第463話お仕事二日目と犯人捜し




『ケロロ~っ!』


「ふぁ~、よく寝た。起こしてくれてありがとうね、桃ちゃん」


『ケロロ』


「それじゃ、顔洗ってご飯食べに行こうか」


『ケロ』


 ノトリの街に来て、二日目の朝。

 私と桃ちゃんは一緒のベットで目が覚めた。

 桃ちゃんをユーアのように抱き枕にして、ゆっくりと眠れた。


 『あしばり帰る亭』


 この街一番の宿屋兼、食事処で有名な、しかも最高級の部屋に泊った。

 現代風で言えばスイートルームのような、普通では手が出ない部屋で目が覚めた。


 ふかふかのベッドもそうだが、置かれている調度品も何処か高価に見える。

 私にはそう言った知識はないが、至る所が他とは違うものだとわかる。


 少し狭いがお風呂があったり、大理石でできた化粧台もある。

 踏むと沈む、柔らかな絨毯も敷き詰めてあり、ちょっとしたバルコニーもある。


 さすがに現代の最高級ホテルとは比べ物にならないが、それでもこの世界ではかなり豪華な部屋なんだと思う。快適さで言えばレストエリアには敵わないまでも十分居心地は良かった。



「ん、澄香おはよ」


「うわっ!」

『ケロっ!?』


 もう一つのベッドからマヤメがむくりと起き出す。 


「ん、なんで驚く?」

「いや、いい加減気配消すのやめてよ。心臓に悪いよ」

「ん、別に普通にしてる。マヤは悪くない」

「あ~」


 そうだったね。


 マヤメの言う通り本人は悪くない。悪いと言えば忘れていた私だ。

 この街に着くまでに聞いた、マヤメの正体について頭から抜けていた。


 気配云々よりもマヤメには、そもそも気配自体が存在しないんだって事を。



「とりあえず顔洗ってきなよ。その後は朝食にするから」


 眠たげな眼のマヤメにタオルを投げて渡す。

 と言ってもはジト目でわかりにくいけど。


「ん、そうする」


 瞼を擦りながら洗面所に消えて行った。

 私たちはマヤメが戻った後で、桃ちゃんと一緒に顔を洗い部屋を出た。



「ん、それどうやって付いてる?」

「わかんない」


 1階に続く廊下を歩いていると、マヤメが私を見上げ聞いてくる。

 頭に大人しくくっついている桃ちゃんを不思議に思ったみたいだ。


「ん、マヤにも貸して」

「はい」


 ピト


「ん、くっつかない」

「え? あ、本当だ。何でだろう?」

『ケロ?』


 ご希望通りにマヤメの頭に乗せたが全然くっつかない。

 桃ちゃんも不思議に思ったらしく、可愛らしく首を傾げていた。

 どうやら自分の意志では吸着出来ないみたいだ。



「ん、もういい。マヤにはこれがある」


 どこか対抗するように、突然何かを取り出すマヤメ。


「麦わら帽子? でも建物の中では変だよ」

「ん、なら外に出る時に被る。それで澄香と一緒」 

「まぁ、それならいいけど。それでも一緒でもないけど」

「ん、別にいい」


 どこか不機嫌になって帽子をしまう。

 そもそも桃ちゃんと帽子を一緒にしないで欲しい。


「あ、ご飯食べたら街を見て、またシクロ湿原に行くからね」

「ん、マヤもそれでいい」

「なんか養殖しているキュートードが盗まれているみたいだから」

「ん、わかった」


 この情報は、ここの店主兼、料理長が教えてくれた。

 昨日から、養殖地の中のキュートードの数が激減していると。


 今日もどうせ行く事になるので、ついでに調べてみようと思った。

 依頼ではないが、色々とこの街には贔屓してもらってるからね。


 なので朝食を食べて、少しブラブラしてから向かう事にした。


 ((あ、メド。あの二人はシクロ湿原に向かうみたいだよっ!))

 ((ん、なら先回りして待ち伏せするのが最善))

 

 けど、私たちを尾行している存在には気が付かなかったけど。



――――



「みんな~、今日も私が来たよ~っ!」

『ケロロ~っ!』

「ん」


 シクロ湿原に到着し、広大な湖面に向かって声を張り上げる。

 桃ちゃんも頭に上から降りて一息鳴く。


「ん、ここ一帯が養殖しているとこ?」

「そうだね。向こうに杭が刺してあるからこの付近だと思う」


 遠目に見える一定間隔にある杭を指差して答える。


 『シクロ湿原』


 全長が20キロ以上にも及ぶ広大な湿原。

 面積で言えば、某ドームが約5000個分の広さだ。

 深さは凡そ1メートル位、透き通った淡水で小魚も豊富だ。


 そんな広大な湿原には巨大な橋がいくつも設けており、10数キロ先にある中央の展望台から各地方に渡れるように分岐している。観光客、そして運搬にも大いに利用されており、ノトリの街にとっても流通の要となる重要な橋だ。

 

 私たちはノトリの街から到着し、湿原をグルっと回った北東の畔に来ている。

 ここら一帯がキュートードの養殖地と聞いてここまで来た。

 


「私たちは少し調べものがあるから、桃ちゃんは遊んできていいよ。ここにいても退屈だもんね。後で呼ぶから楽しんできてね」


『ケロロ?』


 ピュン


 桃ちゃんを頭から降ろすと、湿原を少しの間見渡した後で水面に飛び込む。

 そして桃色の花を咲かせたままで、スイスイと泳いでいった。



「さて、それじゃ少し見張っていようか? 今日も泥棒が来るかわからないけど」


 湿原を見渡せる距離まで下がり、テーブルセットを取り出す。

 今日も昨日に続き快晴で、少しだけ強くなってきた日差しが心地よかった。


「ん、待つ」


 メヤは椅子に腰かけて麦わら帽子を被り目を細める。

 眠いのか何なのかリラックスモードになっていた。

 

「こんなゆっくりするのは久し振りだよ。景色もいいし、キューちゃんもいて最高だよ」

「ん、澄香はお疲れ?」

「まぁね、でも私だけじゃないからね」


 マヤメに答えながらそっと目を閉じる。

 肌を撫でる暖かい風と、照りつける日差しが気持ち良かった。



『うん、大自然に囲まれてのんびりするのもたまにはいいね。確かに最近はバタバタしてたからね。今頃みんなもゆっくりしてるのかな? 私がいないからね~』


 ここにはいない、ユーアたちと街のみんなを思い浮かべる。

 みんなが忙しいのは私のせいかなと、ちょっとだけ思っちゃったけど。



「んっ? 澄香。向こうで水飛沫が上がったっ!」


 少しだけまどろんでいると、マヤメが大声を張り上げる。


「えっ!?」


 すぐに目を開け、マヤメが見ている方向に視線を移す。

 するとその方角には、小さな飛沫が上がったのが確認できた。



「もしかして犯人かもっ! よし、確かめに行くよっ!」

「んっ!」


 こうして私の安らぎの時間は、たったの数分で終わりを告げた。


 

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