第149話いや、いや、若作り過ぎでしょうっ!





『ふふっ、さすがはAランクなのか、ナジメの能力のせいか、思った以上に長期戦になってる。まあ、その方が私としては嬉しいんだけど、でもそろそろ終わりにしないと暗くなりそうなんだよね?…………』


 日が傾き始めている空をふと見てそう思った。


「どうしたのじゃ、戦いの最中に空なぞ見上げおって。それは余裕のつもりなのかっ? わしはとことんお主に舐められておるのう。いやそれを言ったら、わしもそなたを侮っておったからお互い様なのかも知れぬがの」


「ああ、ごめんごめんっ。別にそんなつもりじゃないよ、ナジメは強い。それは間違いない。ただ暗くなったら、また見えなかったとか言われるの嫌だなぁって思っただけ」


「うむ、それは確かにそうじゃが、わしを前にしてそんな事を考える余裕があるお主は、結局わしを舐めてるとしか思えんのじゃがなぁ……」


「ううん、ナジメは私が楽しめるぐらいに強いよっ。もっと色々ナジメの技見てみたいもん。でも時間がないから惜しいなってさ」


「わはははっ! それが舐めてると言うとるのに、わからないのじゃなっ! だったらどうする。わしを速攻で倒して終わりにするかっ? それともお主が真っ先に倒れるかっ? まあ、後者じゃろうなっ!『土棺』」


「っ!?」


 前後の地面から黒い箱が出現し、私を挟み込むようにその蓋が閉じ始める。

 その箱の土は内側が空洞になっていた。



『棺だなんてよく言ったものだねっ!』


「よっと」


 それを真上に跳躍して避ける。


「引っ掛かったのじゃっ! お主が上に逃げるのは想定済じゃっ! 今度は『土の――』 うがぁっ! ってまたお主はっ!」


 私はナジメに接近して、両手に視覚化した正方形のスキルでナジメを挟み込む。

 巨大なバイスで両側からギリギリと。


 だがそれは、


 ゴガァァァンッッ!!


 重い音を立てるが、相変わらずダメージを与えられてない。



『ふう~、これでも効かないの? せっかくまたナジメの裏をかいたって言うのに、本当に欲しい能力と人材だよねっ』


 先程のナジメの攻撃に、真上に跳躍したのは実体分身の私だ。


 本体の私は、ナジメの目が上に行ってる間に透明鱗粉を付与して攻撃していた。



「う、うぬぬっ、お主のその高レベルな分身は一体なんなのじゃっ! 魔法ではないのはわかるが、そんな実体を持つ分身体なんて聞いたことも、見た事もないのじゃっ!」


 そんな私の実体分身に、2度も騙されたナジメが憤慨して叫びだす。


「いやぁ、ナジメは面白いほど引っ掛かるよね。まぁそれだけ気配を感じる能力が卓越してるとは思うけど、ナジメのその頑強な能力じゃ無かったら、もうとっくに終わってるよ。良かったね? 強い子に生まれてきて、ナ・ジ・メ・ちゃんっ!」


 両手のスキルを解除して、皮肉気味にそう挑発する。


「うぬぬっ、本当にお主は何なのじゃっ! なぜその力で今まで表舞台に現れなかったのじゃ! なぜ今まで冒険者にもならなかったのじゃっ! わしにもその若い時分に、お主みたいに強かったならば守り通して行けたというのにっ! 一緒に生きて行けたかもしれぬというのにっ!!」


「うん? …………」


 ナジメは私の挑発にも乗らず、慟哭に近い悲鳴を上げる。

 傍目には、小さな体を震わせて、何かに堪えているようにも見える。

 


「…………ごめん、何か傷付ける事言っちゃったかな?」


 私は予想と違い、何か悲し気なナジメに少し戸惑う。


 挑発は戦闘でも有効だが、こんなのは私向きではない。

 そういった感情を誘ったつもりもない。



「いや、お主がその若さで、ここまでの強さなのが羨ましかっただけじゃ。わしの勝手な妬みだから気にせんでくれ。遠い昔の話じゃ」


 そう言って自嘲気味に視線を逸らす。


「…………あのさ、今だから聞くけどナジメっていくつなの?」

「わしか? 話してなかったかのう?」

「うん、多分聞いてない。ルーギルはかなり年上見たいな事言ってたけど」

「わしは百と六歳じゃ」

「はっ? なんて言ったの今っ!?」


 凡そ年齢を聞くには、聞きなれない数字にオウム返しする。


「お主何を聞いておったのじゃ、もう一回言うぞ。わしは106歳じゃっ! 何度も女性に年齢を聞くのは失礼じゃぞっ!」


 答えた後で「プンプン」と腕を組み頬を膨らませている。



「………………嘘? だよね」


 そんなナジメの全身を見渡して、疑いの目を向ける。


 その実力の為、ある程度は上だとは思ってはいたが、まさか三桁を超えるなんて誰も思わないだろう。


 その容姿と仕草で100を超えてるだなんて、若作りにもほどがある。



「う、嘘じゃないのじゃっ! そもそもわしは人間ではないっ! ドワーフとエルフの間に生まれた子供だからなっ! だから長く生きておるのじゃっ!」


「…………でも耳長くないよ? それに髭生えてないし」


 何となく知っている、両種族の特徴を思い出して聞いてみる。



「なんだか疑い深いのう、お主は。ほれ耳なら多少は尖っておるし、それに髪色も緑がかってるじゃろ? これがエルフの特徴じゃ。それにわしは少しだけ背が小さい。こっちはドワーフの特徴じゃな? 後は土魔法以外も魔法もそこそこ得意じゃしなっ!」


 ナジメはそう言い、緑色の髪を掻き分けて、小さな尖った耳を見せてくれる。

 それがエルフって言いたいのだろう。



「う~~ん、確かに何となくそう見える様な…… でもそれと私が強いのと何が関係あるの? 若い時にとか言ってたよね?」


 先ほどのナジメは挑発に対して、逆に悲痛な表情で叫んでいた。


「うむ。その話は今はする必要も意味もないじゃろう。それにお主は時間がどうとか言っておったじゃろ? ならわしが勝った後でゆっくり聞かせてやるのじゃ」


「まあ、確かにナジメの言う通りだね、今は。だったらナジメが私に泣いて謝った後で聞き出してあげるよ。元々そのつもりだったし」


 挑発には挑発で返しながら、手持ちのスキルを全て頭上に展開する。


 その形は赤に視覚化したポールのような円錐。

 ただ大きさは1機につき10メートルを超える巨大な物。



「それじゃ、やろうかっ! 続きを」


 緩みそうになる頬に力を入れて、ナジメを鋭く睨む。


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