第208話激化する双子の戦い




「それじゃナゴ姉ちゃんお願いなっ!」

「了解。それでどっちから行くの?ゴナちゃん」

「う~ん、どっちでもいいよ」

「何で?一応、アオとウオの二人いるのに?」

「だってさぁ、どっちでも一緒だろ?あの二人はっ!」

「ふふ、ゴナちゃんの言う通り。対して変わらないわね」

「そうだよな、違うのは名前ぐらいだっ!」


「キ、キサマ黙って聞いてれば」

「好き勝手にまだほざくかっ!」


「あら?兄弟がうるさいから早速始めましょうか。準備はいい?」

「うん、ワタシはいつでも大丈夫だっ!」

「では行くわよっ!」


 シュッ


 そう言ってナゴタは薄く全身を光らせて、その場から消える。


「は、速いっ!?」

「だ、だがっ!!」


 それでも兄弟はナゴタたちを視界に捉えているようだった。

 そしてすぐさま二人も魔力を流し身体能力を強化する。


「ウオ、そっちに行ったぞっ!」

「ああ、分かったアオっ!」


 アオはナゴタたちの移動先に回り込んで双剣を振るう。


 ザシュッ

 ザザッ


 ナゴタは横なぎに振られた双剣を前に急停止する。


「おっと、危ない。やはりまだ見えるようね」

「そうみたいだなっ!」


「当り前だろう。お前たちの中途半端な能力では」

「俺たちの能力には遠く及ばないからなっ!」


 ナゴタが足を止めた隙にウオは後ろに回り込みアオの言葉に繋げる。


「……なら、もう少し速くしようかしらね」


 シュッ


 ナゴタは二人の速さを見て更に加速する。


「「っ!? 無駄だっ!」」


 それを見てアオの姿も消え、続けざまにウオの姿も消える。


 サ サ サ  


 と、広場には微かな地面を擦る音だけが聞こえていた。



「も、もうアタシには何も見えないじゃないっ!やっぱり凄いわナゴ師匠たちっ!!」

「うむ、両方ともかなりの速さじゃ。じゃが今のままだと、ゴナタを背負っているナゴタが先に追いつかれそうじゃな……」


「………………」

「………………」


 その戦いを見て、ラブナは感嘆の声を上げ、見えているであろうナジメは現状を危惧し、私とユーアは黙って見守っていた。




「そぉれっ!」


 ブウンッ


 ゴナタの掛け声と、風切り音が耳に入ってくる。


「あ、ナゴ姉ちゃんこれ偽物だったっ!」

「うん、やはり気配を視覚化されると、惑わされるわね……」


「「そこだっ!」」


 空振りをした姉妹に、兄弟が挟み撃ちを仕掛ける。


「ナゴ姉ちゃん回ってくれっ!」

「うん、分かったわっ!」


 グルンッとその場で回転をした姉妹は、


 ガガガンッ!!


「くっ!?」

「なぁっ!?」


 と、姉妹に迫るアオとウオの攻撃を次々に弾く。


「次だっ!ナゴ姉ちゃんっ!」

「分かってるわっ!」


 ゴナタのハンマーに武器を弾かれた二人は態勢を崩す。


「そこだっ!」


 そこへすかさずどちらかの背後に回りゴナタはハンマーを振り下ろす。


 ガッ!


「ぐぐっ!!」


 それを頭上で受け止め、苦悶の表情を浮かべる。

 それが兄弟のどちらかは分からないが、そのままゴナタは力を入れていく。


 グググッ――


「潰、れ、ろぉ――っ!!」

「そ、そんな態勢でなんて力だっ!」

「ウオ今行くっ!」


 ゴナタに押されているウオを助けようと、アオがすぐさま駆け寄る。


「ゴナちゃんこっちは任せてっ!」


 ナゴタはゴナタを「ひょい」と宙に浮かして、

 長槍を構えそのまま消える。


 シュ― ン


「な、速い、後ろっ!? がはぁっ!」


 アオはナゴタの速さに驚愕し、背後から長槍の攻撃を背中に受ける。

 そのままゴナタとウオの脇を飛んでいき、地面を削っていく。


「はい、お待たせゴナちゃん」

「うんお帰りナゴ姉ちゃんっ!」


 そしてナゴタは浮いたままのゴナタの下に回り込み、再度背負いなおす。

 飛んで行ったウオは埃まみれになりながらも、双剣を構え立ち上がる。


「はぁ、はぁ」


「うわっ~随分と頑丈だなぁっ!」

「そうね。もしかして魔力で体も頑丈にできるのかしらね?」

「でも一人ずつだとこっちが卑怯に見えるなっ!ワタシたち合体してるし」

「へ?これって合体だったの?それと卑怯?う~んゴナちゃんがそういうなら」


 ナゴタは頷いて、ハンマーを頭上で受けているアオの腹に前蹴りを放つ。


 ボゴォッ


「ぐはっ!!」


 その威力で、双剣を構えるウオの前まで吹っ飛んでいくアオ。


「アオッ!」

「ぐ、俺は大丈夫だ、ただ飛ばされただけだ」


「ゴナちゃんあれでいいの?合体技使うのが不公平だからって一緒にしたけど」

「うんあれでいいんだっ!あいつらは二人で一人だからなっ!」

「ああ、だから二人一緒にして倒したいって事なの?」


 ゴナタは油断なく構えてる双子の兄弟を見て、


「そうなんだよ。あいつらは褒められるのも、怒られるのもずっと一緒だと思うんだっ!二人が何かしても片方だけ褒められればいいみたいだからなっ!」


 と、腕を頭の後ろに回しながらそう答える。

 そこには若干だが、兄弟を見る目に陰りが差したように見える。


「それは仕方ないわね。あの兄弟はそれを望んで、そう生きてきたのだから。私やゴナちゃんが気に病むことではないわ……」


 そんなゴナタの視線に気づき、ナゴタはそう声をかける。

 それは私たちが悪い訳でも、気に掛ける必要もないのだと諭すように。


「うんありがとうなナゴ姉ちゃんっ!それじゃ二人ともここからは本気で行くぞっ!」


 と姉のナゴタの気遣いに気付いたゴナタは、

 すぐさま気分を切り替えハンマーを握りなおす。


「そうね、その方がわかりやすいものね」


 妹のゴナタの言葉に何かを感じたナゴタは兄弟を見据え、ゴナタをしっかりと背負いなおす。そんな二人を見てアオとウオの双子の兄弟は、


「俺たちだって全力で行くっ!そして」

「俺たちがお前たちを倒すっ!そして」


「「俺たちが証明してやるっ!どっちが優れ――」」


 ドッ ゴオォォォ――――ンッ!!!!


「うわっ!あ、足元が揺れっ!?」

「な、なんて威力だっ!?」


「今だナゴ姉ちゃんっ!」

「うん、分かったわっ!」


 ゴナタは二人が口上を言い出した直後に、ナゴタから飛び降りてハンマーを地面に力いっぱい叩きつけた。その恐ろしい程の膂力での一撃で地面がグラグラと揺れ、アオとウオは態勢を崩す。


 そこへナゴタが現れ長槍を横なぎに振るい、二人を巻き込んで吹っ飛ばす。


「「う、ぐっ!!」」


 ズザザ――ッ!


 それでも二人は倒れる事もなく、飛ばされながらも足元から着地する。

 どうやら衝撃を自ら飛んで逃がしていたようだ。


「アオッ!」

「ウオッ!」


 そうして態勢を整えた二人は重なり、すぐさま離れた姿が幾重にもブレる。

 そしてその気配が8人にまで増えていた。


「強いな、ナゴ姉ちゃんっ! あと、また増えたぞっ!」

「ええ、そうねっ!」


 ナゴタは疾走しながらゴナタを回収してそう返事を返す。



 確かに二人の能力も技術も意思も、持っている全てが強かった。

 私たち姉妹が畏敬するほど、この双子は凄かった。


 だったら尚更気付いて欲しい。


 双子は双子である以前に、大事なものがあるということに。


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