第396話お披露目。蝶の英雄の水着とは




「ス、スミカお姉…… ちゃん? ここ、お外だよ? 知ってるよね?」

 

 おバカなお姉ちゃんだと言わんばかりに、白い目で私を見るユーア。



「お、お、お、お姉さまっ!?」

「う、うわっ! お姉ぇっ!?」


 顔を両手で覆いながらも、チラチラと隙間から覗き見している姉妹。

 何やら顔だけではなく、耳まで赤くなっている。



「ね、ねぇねやっ! ここは風呂ではないぞっ!」

「スミ姉っ! なんで素っ裸なのよっ! お、女同士でもおかしいじゃないっ!」


 最後にハッキリと、私の状況を説明してくれたのはナジメとラブナ。

 そんな二人は顔を赤くし、驚愕の表情で私を指差している。



「うう~~」


 その二人の言った通り、今の私は一糸まとわぬ生まれたままの姿になっている。

 なんとかで隠してはいるが、何も着ていないのは明白だ。



「来てっ! キューちゃんっ!」


 いや、正確には裸ではない。

 これでも一応、水着の部類なのだ。


 ピョン ピョン


『ケロロ?』『ケロロ?』


「あ、ありがとねっ! ちょっとここにくっついててっ!」


 ピト ピト


「よし、これなら可愛いぬいぐるみを抱いている少女だっ!」


 ドーンと胸を張って、着替えた事をアピールする。

 ただし、胸の部分と、お尻の部分にはキューちゃんがくっついているけど。


 なにせ最後に残っていた水着は、運営の悪ふざけなのか何なのか、ヌーディストビーチに着ていく水着という、意味の分からない代物なのだ。


 したがって、水着を着ている割には素っ裸だ。

 ただし、大事なところは『モザイク』になって見えなくはなっている。


 豊満なお胸の部分とか、お股とか、お尻とかには。


 逆にそれがイヤらしくも見えない事もないが、

 ハッキリと見えた方が、尚更、色々とマズいのだろう。


 それでも丸出しで泳ぐだなんて、さすがにハードルが高いので、キューちゃんに吸盤でくっついてもらって、大事なところは隠す事に成功した。


 これなら一安心だろう。


『ふぅ~』


 私はそっと胸を撫で下ろす。



「はぁっ!? それのどこが一安心なのよっ! スミ姉っ!」

「え? まさか、聞こえて?」


「スミカお姉ちゃん、それの方が恥ずかしいと思うの、ボクは」

「ユーア?」


「お、お姉さまっ!? キュートードの両手が、なだらかなお胸に?」

「はぁ! なだらかってっ!?」


「お、お姉ぇのはくっつきやすいのかな? ピッタリ張り付いてるなっ!」

「ちょ、それどういう意味なのっ!?」


「ね、ねぇねはサイズ的に全部隠れて羨ましいのじゃっ!」

「いや、いや、ナジメがそれ言うのっ! 盛大なブーメランだよっ!」


 各々が私の水着姿を見て、てんやわんやしていた。


 だって、仕方ないでしょっ! 

 これしかなかったし、ユーアが急かすんだからっ!





「はぁ~」

『ケロ?』


「きゃ~っ! 何これ、目が回るけど楽しすぎっ! ユーアも滑ってきなよっ!」

「うんっ! それじゃボクも滑るねっ! わ~、早い早いっ!」

『わう~っ!』


 ザブ――――ンッ!!


「ナ、ナジメ、あなたこんな高いところ怖くないのですか?」


「うむ、これぐらいどうってことないのじゃっ! わしは高いところが好きじゃからなっ! それ、滑るのじゃ~っ!」


 ドボ――――ンッ!!


「ワタシも行くぞっ! それ~っ! わぁ~高い高いっ!」

「ゴナちゃんが行くなら、私も行くわっ! きゃぁ~っ!」


 ボチャ――――ンッ!! ×2


 

「はぁ~」

『ケロ?』


 それぞれがなんちゃってスライダーに夢中になって遊んでいる。

 それをキューちゃんを胸にくっつけて、一人寂しく眺めている。


 みんなが遊んでいるのは、私が水着に着替える前に設置しておいたものだ。

 透明壁スキルで作ったなんちゃってスライダーだ。

 装備が無くても、操作が出来ないだけで問題ない。 



 ユーアとラブナが滑っているのは、白のチューブ型スライダー。

 全長が300メートルもあるノーマルタイプ。


 ところどころにトンネルと、そして小さなジャンプ台。

 後は、お決まりのヘアピンカーブが数か所に設置してある。


 次に、ナジメとナゴタとゴナタが滑っているのは、水色のループ型スライダー。

 縦向きや螺旋状に一回転するコースに、数々のジャンプ台が付いている。


 それと角度が急なので、かなりスピードが出る代物だった。

 だからどちらかと言うと、大人向けのスライダーでの意味合いで作った。

 全長が500メートルもある自信作だ。



 私は楽しんでいるみんなを、キューちゃんと一緒に見ている。


 頭に一匹、両手に三匹、肩に二匹に、背中に四匹。

 因みに、背中には吸盤でくっついているだけだ。



「さすがに、この格好じゃはしゃげないもんね?」


 今はキューちゃんに隠してもらっているが、その下の姿は即通報されるレベルだ。迂闊には外せない。



「まぁ、私はみんなが楽しんでくれればそれでいいよ。それに天気もいいし、風も暖かいし、ゆっくり紅茶でも飲んで待ってるとしようかな。ね? キューちゃん?」


『ケロロ?』『ケロロ?』『ケロロ?』

『ケロロ?』『ケロロ?』『ケロロ?』


 体一杯にキューちゃんを抱いて、湖畔からまたテーブルに戻る事にする。

 足だけは入れたし、雰囲気だけでも味わったからね。



 ハシッ ×5


「え? なに?」


 テーブルに向かう途中で何者かに、両手両足と腰を掴まれる。


『ケロ?』


 ピョ――ン ×10


 それに驚いて、私から離れていくキューちゃんたち。


「あ、あああっ――――!」


 私の可愛い衣装兼、癒しのキューちゃんたちがっ!



「よし、行くよっ! みんな」

「「「はいっ!」」」


 バシャバシャ


 なんて嘆いていると、体ごとヒョイと頭上に持ち上げられて湖に運ばれる。



「ちょっと、どこ行くの? みんなっ!」


 首を捻って、真下で担いでいるシスターズ全員に尋ねる。

 

「お姉さまも、私たちと一緒に楽しみましょっ!」

「そうだぞっ! お姉ぇもそんな格好気にしないで楽しもうなっ!」


 ポイッ


「わ~~っ!」


 バシャ――――ンッ!!


 そして水面に放り投げられて、盛大に水飛沫を上げる。


「がぼっ、ちょっといきなりびっくり…… って、今度はなに?」


 顔を上げたところで、両腕をユーアとラブナに掴まれる。

 その際に「ぷにゅ」としたものが肘に当るけど気にしない。


「え? なにするのっ!?」


「ナジメちゃ~んっ! お願いねっ!」

「一気にいっちゃってよ、ナジメっ!」


 驚く私を他所に、今度はナジメになにかを頼んでいる。


「うむ、それじゃいくのじゃっ! 『大噴水』」


 ドバッ!


「魔法っ? って、わわわっ! 浮き上がったっ!」

「きゃっ!」

「きゃあっ!」


 私に掴まっていたユーアとラブナも、ナジメの魔法によって宙に浮かされる。

 水中から出現した、大きな噴水の上に乗って、20メートルくらい上昇する。



「って、メチャクチャ怖いんだけどっ!」


 噴水の上はちょっとでも動けば、落下しそうなほど不安定だった。

 それに、今の私は透明壁スキルが使えない。だから余計に怖い。


「あ、ナジメちゃんっ! もうちょっと左だよっ!」

「ナジメ~っ! もう少し上よっ!」


「うむ、任せるのじゃ~っ!」


 一緒に浮かされた二人が、下にいるナジメに懸命に指示を出している。



「ん? あ、あれ? ここって…………」


 トン


「ふわ~、怖かったよぉ」

「ま、まぁ、なかなか楽しかったわっ!」


 私と一緒に、ユーアとラブナも魔法の噴水から降りてくる。

 ナジメの魔法の操作と、二人の指示のお陰で落ちる事なく無事に足が付いた。



「もしかして、私もこれを滑るの?」


 ここは私が作った、なんちゃってスライダーのチューブ型の上だ。

 もう何をしたいのかはわかるけど、一応聞いてみる。



「うん、そうだよっ! スミカお姉ちゃん」

「こ、ここまで来たんだから、アタシたちと一緒に滑りなさいよねっ!」


 ユーアは満面の笑みで、ラブナはそっぽを向きながらそう答えた。


「ふふっ、そうだねっ! それじゃ私も楽しんじゃおうかなっ! ありがとうね、ユーアもラブナもわざわざ連れ出してくれて」


 そんな二人に近寄り、キュッと抱きしめる。

 二人の心遣いが、私にも伝わってきたからだ。


 全裸(仮)でいじける私に、妹たちが気にしないでいいよと。



「はいっ!」

「わ、わっ! わかったらさっさと滑るわよっ!」


「うん」


 どうやらこれで、私も心から楽しむことが出来そうだ。

 見た目の姿は裸でも、心は二人が覆ってくれたから。


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