむ、さすがねぇねと言ったところか、わしたちとは根本的に見えてるものと、感じてる事が違うようじゃな……」


「よ、良く分かったねユーア! それといつもそんなことばっかり考えてないよ?たまたまだからねラブナ! あ、あとナジメ、私はそんな特別な人間なんかじゃないからね!じゃ、それで私の話は終わりねっ」


 3人の返事を聞いていると、私の言いたかった事が伝わったような気がする。ただそれは私の主観であって、あくまで十人十色。色々な考え方がある。


 だからこれ以上は押し付けになるから言わないほうがいい。


 ユーアやラブナなんかには特に、これから色々感じて学んで欲しいし、自分の意見や信念を持ってもらいたいからね。他人の固定観念なんか植え付けたくないし。


『そういう意味では、あの双子の兄弟と、ナゴタとゴナタは真逆な考え方なんだよね?似て非なるものって感じ。どっちが正しいとかはないと思うけど、私的にはやっぱり――――』


 

※※※※



「はんっ!一瞬面くらったが、そんなふざけた状態で」

「まともに戦える筈がないだろう愚か者がっ!」


 姉の上でハンマーを構える妹を見て、アオとウオは口々に声を荒げる。


「だからあなたたちには理解できないって先程言いましたよね?」

「まともかどうかなんて戦えばわかるだろ。な?ナゴ姉ちゃんっ!」


 そんなナゴタとゴナタは兄弟の罵声を浴びても表情一つ変わらない。


 そこには姉妹の信じる人や、二人の確固たる強い意志があるのだから。


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