第53話心配事と無双準備とラッキースケ〇?




「じゃ、そろそろ開戦と行きますかっ!」



 そう言って私はアバターの背中の羽根を操作してパタパタと揺らす。

 そしてその揺らして出る鱗粉をユーアと私に散布する。


「!? き、消えたぞォ! ってか、あの羽根動くのかァ!?」

「えっ!? 二人とも一体どこに!?」


 私は、そんな驚愕の表情のルーギルをからかってやろうと近付く。


『うっしっし……』


 そんなルーギルは私たちを探そうと腕を前に突き出し立ち上がる。


「ああんッ? スミカ嬢は何処にッ!?」


 そして


 ぷに。


「あァ、なんだァ?」


 ぷに。ぷに。ぷに。


 そんな擬音とともに、私のに触れて確かめるように、にぎにぎしている。


 プチッ。


「こんのぉっ――――!!」


 ある部分に触れている、ルーギルの腕を取る。

 そして襟首も掴み、体を回転させ、腰を跳ね上げ――――



「どさくさに紛れてどこ触ってんのよぉっ――――!!!!」


 ドゴ――――ンッ!!!!


 そのまま豪快に一本背負いを決めた。


「ウゲェッ!?」

 

 そんなカエルがつぶれたような悲鳴を上げてルーギルは気を失った。


 そのショックに私の透明の効果も切れてしまって姿を現す。


「え、ギルド長!? スミカさん!?」

「ちょ、スミカお姉ちゃんっ! なんで?」


「あ、ヤバぁ! やっちゃったぁっ!!」


 私は急いでリカバリーポーションをルーギルに使う。


 すると、即座に目を覚ます。


「ハッ! 一体俺はどうしたんだッ! 確か消えた嬢ちゃんを探そうとして、何かに触ったのまでは、覚えているんだがよォ?」


 上半身を起こして「キョロキョロ」としているルーギル。

 私は混乱している様子のルーギルに近寄る。



「ちょ、ちょっとルーギルっ! あんた私のどこ触ったか、わかっているんでしょうねっ!!」


「んあッ?」


 それを聞いたルーギルは、先ほど触った様に、腕を伸ばして確かめるように、手の平をにぎにぎしている。


 自分なりに思い出そうと、再現しているようだった。


 そして一言。


「ああ、どこって、ォ、感触的によォ?」


 ブチッ!!


 ボゴォ――――ンッ!!!!


 私は本日二度目となる背負い投げをルーギルに決めるのだった。


 そんな私を、


「スミカお姉ちゃん、それはちょっとルーギルさんが可哀想だよぉ…………」

「ス、スミカさん、流石にこの短時間でギルド長を二度もおとすのは……」


「ううっ」


 二人の非難的な言葉と、若干呆れが含んだ目で見られていた。


『………………』


 うん、わかっているよ。

 この場合はだいたい私はいつも悪者なんだよ。


 誰も私の気持ちをわかってくれない。

 私は被害者なのに…………


「うううっ」


 若干涙を浮かべながら、またリカバリーポーションを取り出すのだった。




※※※



 無理やり目を覚まさしたルーギル。そしてユーアとクレハンに、この『M.Swallowtail butterfly(ゴスロリ風)』の鱗粉の効果を説明する。


 この鱗粉を浴びると、透明になれる事。

 鱗粉を浴びた同士なら、お互いに視認出来る事。

 風や素早い動きには、鱗粉が舞って剥がれてしまう事。

 姿は消せるが、気配や匂いは消せない事。


 などの概要を説明する。


「なんなんだよォ、それ、凄えなァ」

「も、もう何が出ても、わたしは、お、驚きませんよ」

「ス、スミカお姉ちゃんっ! 凄いですっ!!」


 ルーギルとクレハンは驚いていたが、ユーアはきらきらした目で私を見ていた。



「と、いう事だから、気を付けて。特に、ルーギルだけは」


 私はルーギルにだけに強調して、警告をする。


「はぁ? なんで、俺だけなんだァ?」


 心外だって顔で私に詰め寄ってくる。


「だって、臭いから」

「……………………」


「説明したでしょう?気配や、 は消せないって」

「おま………………」

「嘘だよ」

「……………………」

「それが嘘じゃなくて、本当の事なの」

「って、結局、お前はァ――――」

「見た所、あいつらは、獣みたいなもんでしょう? きっと嗅覚も優れていると思う。だから本当の事になるのよ」


 私は、私とルーギルのじゃれ合いを、呆れて見ている二人にもそう説明する。


「だったら、すぐに見つかっちゃうの? スミカお姉ちゃん」

「ああ、そうだ、ユーアの言う事は最もだァ」

「そうですね、直ぐに見つかるならば……」


 そんなユーアの質問も二人の言う事も最もだ。


 だけど、


「それじゃ、姿も現して、匂いもばら撒いて、堂々と行けばいいと言うの?敵陣の真っ只中に?」


 私は「心外だ」とばかりに反論する。


「いいや、そうは言ってねえがァ、意味があんまねえんじゃねえかと思ってよォ」


「意味? 意味はあるよ。一瞬でも奴らの、反応を遅れさせれば、それは立派なになるんだよ」


 この辺りの認識の差は、私がいたゲーム内とは大幅にズレている。

 私がいたゲーム内ではその『一瞬』が命取りになる。

 その一瞬で撃たれる事もある。


 やっぱり、このまま行かせるのは危険。

 なら、実際に近い方法でわからせるしかない。


「それじゃ、私はちょっと『消える』よ」


 私は三人に、そうをして、鱗粉散布で姿を消す。


 そして、


「ユーアちゃんっ! 今日も可愛いね」

「えっ?」


 そう、わざと声に出して、


 ユーアの肩に顔を乗せて、耳に息を「ふうっ」と吹きかける。


「あふぅ!?」


 次に、


「クレハン、今日もメガネが似合うね」

「え?」


 そう言って、クレハンのメガネを取る。

 もちろん 33 みたいな目にはならない。


 最後に、


「ルーギルのアホ、ロリ〇ン、どスケベ。私の豊満な○○もみもみしやがって」


 そしてルーギルを

 もちろん軽くだけど。


「くすぐったいよ、スミカお姉ちゃんっ!」

「メガネメガネ」


「ぐはぁっ!」


 そんな三人を確認した後、グルッと素早く回って鱗粉を剥がす。


「ね、これでわかったでしょ? 一瞬の反応の遅れがどれだけ意味があるのか」


「いや、今のは嬢ちゃんの動きが異常過ぎるからだろォ? オークたちが反応できるとは思えねえぞォ?」


 ルーギルは、座り込んだままの態勢でそんな言い訳みたいな事を言う。



「はぁ、あのね。私は事前に『消える』て言って、しかもわざと名前を呼んでまでしたんだよ。それに、透明効果ならば私が素早く動いた時点で、無くなってるはずだよ」


 更に私は続けて、


「あなた達は、私が消える、視覚の情報も、声が聞こえた、聴覚の情報も、持っていて何も出来なかったんだよ。これから強襲するオークは、そんな情報なんて知らないんだよ。奴らが最初に感じられるのは、嗅覚だけ。しかも今は殆ど無風だし、なら一瞬でも姿が見えない私たちは非常に有利なんだよ」


 私は、クレハンから取ったメガネをかけて、三人にそう説明する。

 これでわかってくれればいいんだけど。


「なるほどなァ! よくわかったぜ、スミカ嬢ッ!」

「勉強させていただきました。スミカさん。それとメガネは返していただけると有難いです」

「やっぱり、スミカお姉ちゃんは凄いねっ!」


 よし、なんとかわかってもらえたようだ。



「よし、それじゃ最初は私が奴らの『中心』に行くから、その周りに集まってきた奴らは二人に任せるから」


 私はそう言いながら、自分も含めて透明化鱗粉を散布する。

 これで全員透明人間だ。



「『中心』てそこまでどうやっていくんだァ? さすがに透明でもバレるだろォ匂いで」

「うん?」


 ああ、そうだった。


 みんな私が正面から行くんだと思ってるんだ。

 まあ、ある意味間違ってはないけど。


 私はユーアと手を繋ぎ、足元に透明壁を展開する。

 そして、一歩一歩、透明壁を階段のように展開して昇っていく。



「ああ、なるほどなァ! 空からかァ!!」

「透明な姿で、しかも空から。これなら確かに匂いも見つかりずらいですね」



「んじゃ、私たちは行くから、そっちはよろしくね。それと何かあったら、直ぐにアイテムを使ってね。価値なんて気にしなくていいから。あ、それと、合図はすぐにわかると思うから」


「ルーギルさん、クレハンさん、気を付けて下さいね!!」


 私とユーアは、二人にそう告げて空に昇っていく。



※※※




「…………行っちゃいましたね、二人とも」

「…………ああ、そうだなァ」


 俺とクレハンは、お互いに顔を見合わす。


「アイツら、まるで花畑に散歩に行くみてぇに行っちまったなァ」

「ちょ、ちょっとギルド長っ! 花畑は不吉でしょうっ! いくら空に行ったからって!」

「ああ、違げぇ違げぇ、例えを間違えたんだァ! そうじゃなくてよォ!」

「わかりますよ。姉妹の様に手を繋いで、楽しく街に繰り出すみたいって事ですよね?」

「ああ、そうだァそうだァ!」

「あの二人は、何処に行くのか本当にわかっているんですかね。戦地に向かうんですよ? それに、ユーアさんなんて、なんの装備もなかったですよ。ちょっと心配ですよね」


 クレハンは嬢ちゃんに連れてかれたユーアが心配そうだった。

 Eランクになりたてで、しかもまだ子供だからだ。


 だが


「クレハン、それはこの世界で一番いらねえ心配事だァ! 嬢ちゃんは絶対に『ユーアを守る』 俺が知っている中で『アイツの傍が一番安全』だァッ!」


「ははははわかりますっ! でも強いって意味では、Aランクの『フーナさん』もじゃないんですか?」


「あ、ああ、アイツなァ、強ええのは間違ねぇんだけどよォ色々とんだ。ある意味危ねぇ。危なさでは、ピカ一だァ」


「…………………それはそれでおっかないですね」

「だろう? アイツの使うには近付きたくねぇ、高確率で捲き込まれる」


「なるほど、結構ヤバい人なんですね。で、結局どっちが強いんですかね?」

「それは、俺もわからねえ、どっちも底がまるで見えねえからな。でもよォ……」



 本物の妹のように大事にしているユーアを守る為。

 その為ならきっと嬢ちゃんなら――――


「どうしました? ギルド長」


 そんな事を考えている俺にクレハンが話しかけてくる。



「ああ、なんでもねぇ。なんでもねぇが、楽しみだなァ! クレハンよォ!!」

「はいっ!!」


 どうやら、これから命のやり取りをするって時なのに

 クレハンも俺と同じで楽しそうだった。




※※




 私とユーアは透明壁スキルの階段を昇っていく。


「ユーアには、これを渡しておくから、これで私をしてくれる」

私はそう言って、アイテムボックスより、ゲーム内アイテムを渡す。


「……なんですかこれ?」


 不思議そうに、あちこち見たり触ったりしている。


 私はそんなユーアに説明しようと口を開く。



「ああ、それはね、――――なんだよ」



 多分これが私が思った


 今のユーアに、な『武器』だ。


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