第151話ま、参ったのじゃっ!




「ス、スミカお姉ちゃんっ! ボクは大丈夫だから許してあげてっ! ナジメちゃんにあまり痛い事はしないでっ!」



 ナジメがスキルに貫かれる直前に、私の耳に―――の叫び声が入ってくる。


 それを聞いて―――― 


『ユー…… ア?』


 すぐさま意識をフラットに戻す。

 守るべき存在の懇願する声に。


 そして視界にユーアを映して即座に、



「って! 間に合うっ!?」


 ナジメがスキルに串射しになる前に正方形に変化させる。

 その小さな体がスキルに貫かれるのを阻止するために。



 私はユーアが望むのであればできる限り叶えるだけだ。


 妹ユーアの願いは私の願い。

 私の願いは妹ユーアの為に。


 私はそういう姉であり続けたい。



『って言うか、このままだったらユーアに嫌われそうだしっ!』


 ただこれでスキルに貫かれることはなくなったが、回転での遠心力と私の『Safety安全 device装置』の解除効果でブーストアップした勢いは止まることはなく、その凄まじい加速のまま――



 ドゴォォ―――ンッ!!!!



 轟音と共に小さな体が地面に叩きつけられる。



 ナジメは首を強く握ったままでの高速回転の遠心力の影響か、それとも投げ出された威力のせいか、気絶した様子のまま、声を発する事もなく勢いよくスキルに叩きつけられ、小さな体が大きく跳ね上がる。


「あああっ! す、直ぐに回復をっ!」


 すぐさまリカバリーポーションをナジメに使い、更にもう6機、黒に視覚化した立方体スキルを展開する。



「うがっ!」


 それはナジメを挟み込み、身動きを取れなくする。

 1機の大きさは5メートル。重さは最大の1機につき5tにしてある。


 そこには総重量30tにして、高さが30mのタワーが完成していた。

 マンションで言えば10階相当の高さだった。



「お、重いのじゃっ! 一体わしはどうして? そ、そして今はどうなっておるのじゃっ―――!!」


 回復して意識を戻したナジメは、状況を把握しようと周りと自分自身の確認の為に、周囲をキョロキョと見渡し始める。


「な、何じゃこれはっ! わ、わしは負けたのか? にしてもこの巨大な■はお主の能力かっ!?」


 首をギリギリと回して、自身を押さえつけているスキルを見て驚きの声を上げる。


「うん、そうだけど。今のところ解除する意志はないから」


 短くナジメに告げる。


「な、何故じゃっ! わしはもう負けたのじゃっ! 魔法ももう使ってはおらぬじゃろう? 戦う意思はないのじゃっ! 参ったするのじゃ~!」


「いや、そういった事じゃないんだよ。最初はそれで良かったかも知れないけど、途中から事情が変わったから。ユーアを狙った時点で、私の意志は変わったから」


「んなっ! あれはお主だってわかって―――――」


「うん、わかったよ。あのユーアを攻撃した魔法はただの土の塊だった。魔力の殆ど籠もってないものだって事は」


 そう、あの魔法はシスターズに届く前に、私があらかじめ展開していた透明壁に当たって簡単に砕け散った。そこに威力なんてものは皆無だった。


 私はナジメとの模擬戦が始まってすぐに、予め透明スキルで訓練場を覆っていた。


 それはナジメの戦闘力が高いと予想したのと、観客たち、主にユーアやシスターズに被害が及ばないようにと危惧し、設置したものだった。


 ただ狙われたあの時は、その事実に動揺してユーアを守ってもらうようにシスターズの名前を叫んでしまったけど。


「……………………」


 確かにナジメの言う通りに、ナジメにユーアを傷付ける意思はなかった。

 ただの脅しか、動揺を誘う狙いだろうと。



「なら、もういいじゃろっ? わしはお主を認めたのじゃっ! わしは降参するのじゃ。だからもう許してくれなのじゃっ!」


「それはダメ」


「な、何故じゃっ!!」


 私は涙目のナジメに有無を言わさずにそう返す。

 狙われたユーア自身はナジメを許したけど私は違う。


 なぜなら、ここからはユーアの保護者の出番だろう。


『――――――――』


 ユーアに降りかかる火の粉を払うのも、勿論当たり前だけど、そもそも火の粉が存在する時点。ユーアをターゲットにする考え自体を消滅させないと意味がない。



「……ユーアが無事でも、ユーア狙った事実は変わらないから」


 私は腕を組み、身動きの取れないナジメを見下ろしてそう話す。


「た、ただ、わしはお主の本気を、それとわしに協りょ――――」

「そんなの関係ないから。なんで真っ先にユーアを狙ったの? 誰かに聞いたの?」

「そ、それは言えぬのじゃっ! わしの数少ない友人を売る真似は――――」

「ならいいよ。当初の予定通りに泣きべそかかせて聞きだすから」

「うううっ」



 私はそこまで言ってナジメの上のスキルを1機に減らし、ついでに大きさもナジメを覆うぐらいに調整する。それでも重さは変化しない。何故ならスキルのレベルが上がっていたからだ。



 それは実力者との連戦での戦闘の効果だろう。

 特にナジメとの長期戦の影響が大きかった。


 その詳細は今は割愛するとして、今はナジメの事を優先する。



「ねえっ! ルーギルとクレハンっ! 私はナジメと話をしたいから、ちょっと二人っきりになるねっ! だから私たちが出てくるまで後はよろしくっ!」


 ユーア達の近くにいたルーギル達に声を掛ける。


「オ、オイッ! スミカ嬢――――」

「えっ? スミカさん――――」


「それじゃっ!」


 二人の返事を聞く前に、私とナジメを黒に視覚化した透明壁で覆う。


 そうする事で必然的に真っ暗な空間には私とナジメの二人だけになる。



「これでいいね。では色々と手短に聞かせてもらうよ。ナジメ領主さま」

「ううう~~~~~~っ」




※※※



 その頃、スミカに後を任されたルーギルとクレハンは――――



「ハァったくよォッ、どうやら決着はついたみてぇだが、嬢ちゃんかなりご立腹だったよなァ? あれはナジメが悪りぃぜ。なんせユーアに手を出したのが一番まずかった。俺が余計な事言わなければ良かった気もするがなァ……」


「はい、よりによって、振りとは言えユーアさんに危害を加えようとしたのは、正に本物の龍の逆鱗に触れるのと同じような行為ですからね…… さすがにあれは―――― えっ? もしかして今の話からすると、ギルド長がナジメさんに教えたんですか? ユーアさんの事をっ!?」


「あ、ああ、嬢ちゃんとゴナタが戦っている間のナジメと話した時に、ユーアには絶対手を出すなと忠告しといたんだよッ。それが何を思ったのか忠告無視ししやがった。それの結果があれだッ!」


「そ、それってギルド長もマズいと思いませんかっ!?」

「ハッ!?」



 そしてこちらは街の人たちと混ざって冒険者たちの声。


 ガヤガヤガヤッ


「な、何だったんだ今の戦いは…………」

「Aランク冒険者の実力も桁違いだったが、そ、それよりも……」

「英雄のスミカだろう? 序盤押されてた筈があっという間に……」

「しかもスミカちゃん、Aランク冒険者の攻撃を一度も喰らってねぇよ」

「…………もうナゴタゴナタ姉妹よりも圧倒的に強いのがわかった」

「そうだな。英雄スミカの傘下に入るんだったら、姉妹も大人しくなるだろう…… 絶対に逆らったりしないだろうな。あの強さの前では」



 それとシスターズの面々。


「スミカお姉ちゃん、もの凄く怒ってたけど大丈夫かな?」

「そ、そうね、領主を投げ飛ばした時の表情は鬼気迫るものがあったわっ!」

「凛々しいお姉さまも素敵でしたっ! そして強かったです、お姉さまはっ!」

「うん、凄かったっ! 結局無傷でAランクを参ったさせてたもんなっ!」

『わう』



■■■■




「それじゃ、早速始めようか?」


 スキルを操作して、ナジメのお尻だけを透明壁より露出させる。


「ナジメ領主さま。もう魔力は回復してるでしょ? だったら今からする事を能力で堪えてもいいよ。まぁ堪えられればの話だけど」


 私は手に持ったポール状のスキルを「ポンポン」手の平にあてる。


「わ、わし、もしかして色々と間違ったのじゃろうか…………」


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