第464話強襲!? ピンクの災害幼女




「よし、なら先回りしようメドっ!」

「ん、それが最善」


 私とメドはインビジブルの魔法で姿を消し、蝶の冒険者が来るのを待っていた。 

 そして宿の廊下で、メドに似た少女との会話を盗み聞きする事に成功した。

 断片的だったけど、街を見てからシクロ湿原に向かうとの情報を手に入れた。



『はわわ~、それにしても本当に――――』


 美少女さんだねっ!


 メドの大人バージョンのような可憐な少女に、小悪魔的で凛々しい蝶の少女。

 タイプ的には光と影みたく正反対だけど、その違いがまた良かったりする。


 ただ蝶の少女の頭に、キュートードが乗っている理由がわからないけど。



「ん、フーナさま。早く行くっ」

「はへ? う、うん、わかったっ!」


 二人を覗き見ている私の服を引っ張り催促するメド。

 少しだけ語尾が強く聞こえたのは気のせいかな?


 

――――



「さ~て、それじゃあの子らが来るにはまだ時間があるから、キュートードでも狩ろうかな? 昨日の分は全部調理してもらったしねっ!」


 蝶の少女たちよりも先に到着したシクロ湿原を見渡す。

 相変わらずたくさんの花びらが水面を華やかに漂っている。


「ん、わかった。でもほどほどに」

「え~、でもあんなにたくさんいるんだよ? 昨日と同じくらいなら大丈夫だよ」

「ん、確かにフーナさまの言う通り。でも――――」

「大丈夫だってっ! あの杭の外にはもっとたくさんいるんだからねっ!」

「ん、杭?」

「それにアドたちもたくさん食べるでしょ?」

「ん」

「あとメイドのシーラちゃんだって好物って言ってたしっ!」

「ん、なら仕方ない。わたしも手伝う」

「よしっ!」


 少しだけ心配するメドを説得して、二人でキュートードを狩る事にした。


 お屋敷に帰った時の、みんなの笑顔を思い浮かべてウキウキしながら。

 メドもシーラちゃんの名前を出したら、やる気になったみたいだし。


「なら目標は100匹ねっ! どっちが早く狩れるか競争しようよっ!」

「ん、魔法は使っていい?」

「いいよっ! ただ範囲魔法はダメだよ? 跡形もなくなるから」

「ん、わかってる。素材がダメになる」

「で、もしわたしが勝ったら今日は膝枕してくれる?(素っ裸で)」ボソ

「ん、勝ったら」

「よしっ! 更にやる気が出たっ! 今日は色んな意味でご馳走だぁ~っ!」


 グッと拳を握り大きくガッツポーズをする。

 因みに握っている拳は萌え袖のせいで見えない。


 でもこれで言質が取れたっ!


 今夜はメドのツルツルのおみ足をスリスリできる。

 うつ伏せで膝枕してもらって、思う存分メド成分を堪能できる。


 間違ってペロペロしても良いよね?

 寝ぼけた振りして誤魔化せばいいよね?

 美味しかったってお礼を言えば、きっと許してくれるよね?


 ザバ――――ンッ!


「うりゃりゃりゃりゃ――――っ!!」

「んっ! フーナさまズルイっ!」


 メドが魔法を唱えるより早く湿原に飛び込み、片っ端からキュートード狩っていく。

 水面を裂くように爆走し、その余波で浮いたキュートードに、風の魔法を撃ち込んでいく。


「ん、負けないっ!」


 私よりも一歩遅れ、メドも火の魔法『ファイアアロー』を数十本周囲に展開し、水面に浮かぶ花びらに撃ち込んでいく。あっという間に水面に、大量のキュートードが浮いてくる。


「うわっ! そっちの方が早いっ!」

「ん、フーナさまには負けない」


 メドの方を振り向くと、若干あっちの方が早い気がする。

 魔法一発一殺に対し、私の場合は走りながらだから遅れるようだ。

 そもそも魔法の扱いはメドの方が上なので、更に分が悪い。



「スピードアップっ! うりゃりゃりゃ―――――っ!」


 ズババババ――――ンッ!!


「んっ!」


 シュパパパパ――――ッ!!


「よしっ! もう少しだっ!」

「んんっ!」


 私とメドの白熱した勝負は、私が追い抜いたままで逃げきれそうだ。


「あと5匹っ!」

「ん、マズイっ!」


 このままいけば、今夜はメドの生足を独り占めだ。

 ペロペロサワサワプニプニと、この世の天国を堪能できる。


「ぐヘヘヘヘヘ――――っ! あと1匹っ!」

「んっ!」


 なんて、ここに来た目的も忘れ、夢中になっていると――――



「あのさぁ、ここ狩りが禁止って知ってる?」

「ん、ダメ」


「へ?」 

「ん?」


 唐突に現れた二人に声を掛けられ、顔を見合わすメドと私。


 一人はメドを大人にしたような少女。

 もう一人は…………


「狩りをするのは自由だよ、ただし他の場所ならだけど。それと、そんなゲーム感覚で倒されるキューちゃんの気持ちを考えた事あるの? 命を何だと思ってるの?」


 もう一人は、黒のゴスロリドレスに、羽根が生えている美少女だった。

 しかもかなりご立腹の様子で、険しい表情で睨んでいた。



『ま、間違いないっ! この少女は――――』


 この世全ての幼女の敵の、蝶の英雄だっ!



――――



「ねぇ、聞いてる? 私の話」


「………………」

「………………」


 マヤメと私が現れてから、顔を見合わせて固まる幼女二人。

 時折眉が動くから、何かしらの意思の疎通をしている事はわかる。



『…………この子供は一体何者?』


 水飛沫を見付けてここまで来たが、その道中で普通じゃない事は理解した。


 ここはまだ水深が浅いとはいえ、何の抵抗も感じる事なく疾走する子供。

 サイズが異常に大きい、ピンクのローブを身に纏っている。


 もう一人は、服装の色は真逆だけど、マヤメと似た容姿の子供。

 無数の火の魔法の矢を扱い、難なく全てを命中させている。


 こんな子供が普通の訳が無い。

 脚力にしても魔法にしても、私がこの世界で見た中でも上位のものだ。



「………………きい……て、るよ」


「え?」


 ピンクの子供が何かを呟いたけど聞き取れない。


「なに? もう一度言って? 言い訳なら一応聞くけど」


「聞いてるよっ!」

「んっ!」


 突如ギンと私を睨み、鋭い視線を向ける二人。


「なんだ聞こえてるじゃん。なら――――」


「聞いてるよっ! あんたが子供たちを無理やり働かせて、言う事を聞かないと、しちゃうって脅している事をっ! その隣の美少女もそうなんだってっ!」


「ん? フーナさま。ちょっと話が違う?」

「ん? マヤって脅されてるの?」


「はぁ? それどこで聞いたの? そもそも今の話と関係は………… ある、みたいだね? あなたにとっては。今ので良く分かったよ」


 憤るピンクの子供を見て納得する。

  

 何故なら、その子供から発する殺気は、この世界でも、元の世界でも感じた事もない程強力なものだったから。

 私のように見た目と中身は別物だとわかったから。



「マヤメっ! 一旦避難してっ!」

「んっ!」


 マヤメが能力を使って、私の足元に消えた。

 これなら数分間は安全でいられる。



 ギュンッ!


「この色情の英雄めっ!」


 ピンクの子供が一足飛びで、私の間合いの中に飛び込んでくる。

 いつの間にかその手には、長柄の杖が握られていた。



「って、魔法使いの格好なのに接近戦ってっ! しかも誰が色情だよっ!」


 ギリギリで反応し、攻撃が来るであろう、左脇腹を庇う。

 重さ10tの透明壁を、丸盾のように展開して。


 ところが、


 ドガンッ!


「ぐっ! って、防げないっ!?」


 ギュンッ!


 全く威力を相殺する事なく、小石のように飛ばされる。

 普通ではないと感じていたけど、想像以上に強い。



 タンッ


「マヤメ大丈夫っ!」


 透明壁を足場にし、数十メートル飛ばされたところで着地する。

 その際に、一緒に飛ばされたマヤメの無事を確認する。


「ん、問題ない」

「ならそのまま隠れててっ! 隙を見て透明壁で覆うから」


 追走してくるピンクの子供を視界に収めながら、足元の影に声を掛ける。



「んっ! 澄香、左に飛んでっ!」

「っとっ!」


「ん、外したっ!」


 私が立っていた水面に、無数の炎の矢が突き刺さる。

 その矢はもう一人の、マヤメに似た子供が放ったものだった。



「んっ! 今度は前っ!」

「わかってるっ!」


 矢を避けると否や、待ち構えたようにピンクの子供が追って来る。

 恐らくだけど、魔法の矢で回避先を誘導されていたようだ。



『ふっ! 中々に良い連携だね。動きも魔法もかなりのレベルだよ。だけど気になるのは、そんな実力者がなぜ私を目の敵にするの?』


 攻撃を避けながら、その横顔を見るが、見覚えが無い。


 ただ分かっている事は、相手が私を敵と認識した事。

 そして私が相手を敵と認識した事。


 戦う理由はそれだけあれば十分。

 双方の意志が合致すれば、それは正当な理由に足り得る。

 


「ん、思い出した澄香っ!」

「何を?」


 不意に足元のマヤメが叫ぶ。


「あの子供はAランク冒険者のフーナとその家族のメド」

「………………マジ?」

「ん、マジ」

「はぁ、なんでそんなのに狙われるのかわからないけど――――」

「ん? けど?」


 向かってくるなら返り討ちにするしかない。

 私もあの子供たちに苛ついているんだから。


 キューちゃんたちを、無作為に無作法に無造作に狩ったことは許せない。

 まるでゲームのように競って、か弱い命を無情に摘むのは腹が立つ。


「だったら私も――――」


 その幼い命をゲームのように、もてあそんでんでやろうか。


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