第479話サロマ村での攻防
スミカが変身したフーナ相手に、苦戦を強いられている、その頃。
サロマ村に何の前触れもなく現れた、アドと対峙する3人。
その組み合わせは――――
Bランク冒険者で双子姉妹の、姉のナゴタとその妹のゴナタ。
そしてコムケの街の冒険者ギルド長のルーギルの合わせて3人だった。
そんな3人は、ここに現れたアドの目的を聞き、それぞれに怒りを露にする。
その目的とは、各地の手練れの冒険者を狩ることで、自身より更に強い、主人のフーナの強さを誇示しようとする、愚かで身勝手で短絡的なその思考に、揃って憤りを感じていた。
そしてその標的に今回はナゴタとゴナタが選ばれ、ルーギルは自分のギルドの冒険者をコケにされた事に対して頭に来ていた。
それぞれ戦う理由に違いがあれど、根元のところでは一緒だった。
冒険者を守るという同じ想いを持ち、3人で結託して共に戦う。
そんな流れのはずだったが……
「ルーギルは足手まといですから、他の冒険者たちと街に帰ってください」
「んなッ!?」
「ルーギルがいると邪魔だから、さっさと逃げてくれよなっ!」
「はぁッ!?」
双子姉妹のナゴタとゴナタから、辛辣な言葉を浴びせられるルーギル。
早々に戦力外を言い渡され、邪魔者扱いされる。
「ちょ、お前ら俺の話を聞いていたかッ? 俺もコイツには頭来てんだッ! 他の街の冒険者ならまだしも、俺のギルドの奴らもコケにしやがったからなぁッ! だから参戦するって言ってんだろッ!」
顔は姉妹の方に向き、アドには指を突きつけ、必死に抗議する。
「だからです。あなたがいるからゴナちゃんも私も戦いにくいんですよ」
「そうだぞっ! 気持ちはわかるけど、それだけじゃどうにもならないぞっ!」
「くッ! んなこたぁわかってるぜッ! でもよォ、このままおめおめと帰れるわけねぇだろうがッ! 俺がそもそもギルド長になった理由が――――」
「がう、ルーギルは邪魔だから先に寝てろ」
タンッ!
放置された事に頭に来たのか、拳を握ったアドが瞬時にルーギルの懐に入る。
「てッ!? 速えぇッ!――――」
「させませんっ!」
ガギィッ!
「がう?」
反応が遅れたルーギルの前にナゴタが割って入り、両剣の柄で攻撃を受け止める。
「く、なんて怪力――――」
だが、見た目に不釣り合いな力で、ギリギリと押し返される。
「ナゴ姉ちゃんっ! 任せろっ!」
「俺も行くぜッ!」
そこへ、ゴナタは背後からウォーハンマーを、ルーギルはナゴタの背中から出て、双剣を握り、無防備なアドに向けて、二人同時に武器を振るうが、それも、
ガシィッ!
「ルーギルにはこれだ。がうっ!」
「はぁっ!? ワタシの一撃を片手で――――」
「なッ! そこから出すのかよッ!? ぐふッ!」
ゴナタの背後からの攻撃は、反転したアドの小さな手の平で止められ、
ルーギルは口から放たれた、氷の塊を双剣で受け止め切れずに後方に吹き飛ぶ。
「ルーギルがっ!? ナゴ姉ちゃんっ!」
「わかってるわっ!」
シュ ――ン
廃屋に向け飛ばされたルーギルを、慌ててナゴタが俊敏の能力を使って追う。
余りにも勢いが強すぎて、危険だと判断したようだ。
ドガッ!
廃屋に激突する寸前で、ナゴタが背後に回り込み、ルーギルを受け止める。
「うがッ! って、なんで蹴りで受け止めてんだよッ! 痛てぇよッ!」
「触りたくないからです。お姉さまなら喜んで受け止めますが」
「く、この姉妹も嬢ちゃんみてえに俺を雑に扱うんだなッ!」
痛みで引き攣った顔で背中をさすりながら、訝しげにナゴタを睨む。
「それよりも構えてください。ゴナちゃんもギリギリですから」
ナゴタが睨む視線の先では、巨大なハンマーを何度も振るっているゴナタと、その超重量の攻撃を素手で弾き返しているアドが映っている。
ドガ、ドガ、ドガガガガ――――――ッ!!
ガッ ガッ ガッ ガッ
「くぅ、一体何者なんだよっ! お姉ぇ以外にワタシの攻撃を簡単に防ぐなんてさっ!」
「がう、簡単じゃないぞ? それなりに痛いぞ?」
そうは言うが、攻め続けるゴナタの表情と見比べても、その差は歴然だった。
全身の筋肉を使い、歯を食いしばり、全力でハンマーを振るうゴナタに対して、直立不動のまま、両腕だけで捌くアドの表情には、まだまだ余裕があった。
「こうなったら――――」
いつまでも攻撃が通らないさまに、業を煮やしたゴナタの体が薄く光り始める。
ゴナタの持つ特殊能力
『20 times.Strength』
先天的に持つ超剛力を、更に一時的だが20倍まで上昇できる。
これが『剛力の嘲笑』と呼ばれたゴナタの能力。
未使用時でも、自身ぐらいの大岩を持ち上げられるほどの剛腕だ。
それを20倍まで引き上げる。
2tの岩をも苦も無く、持ち上げられるその膂力を。
「これならどうだっ! いっけ――――っ!」
ブフォンッ!
両手持ちで頭上に振りかぶり、ありったけの力で振り下ろす。
自身よりも小さい子供に、容赦なく叩きこむ為に。
今までのやり取りで、ただの子供ではないと理解した。
だから加減なんか出来るわけがない。
『それに、ここで負けちゃったら、アドの考えじゃないけど、お姉ぇの顔に泥を塗る事になっちゃうからなっ! だから全力で行くだけだっ!』
今出せる、ゴナタの想いと力を乗せた一撃は、それでも――――
ドゴォ――――――ンッ!!
「がうっ! どうだっ!」
頭上に挙げた小さな両手で、寸前のところで受け止められていた。
「なっ!?」
「ゴナちゃん、武器を引いてっ!」
「えっ!?」
渾身の一撃を止められ、唖然とするゴナタに叫ぶナゴタ。
ゴナタからは見えないハンマーの死角で、アドが拳を振りかぶっていたからだ。
「がうっ! お返しだぞっ! 飛んでけぇ―――っ!」
振り下ろしたハンマーの死角で、アドが突き上げる様に拳打を叩きこむ。
ドガンッ!
「うわ――――――っ!!」
凡そ見た目では、想像できないほどの威力で、ゴナタはハンマーと一緒に回転しながら弧を描き、数件の廃屋の屋根を超え、数十メートル飛ばされ消えた。
「おいッ! ゴナタが飛ばされちまったぞッ! あの高さはヤべぇんじゃねえかッ!?」
既に姿が見えなくなり、何処かへ落ちたゴナタを心配するルーギル。
「ゴナちゃんは大丈夫ですっ! それよりも今度はこっちに来ますっ!」
気に掛けるルーギルに警戒を知らせる。
アドがこちらを向き、笑顔で歩いてきたからだ。
飛ばされた妹の安否が気にならないわけではない。
この世界に残された、たった一人の家族なのだから誰よりも心配している。
だが、今のナゴタには余裕がなかった。
最愛の妹の、最大の攻撃を受け止めたどころか、反撃をした存在を前にして。
『ゴナちゃんは大丈夫。
最愛の妹が受けた借りを100倍にして返すことだ。
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