第478話手詰まり?

『さぁ、本来の姿になった、実力のほどを見せてもらおうか。ちょっとマヤメたちの様子も気になるけど、こっちはこっちで余裕なさそうだしね』


 透明鱗粉の効果もあって、何とかバレずに戦いの場に戻った私。

 そこには出会ってすぐに戦っていた、ちんちくりんなフーナはもういない。


 今私の目の前にいるのは、未知な魔法で大人の姿になったフーナだ。

 ダボダボだったローブを着こなし、身長は180を超えていた。


 ただし、成長したのは背格好だけで、中身は殆ど変わらない。

 ついでに胸のカップ数も変わってはいないだろう。恐らくAAランク。



「はあっ!? 私はAランクだよっ! 蝶のお姉さんも人の事言えないじゃんっ!」

「あ、あれっ!? もしかして読心術の魔法とかあるの?」


 心を見透かすかのように、サイズについて反論するフーナに驚く。


「どくしんじゅつ? 違うよっ! さっきからしゃべってたからねっ!」

「え、あ? 違うんだ。あっちこっち行き来したせいで混乱してたよ」


 フーナの返答を聞いて少しだけ安心する。

 心を読まれたら圧倒的にこっちが不利だからね。

 思った事が口に出ちゃう癖には不安が残るけど。



「あっちこっち?」

「ううん、こっちの話。それよりも早く始めようか。この後用事あるから」

「って、消えたっ!?」


 セーフティ解除を使用し、一足飛びでフーナの間合いに飛び込む。

 スキルで大剣を作成し、その勢いのまま胴体目掛けて横薙ぎに振るう。


 ブフォンッ!


 重さを50tまでプラスした為か、尋常ではない風切り音が耳に入る。

 そして未だ隙だらけのフーナに、攻撃が当たる瞬間、


「ん? そこだよっ!」


 ガキィ――――ンッ!


 持っている杖を前面に出して、難なく防がれた。


「ちっ! なら今度は――――」


 すぐさま側面に回り込み、頭上に向けて振り下ろす。

 三角帽子が邪魔だけど、まとめて一刀両断する勢いで振り抜く。


 ところが、


「お? 今度はこっちかな? ていっ!」


 ガギィ―ンッ!


 振り向きざまに上段蹴りを放ち、大剣の一撃を寸前で弾く。



『はあっ!? こっちは50tの一撃だよ? 本当にデタラメ過ぎっ!』


 水が満タンなドラム缶なら、250本相当の衝撃を受けたはず。

 それがバランスを崩すことなく蹴りだけで返され、文字通りに一蹴された。


『じゃ、次は挟撃してみるかっ!』


 フーナの背後にした鉄球型のスキルを展開する。

 それと同時に前面にも、同じく鉄球型を展開する。

 重さは100t。2機で合計200tを一気に叩きつける。



『これで見極めが出来るかも。なんで視認できないほどの速さに反応出来たのか』


 変身前のフーナは反応できなかった。

 だが今の大人版フーナは、見もせずに難なく防いで見せた。


『それに、今まで視覚化したスキルしか見せてない。もし、これも防がれたら、透明自体が通じないことを認めるしかないね……』


 こういった状況も想定して、手の内は未だ残したままだ。

 姿を消しての透明鱗粉での移動も、そしてスキルも。


 まずは透明化したままのスキルを試してみる。



「うひゃっ! 今度は挟み撃ち? でもそんなの今の私には通じないよぉっ!」


 正面、そして背後からの攻撃が直撃する瞬間、体ごと真横を向く。

 そうすると必然的に、前後から左右の攻撃に変わってしまう。


「あ」


 ガシィッ! ×2


 そして驚く事に、両手を広げて、左右の攻撃を手の平で受け止めた。


「ん? こっちが偽物で、こっちが蝶のお姉さんだっ!」


 右手で受け止めたスキルを軽々と叩き落とし、いつの間にか手に持った長杖で、左手にいる私に向けて鋭い突きを繰り出す。


 ヒュッ!


「避けるのは間に合わないっ!」


 予想外のフーナの反撃に、自身の前面にスキルを即座に展開する。

 重さは現段階での最大にしておき、来るであろう衝撃に備える。


 ドガンッ!


「ぐっ!」

「お、当たったっ!」


 長杖での単純な攻撃に、200tのスキルごと後方に吹き飛ばされる。

 透明化したスキルも、最大重量も、これでフーナには通じない事がわかった。



 ズザザザザザ――――


「くっ! やってくれるねっ!」


 草原に向かい数十メートルほど飛ばされたところで、スキルを足場に急停止する。

 そしてお返しとばかりにフーナの頭上にスキルを展開し、そのまま振り下ろす。


「だ~か~ら~、こんな攻撃は通じないって言ってるでしょっ! 次はこっちの番っ!」


 しかしその攻撃さえも片手で弾き飛ばし、追撃とばかりに魔法を放つ。


「『トーチ』っ!」


 杖をこちらに向け、無詠唱で唱えたフーナの魔法。

 それは単なる火を灯すだけの生活魔法のはず。


 だが、その杖の先から放出したものは、



 ゴオォォォォォォ――――――ッ!!!!



 それはドラゴンの口から放たれる、巨大な炎のブレスのようだった。

 しかもその直径は、優に50メートルを超えていた。



「デカ過ぎだってっ! でも魔法ならスキルで防げるはずっ!」


 立方体の透明壁スキルを展開し、その中で身構える。

 前面だけでは恐らく、その余波でも危険と感じたためだ。


 ゴオォォォォ――――――


「よし、規模も威力も関係なく防げるっ! それにしても気になるのは、なんで視認できないスキルを感知したかだよね?」


 私を覆う、巨大な炎の渦の中で思案する。

 気配だけならまだしも、無機質なスキルまで見切られた事に。

 

「実は視えているとか直感だとか、そう言った感じはしなかった。どっちかっていうと、感じた、に近い気がするんだよね。自分の周囲に結界みたいなのを張ってて――――」 


 だとしても感知できる時点で、透明壁スキルの優位性がなくなる。

 更に重量にしても、直接攻撃にしても通じなかった。


 

「う~ん、手詰まり感が半端ないなぁ。今までの戦い方が全く通じないからね。腕力にしても打たれ強さにしても規格外で攻撃が通らないし、しかも見切られてるっぽいし。ついでに魔力切れも期待できないし」


 まるで最終ボスにレベル1で挑むようなものだと思った。


 弱点らしい弱点も見当たらず、戦略も戦術もスキルも通じない。

 単純に強いだけならまだしも、それが理解の範疇を超えたら何もできない。


 そこまでの差が、今のフーナと私の間にはある。

 まさに難攻不落とはこういう事だろう。



「あと残るとすれば、あれを待つしかないかな?―――― でもこの魔法いつまで続くの? 相当魔力を消費してる筈なのに…… ん?」 


 無尽蔵とさえ錯覚する、放出を続ける炎を前に思わず舌を巻く。

 それと同時に、渦巻く炎の流れが僅かに揺らぎ、流れが変化したのを感じた。


 その直後、


「スパイラルマックスぱ――――んちっ!」


 ゴガンッ!


 あろうことか自身が放った、炎の濁流の中を突っ切ってきたフーナ。

 ギュルンと高速回転をしながら、そのままスキルに拳を叩きつけた。


「くっ! 本当にデタラメ過ぎっ!」


 ダメージはないが、さっきの焼き増しのようにまたもや簡単に弾き飛ばされる。意志とは反して強制的に炎の外に飛ばされ、スキルの中で思わず愚痴が零れる。


 そんなフーナも炎でのダメージがないようで、更に次の魔法を唱え始める。


「むむむ、その魔法の壁は本当に頑丈だねっ! 私の必殺パンチで壊れないなんてっ! でもこれならどうかなっ! 『フリージング』」


 スキルの耐久性に驚きながらも唱えた魔法。

 それは指定した座標を凍てつかせる、ただの凍結魔法だった。

 

 ただしフーナの放つ魔法が、普通の威力や範囲なわけがなかった。


 回避も防御も間に合わなかった、私は――――



 ガキィ――――――ンッ!


「あ、しまったっ! その手があった――――」


 そのまま周りの空間ごと氷漬けにされ、スキルの中に閉じ込められてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る