第153話みなさまのおかげですっ!
※今話はクレハン視点のお話になります。
澄香とナジメの話が終わる少し前からになります。
「……一体中で何やってんだァ? ナジメと嬢ちゃんは」
「多分ですが、ユーアさん絡みではないでしょうか? ナジメさんがユーアさんを攻撃した時から、スミカさんの表情が一変しましたから……」
「ああんッ? それじゃ俺がナジメにユーアの事を話したって事も、ナジメの口から出るって事かァ?」
「お、恐らくは……」
「ヤ、ヤバえなッ! それは。いや、でも俺はただ忠告をだなッ!」
「あっ! お二人のお話が終わったみたいですよ?」
訓練場の中心付近の、スミカさんが作成した黒の壁が消滅し、ナジメさんとスミカさんのお二人が姿を現しました。
ナジメさんの上には姿を隠す前と同じように、重しのような魔法壁が乗ったままでした。
その脇にはスミカさんが胸の前で腕を組み立っています。
「何いッ!? クレハンとギョウソ後は任せたッ! 俺はちょっとギルドに――」
「ええっ! ギルド長、それは――――」
「ルーギルさんっ!?」
ギルド長はお二人の姿が現れると同時に、慌ててギルドに向かいますが、
「ちょっと、もう話終わったよ? ルーギル」
「あッ!?」
「………………」
「………………」
スミカさんに発見され呼び止められてしまいました。
「で、待たせちゃってごめん。ナジメ領主との話は終わったからもういいよ。それでどうなったの? あ、それとルーギルは後で話があるから逃げないで」
「お、おうッ!」
「…………………」
「…………………」
逃走は間に合わず、近づいてきたスミカさんに釘を刺されてしまいました。
すると、
「うわ~~、もうわしは降参したのじゃ! この英雄スミカに負けたのじゃ~! だからわしはこの街を救った褒美としてスミカの願いを叶えるのじゃ~! それとナゴタゴナタ姉妹の件は、わしも面倒を見るのじゃ~! だから安心して欲しいのじゃ~~!」
「お、おいッ! ナジメ?」
「ナジメさま?」
「………………」
スミカさんの話が終わった途端、未だに壁に挟まれているナジメさんが宣言するようにそうおっしゃいました。
『う~ん、………………』
これってやはりスミカさんが…… ですよね?
それとあまり演技は上手ではないようですねナジメさんは。
「と、言うわけだから、試合は私の勝ちでいいよね?」
「そ、それでいいのじゃ~! だから早く壁をどけてくれなのじゃ~!」
スミカさんは、ナジメさんに視線を向け、そして周りを見渡しそう言いました。
「お、おうッ! ってかお前らが中に籠る前に、ナジメが負けたって宣言してたから、こっちはそれで話が終わってんだよ。だから文句なしにスミカ嬢の勝ちだぜッ!」
「え、そうなの? 私たちが話し合ってる間に?」
「ああッ! こっちはとっくにそう宣言しちまってるぜ?」
「…………まあいいけど。何かあっけなくない?」
それを聞いたスミカさんは目を丸くしていました。
当事者がいない内に決着が付いていたらそう思うでしょうね。
「ならもう一度宣言することにしようぜッ? よく考えたら本人がいた方が盛り上がってた筈だかんなッ!」
と告げて、ギルド長はスミカさんの細い腕を持ち上げます。
そして、
スゥ――――
「――――とうとうこの街の英雄スミカはBランクの双子姉妹だけではなくッ! この街の領主で元Aランク冒険者のナジメまでをも負かしちまったァッ! これがこの街を多くの魔物から救った英雄スミカだァッ! お前らその雄姿をしっかりと目に焼き付けやがれぇ――――ッ!!」
大勢の人たちに向かって、叫ぶように声高らかに宣言しました。
「えっ? ルーギルまたっ! そんな事言ったら――――」
そんなギルド長を見て、文句を言いかけるスミカさんでしたが、
「「「うおぉぉぉぉぉ――っ! スミカァァ――っ!!!」」」
「えっ!? って、きゃぁっ!」
この訓練場に響き渡るほどの歓声に、可愛らしい声を上げて耳を塞いでいました。
『スミカっ!』『スミカっ!』『スミカっ!』
『スミカっ!』『スミカっ!』『スミカっ!』
そしてコムケ街を救った英雄の名前を連呼し始める大勢の観衆たち。
更に、
「ナゴタゴナタ姉妹も強かったぞぉっ!!」
「あんま見えなかったけど、姉のナゴタも凄かったぜぇっ!」
「ああ、でも俺はバッチリ見えたけどなっ! 紐パ〇」
「妹の方も軽々とあんなデカい武器を降り回してびっくりしたぜっ!」
「ああそうだなっ! デカいのは武器だけじゃなかったけどなっ!」
「それとスミカのパーティーバタフライシスターズも良かったなっ」
「うん、みんな可愛いくて美人ぞろいだしなっ! スタイルもいいしよぉ」
「はぁ? 美人は認めるがスタイルはみんなじゃないだろ?」
「お、お前今それを言うか? スミカやユーアちゃんに失礼だろう?」
「ああ、迂闊だったそうだなスミカやユーアに悪かったなっ! ゴメンゴメン!」
「「「っ!?」」」
ナゴタゴナタ姉妹と、シスターズの皆さんにも歓声が上がっていました。
そしてスミカさんと同じように、唖然としている仲間のみなさん。
『ふふっ』
わたしはその光景を見て、自然と頬が緩くなってしまいました。
でも街や冒険者の皆さん。
禁則事項ですから本人の前では言わないで下さいね?
さすがのスミカさんでも、双子姉妹に圧倒的に劣る、
――
一方で、スミカさんと顔見知りのログマさん夫妻。そして隣にはニスマジさん。
「ルーギルから聞いてはいたが、スミカは本当に強かったなカジカ。久し振りに体を動かしたくなった。あんな戦いを見せつけられたらな」
「ええそうねっ! ユーアちゃんだけではなく、街も姉妹も救うなんてねっ! 私もウズウズしちゃったわっ!」
「うんそうねっ! わたしもゾクゾクしちゃったわよぉっ! ねえ?ログとカジ。わたしたちもう一度冒険してみない? 商売の事じゃなく、純粋に冒険したくなぁい?」
そして私とギルド長も顔見知りの大豆工房サリューの親子。
その近くには警備兵のワナイさんも。
「な、何だったんだ? あの戦いは…… メルウ、俺たちもしかしたらもの凄い人に救って貰ったかもなっ! スミカさんはきっとこの先も、色々な人たちの為に活躍する気がするなっ! ガハハハハッ!!」
「スミカお姉さんがあんなに強かったなんて知らなかったのっ! あんな凄い人と知り合いなんて嬉しいのっ!!」
「ふう~、最初は半信半疑だったが、まさかスミカがあの姉妹にも、更に元Aランクのナジメさんにも勝っちまうとは…… 街中駆けずり回って人を集めたかいがあったってもんだなっ!」
最後に。
この模擬戦を行った目的の冒険者たちは――――――
「あれがBランクの姉妹の本気。そしてAランクの実力があれほどの物だったなんてな……」
「……俺たちを無差別に攻撃してきたあの時の姉妹は、全然本気じゃなかったんだ。今の戦いをみてハッキリとわかった。俺たちはあれでも手加減されてたんだってな」
「でもよぉ、それでも以前の姉妹を許すかと言われたら、やっぱり許せねえところはある。だが、今の姉妹を見てるとなんか違うよな。表情も雰囲気も以前とは……」
「そうだな、今の姉妹は普通の年相応の少女のような笑顔だ」
「それを変えたのが、あの不思議な格好のスミカなんだよな」
「俺は姉妹を許す事は難しいが、それでも信じてみるよ。じゃないと前に進めないからな」
「そうか…… オ、オレは姉妹と、もっと話してみたいと思ったっ! ちょっとおっかねえけどよぉ。それでも過去の話とか冒険の話とか、それとどうやって強くなったのかも色々聞きてえなっ!」
「はあっ? お前もかっ! おれもそうしたいと思ってたんだっ! そしてついでにお近づきになれたらなんて……」
「いや、ちょっと待てッ! オレが先に言ったんだぜ? 順番的にはオレが先だろうよぉ! 姉妹とおしゃべりするのはっ!!」
「いや、いや私が」
「俺だっ!」
「オレだぁっ!」
「自分が先にっ!!」
一番の懸念材料だった冒険者の皆さまは、ナゴタとゴナタ姉妹を認めようと思考を変え、口々に話をしてみたいと盛り上がってるようです。
『――――スミカさん、ナゴタさんゴナタさん、シスターズの皆さん。もう大丈夫ですね。まだ時間は掛かるかもしれませんが、きっと受け入れてくれますよ姉妹の事は。それでもまた何かありましたら、わたしもギルド長も全力でサポートいたします。それほどあなた達に惚れ込んでいるのですよ? スミカさんっ!』
わたしは大勢の歓声の中、ちょっと居心地の悪そうなスミカさんと、照れるシスターズの皆さんを見てそう思いました。
そしてその姿を見て、わたしはこの先も、
もっと傍でお役に立ちたいとも思いました。
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