第150話触るな危険スミカの逆鱗




 赤に視覚化した10メートルを超える巨大な電柱状のスキルを、私の頭上に扇形に展開する。


 その数は9/10機。

 なら残り1機は?


 実はずっと設置したままだったりする。

 ナジメとの戦闘中はある所に。



「さあ続きをやろうか。もう時間もないしね」


 頭上のスキルをユラユラ揺らしながら、ナジメにそう告げる。



「ふん、分身もそうじゃが、お主の魔法も本当に得体が知れぬのう。そもそも魔法かどうかも怪しいのじゃ。そんな自在に色や形を操っているのも不思議じゃ。但し数はあまり出せないとみた。これが限界なんじゃろ? お主の」


 ナジメは組んでいた腕を降ろし、頭上のスキルを見てそう聞いてくる。


「…………それは秘密かな? でもこれはある意味魔法の一種だって思ってくれても良いよ。私の能力なんだから」


「能力?…… そうか、まあそれもお主を負かせた後で聞けばよいじゃろ。ではそろそろ行くぞっ!『土蛇』」


「っ!」


 ナジメが新たに唱えた魔法はその名の通り、蛇を模した形のものだった。

 それが地中から無数に這い出て来た。



「行くのじゃっ! そして動きを封じるのじゃっ!!」


「相変わらずレパートリーが多いよねっ! でも今更そんな小さな蛇なんて、恐くも何ともないよっ! ならさっきの龍みたいなのが迫力があったよっ!」


 足元より現れた土蛇に向かって、待機させていたスキルを操作する。


「そんなの消し飛ばしてあげるよっ!」


「そこじゃっ!『土葬』」

「って今度は何っ!」


 ガバァッ!!


 ナジメの更なる魔法は、私を中心にして周囲の地面に大穴を開ける。


「い、いきなり落とし穴っ!? 一体いくつの魔法をっ!」


 私は土蛇に向けた1機を足場にして、ギリギリ穴の上に留まる。


 すると、ナジメ自身が出現させた土の蛇が、その暗い地中に落ちていき、


 即座に、


 ガァゴォ――ンッッ!!


 と、その大穴は無数の蛇を飲み込んで、すぐさまその口を閉じる。

 ターゲットを地中の中に閉じ込める。そんな魔法なのだろうか?



『ううん、そんな生易しい魔法じゃないよ、あれは。落ちた獲物を圧迫死させるのが目的の魔法だよ。随分とやってくれたね……』


 タンッ


 足場にしたスキルからひょいと飛び降り、ナジメに向かって駆ける。

 円錐の巨大なスキルは、私の後を付いてくる。



「はぁはぁ、うぬぬっ、これも避けられるとはっ! 次はっ―― がはぁっ!」

「遅いよっ!」


 シュ―― ン


 次の魔法を唱えるよりも早く懐に辿り着き、細い首を片手で掴み、宙づりにする。


 そしてその無防備な小さい体には次々と、



 ズガガガガァ――――ンッ!!



 待機させていたスキルを立て続けに打ち込んでいく。。


 背中、両足、頭、両脇腹、臀部、後頭部、両腕、


 10メートルを超える透明壁スキルを、小さな体に順に叩きつける。


 ズガガガガ――――


「うがっ! うががっ! うががががぁぁぁっっっ!!!!」


 その怒涛の連撃に、ナジメは堪らずに叫び声を上げる。

 どうやら今度はダメージを与えられたようだった。



「いつつっ、はぁはぁはぁはぁ―― ま、まだじゃ、ま、だ、わしはっ!」


 ナジメは息を切らせ痛みに耐えながらも、まだ気力は衰えていないようだった。

 それでももう限界が近いと分かる。浮いている手足には全く力が入っていない。



「…………どう、もう降参する? これ以上は意味ないよ」


 私は握っている力を少し抜いてナジメに問いかける。

 見た感じナジメの体力も気力も、そして頑強な能力も切れつつある。


 これ以上はただのなぶり殺しになる。

 そんな戦いはこの場に相応しくはない。


 もしそうなったら私は昔のように――――



「はぁはぁ、わしは、まだお主、の本気を、見て、おらぬ。だか、ら、わしはまだ、負けるわけには―――― 『土槍』」


「ナ、ナジメっ! もう私はっ!」


 ナジメは息も絶え絶えながらも次なる魔法を発動させた。

 それは地面から1本の土の槍を出現させていた。


「今さらこんなのでどうしたいのっ! もう降参しなよっ!」


 だがその1本の槍は、


「いくのじゃっ! これがわしの最後の攻撃なのじゃっ!」

「えっ?」


 その土の槍は、槍先を私に向けずに観客席の方を向いていた。


 そして、その向かう方向とは――――――



「ユーアっ!」


 あろうことか、ユーアに向かって高速で空を切り裂き飛んで行く。



「く、くそうっ! ナゴタっ! ゴナタっ! ハラミっ! ラブナっ!」



 私は咄嗟にシスターズの名前を呼ぶ。

 ユーアを守る事の出来る、今、最も信頼できる仲間の名前を。



「任せて下さいっ! お姉さまっ!!」

「うん、任せろっ! お姉ぇっ!!」

『がうっ!!』

「ま、魔法が間に合わないっ! ならアタシの体でっ!」



 そして高速で飛んでいくナジメの土槍は、


 グシャッ


 シスターズの前、数十センチで見えない何かに阻まれる。


 それを見届けた後で、掴んでいたナジメの首に力を入れる。


 グググッ


「…………なんだってユーアを狙ったの? 消されたいのあなた」

「うぐぐっ」


 苦しむナジメを無視して、更に締め上げる。

 

 ググググ――――


「うぐがぁっ!」

「うるさい。もういいや………… 3層―― sept」


 トンッ


 私はナジメを持ったまま、一度の跳躍で十数メートル空中に飛び上がる。



「…………孤児院の事とか、ナジメの過去とか、それと仲間になって欲しいとか色々思ってたけどもういいよ。ユーアに手を掛けようとしたんだから絶対に許さない。一応消さないではおくけど、一生復帰できない程の歪な体と、今後私を見る度に錯乱するほどの恐怖を植え付けて上げる――――」


「ぬぐぅっ!」


 呻き声を上げるだけのナジメの耳元でそう呟き、


 ギュルンッ!


 と、縦に高速で回転をして、


 ビュンッ――!


 地上に設置した剣山のようなスキル9機に向かって、全力で投げつける。


 この状態の今のナジメなら、確実に体中を貫けることだろう。



「スミカお姉ちゃんボクは大丈夫だからっ! ナジメちゃんをっ!」

「っ!?」


 ナジメがスキルに貫かれる直前に、私を呼ぶ声が聞こえてくる。


 それを聞いて、私は―――――― 




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る