第152話お仕置き再び




「さあ、ナジメ領主さま。色々と聞きたいんだけど、教えてくれるよね? あまり時間がないから、さっさと話してくれると助かるよ」


 「ポンポン」と警告するように警棒ぐらいの大きさのスキルを叩く。


「うう~っ!」

「まずは、なんでユーアを狙ったのか。その理由を教えてくれない?」

「それは………………」

「ユーアが私が守るべき一番の存在だって、誰かに聞いたよね?」

「………………」

「知っていないと、真っ先に狙うわけないから」

「………………」

「一体誰に――――」

「は、話すわけないのじゃっ! ルーギルは昔からの知り合いなのじゃっ! わしを昔から差別しない素晴らしい仲間なのじゃっ!」

「………………」


 黒に視覚化した透明壁スキルの暗闇の中で、更に静寂が訪れる。

 まぁ、多分ナジメも、そして私も夜目が聞くから暗闇って程じゃないけど。



「わかった、ルーギルが犯人だね」

「わわわわっ! い、今のは無しじゃっ!もう一回聞いてくれんかのっ?」

「………………」


 私は別に誘導尋問したわけでもないのに、ナジメは勝手にルーギルの名前を出して慌てていた。

そしてもう一度チャンスをくれと訴えている。正直意味がわからない。



「……それじゃもう一回聞くよ。一体誰に聞いたの?」


「ふんっ、わしが仲間を売る非道な奴だと思ったら大間違いじゃっ! わしは絶対に口を割らないって………… うぎゃっ! い、痛い痛いっ! やめてっ! 痛いのじゃあぁぁぁっっっ――――!!」



 一瞬、大見栄を張るナジメの茶番に付き合おうと思ったが、面倒になって即ヤメした。

 そしてナジメのお尻にスキルを叩きつけた。


 スパァァ――ンッッ!!


「い、痛いのじゃぁぁぁ!! な、なぜわしの能力『小さな守護者』が効いていないのじゃぁっ!!」


「何それ? 『小さな守護者』て。それがナジメの能力の名前なの?」


 そんな一言に気になって、一度手を止め――――――



 なかった。


 スパァァ――ンッッ!!



「うがぁっ! い、痛いといっておろうっ! なぜ聞いておきながらわしの尻を強打するのじゃっ! そしてなぜ能力が発動してるのにこんなに痛いのじゃっ!?」


 ナジメは涙目で悲鳴をあげながらジタバタと動くが、その体は透明壁から抜け出せずにいた。


 なにせ今のナジメは、1機で20tものスキルの重さで押さえつけられているのだから。



「だって時間あんまりないし、ナジメの能力の話は今はまだいいし、そんな事よりルーギルが話したんだよね? ユーアの事。それとまだ聞きたいことがあるから」


「そ、そんな事だとぉ! わ、わしの自慢の能力を…………ううう~」


 手足のジタバタを止めて、力なく「ガクリ」とうなだれる。


「そんな事はいいから、ルーギルはまず確定でいいとして、それとユーアが通っていた孤児院の事なんだけど何か知ってる?」


「うん、孤児院? そんなものこの街にあったかのぅ?」


 スパァァ――ンッッ!!


「うががっ! わ、わしの尻がぁぁっ! お、お主は鬼なのじゃっ! まだわしは答えていないじゃろっ! いい加減に尻ばかり叩くのはやめてくれっ!!」


「だって領主のくせに知らないっぽいんだもん。そりゃ叩くよね?」


「うぬぬっ、お主はあの少女をよほど大切にしておるのだな。先ほどからユーアの事しか話しておらぬぞ? 一体あの少女は何なのじゃっ!」


 涙目で私を見上げて、質問するナジメ。


「大切? そんなありきたりな言葉で纏めないでもらえる? ユーアは私の恩人だし、私が生きるのに必要な存在だし、私が生きる指針にもなってる存在だし、私が一生を賭して守るべき存在だし、それに私に甘えて来る時の無邪気な表情も、体の割に、もの凄く食べてお腹がぽっこりしてるのも、美味しそうに食べるのも、寝顔が――――」


「も、もういいのじゃっ! わしが悪かったのじゃ! お主ほどの実力者がそこまで惚れるあの少女は、余程お主に愛されておるのじゃな。嫉妬してしまう程にのぉ…………」


「まあ、あながち間違っていないよそれで。だからユーアに手を出すとか以前に、何かユーアに危害を加えようと考える時点で私の敵になるから。だからナジメもユーアが許してくれなかったら、一生涯私の敵だからね? ナジメのバックに国がいようとも、軍隊がいようとも私は遠慮しないし、逃げても追いかけ続けるから」


 「だからユーアに感謝するんだね」と付け加えて話を終える。



「…………お主は本当に強いのぉ。わしもお主くらいの年代、少しでも強くあったなら、ちょっとでも覚悟があったならば、わしはきっと、ねぇねと一緒に生きて――――」


 ナジメはそこまで言って、下を向き黙り込んでしまう。

 何か事情があるのは何となく察してはいたけど。


 それって、


『……ナジメほどの実力と立場でも。解決出来ない何かがあった?』


 そう自然と疑問が頭に浮かんでくる。



「な、なあ、お主っ! わ、わしに協力してくれぬかっ! お願いじゃっ!」


 そんな中、俯いていた顔を上げて懇願するように叫ぶナジメ。


「………………」

「わ、わしに………………」



 正直良い予感はしない。


 だってナジメは元Aランク冒険者で、今は2つの街を治める領主でしょ?

 実力も、それ以外でも力を持ってる筈だもん。



 それが新人冒険者で、年端もいかない私に頼む事って言ったら?



「それは私の強さを当てにしてるって事? それは嫌だよ」


 ナジメの頼みを無下に断る。


 元Aランクの冒険者に勝った、ならその目的は単純なものだ。



「だ、だったらわしに協力してくれたら、先ほどお主が言っていた孤児院の件を何とかしてやろうっ! お主のユーア絡みなんじゃろ? だったらわしが――――」


「………………ムカッ」


 スパァァ――ンッッ!!


「んぎゃ――っ! い、痛いのじゃっ! お主いきなり何をするのじゃっ!」


「いやいや、だって孤児院の件は、あなたが領主の仕事をさぼったから起こった事だからねっ! 何でそれを交換条件に引き出すの? それは叩かれても文句は言えないからねっ!」


「そ、そうなのか? わ、わしが原因なのかっ?」


「うん、ほぼそうだと思うけど。まあ、事情を何も話してないんだからナジメがわかっていないのも無理はないんだけどね? だから簡単に知ってることを話すよ」


 ナジメの前に座りながら、孤児院の現状を話し始めた。





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