第323話姉妹の魔物退治のお手伝い
「「「わっしょい、わっしょいっ!!」」」
『………………』
「え~と、お姉さま?」
「何だこれ?」
ガラガラと車輪を鳴らしながら街の通りを進んでいく。
私たちは、神輿、ではなく荷車に乗せられて運ばれている。
「「「わっしょい、わっしょいっ!!」」」
「う~ん」
「………………」
「………………」
その周りでは、祭りのような掛け声を上げるスラムの人たち。
お祭りで、本当の神輿を担いでいるような錯覚を覚える。
そしてこの世界でも、そんな掛け声があるんだと疑問に思った。
ただそれよりも、ここまで
「う~ん、別に大したことしてないんだけどなぁ」
「そうですね、お姉さま」
「うん、そうだよなぁ」
だって私たちは、ただ小さい
※
「ナゴ姉ちゃんっ! ワタシが岩を持ち上げて脅かすからお願いなっ!」
5メートル超える大岩の前で、ナゴタに叫ぶゴナタ。
「わかったわ。その後は私に任せてゴナちゃん」
その妹のゴナタの作戦を聞き、武器を構える姉のナゴタ。
その手には愛用の両剣を握っている。
「え? 姐さん、あんなデカい岩を持ち上げるって?」
「そ、それに素早いアンダーラビットをあんな巨大な武器でっ!?」
姉妹の様子を見て、信じられないといった様相のカイとみんな。
「う~ん、臆病な魔物らしいから、岩を叩きつけてびっくりして出てきたところを退治するんだと思うよ。でもさっきも言ったけど大丈夫だからさ、そのまま見てなよ」
そんなみんなに心配無用と声を掛ける。
こんなもの二人に任せればあっという間だから。
「それじゃいくぞっ! ナゴ姉ちゃんっ! んっ!」
ガッと自分の2倍以上の大岩を掴むゴナタ。
微かにその体が光って見える。
「ふんっ!」
ボゴォッ!!
そして、軽々と一気に引き抜く。
「「「「いいいいっ!!!!」」」
「それじゃ地面に叩きつけると驚いて出てくるから、よろしくなっ!」
「はい、こっちは準備万端よ。ゴナちゃん」
掴んだ大岩を難なく頭上に持ち上げるゴナタ。
そしてそのまま地面に叩きつける。
「んんっ!」
ブウンッ
ドゴオォ――――ンッ!!
「きたっ! ナゴ姉ちゃんっ!」
『ギュウッ!』『ギュウッ!』『ギュウッ!』
『ギュウッ!』『ギュウッ!』『ギュウッ!』
途端に、元々岩の陰にあった穴から小さい何かが無数に飛び出る。
それは目にもとまらぬ速さ、ではなく、大きさも相まって殆ど視認できない。
「はい、見付けましたっ!」
シュ ―ン
ナゴタの声と同時に、その姿がその場から掻き消える。
「はっ? 消え?」
「「「えっ? どこにっ!?」」」
唖然と視線を彷徨わせるみんなの周りに微かな音が聞こえる。
それと、
『ギッ!?』『ギャッ!』『ギュッ!』
アンダーラビットが絶命する断末魔の叫び声が。
シュ ―ン
「はい、お待たせしました。お姉さま」
血に濡れた両剣を手に、姿を現すナゴタ。
その後ろではアンダーラビットの死骸があちこちに散乱していた。
「「「は、はぁっ!!」」」
「お疲れさま、ナゴタ。でもゴメンね、数を数え間違がったみたい。39体じゃなくて全部で40体だったよ」
「えっ?」
ガッ
「よっと。へぇ、これがアンダーラビットかぁ。耳は長いけど意外と可愛くないね? ウサギの魔物のは可愛いいってのが定番だけど」
私は手に握った、残り1体のアンダーラビットを見せる。
その1体は穴ではなく、森の中から出てきてナゴタを襲ったものだった。
恐らく群れとは離れていた1体だろう。
「お姉ぇっ! こっちは穴を塞いだから大丈夫だぞっ!」
向こうではゴナタが大岩を再度持ち上げて巣を塞いでいた。
そしてこっちに戻ってくる。
「うん、ゴナタもお疲れさま」
近寄ってきたゴナタにも労いの言葉をかける。
「でもあの巣はアンダーラビットにしては大き過ぎだったんだけど」
「そうなの? だったら虫の魔物が開けた穴かもしれないなぁ。そこに住みつこうとしてたのかもね」
「お姉さま。この素材は持ち帰りますか?」
「う~ん、そうだね。美味しいなら半分持ち帰ろうか」
「そうですね。あ、その手に持ってるのも退治しちゃいますね」
「うん、ありがとうナゴタ。よろしく」
「お姉ぇっ! だったら孤児院にも置いて行くかい?」
最後の1体をナゴタに渡しながら、素材の話で談笑する。
その後ろでは――――
「す、すげぇ………… 何なんだ、姐さんの仲間たちは――」
「あ、ああ。あのデカい岩を細腕で軽々持ち上げて――」
「あの、デカい武器ごと消えて後は死体があっという間に――」
「最後、見えない魔物を素手で掴んだぞ、姐さんも――」
私たちの後ろではカイたちとみんなが驚きと困惑の声を上げていた。
ただその瞳は畏怖するものではなく、どこかくすぐったいものだった。
それは
※※
「それにしても昨日のナジメさまといい、今日のナゴタさんもゴナタさんも見た目からは想像できない程の強さですねっ!」
「さすがは姐さんのお仲間たちだっ!」
「これぞ見かけに騙させるなっていう教訓だなっ!」
「一体そんな細い腕と体のどこに…… あ、すいません細いのは姐さんだけ……」
カイの褒め言葉に続けて、みんなもナゴタたちを見て称賛の言葉を上げる。
最後の言葉は何か気に入らないけど。
確かに私のメンバーは見た目とのギャップの幅が凄い。
ユーアにしても、あの年齢での数百の依頼達成率が100%だ。
ラブナにしても数少ない魔法使いで、更に希少な
それはナジメやナゴタたちにしても同様。
見た目だけでは無邪気な幼女と見目麗しい少女だ。(ある部分を除いては)
「でも冒険者としては、姐さんよりも上だなんて凄いですねぇっ! やっぱりランクの通りに姐さんより強いんですか?」
カイもナゴタたちに慣れてきたようで、笑顔を交え軽口をしている。
「カイさん、そんな事はありませんよ。以前、私たち姉妹は二人がかりでお姉さまに完敗してますからね。その後でも負けてますし」
「うん、お姉ぇは元Aランクのナジメにも圧勝してるからなっ!」
カイの何気ない質問に嬉しそうに答える姉妹。
「えっ? ナ、ナジメさまって冒険者だったんですかっ!?」
「そうだぞっ! この前戦って、殆ど無傷で倒したからなっ!」
「それでナジメはお姉さまの仲間になったんですよ」
驚いてるみんなに、ここぞとばかり追加情報を話すナゴタたち。
何やら随分と得意気に見える。
「無傷っ!? さ、さすが姐さんの強さは群を抜いている……」
「二人がかりでも勝てないって、スミカさんって一体」
「しかも、領主さまを仲間って、もう意味が分からないぞ……」
それを聞いて更に驚愕するみんな。
感情の揺れ幅がさっきから激しい。
「あ、それと私のパーティーはまだいるからね。『バタフライシスターズ』は今のところ、私を含めて6人と『1匹』だから」
驚くみんなに簡単にそう付け足す。
メンバーが褒められるのって嬉しいなって思いながら。
「え? て事は、こんなのが後2人もいるのか? スミカ姉ちゃんっ!?」
今まで荷車の隅っこで黙って聞いていたボウが話に加わる。
「こんなのって…… 前にも言わなかった? 妹がいるって」
「あ、スミカお姉さん言っていました。孤児院にいるって」
ボウに変わり、妹のホウが答える。
「そうだよ、それともう一人。ラブナっていう毒舌魔法使いと」
「あれ? そう言えば1匹てなんだい?」
「ああ、1匹って言うのは今日一緒に来た獣魔だよ、お利口な。ほら」
「えっ?」
私は通りの前方から現れた、見知った大きな影を指さす。
ここに向かっているのは索敵でわかっていたから。
『がうっ』
そこにはハラミが誰かを背に乗せ歩いてくる姿が見える。
「ちょ、スミカっ! これはお前の仲間なのかいっ! この魔物はっ!」
「一体何なのよ、突然現れて懐いてくるこの魔物はっ!」
その背中には、必死の形相で毛皮を掴んでいるビエ婆さん。
そして文句を言っているニカさんが乗っていた。
『わうっ! はっはっ!』
どうやらハラミもお手伝いしてくれてたようだ。
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