第292話洞窟を散策する蝶




「念のためスキルで蓋しておいて正解だったよ。いくら地面が固くても、あんなに暴れられたら崩れて探すのが大変だったろうしね」


 ラスボスの、巨大なハサミ虫の魔物が出てきた穴を見る。


 実態分身を攻撃した際に全身を出したので、その時に保管しておいた。

 出現してきた穴の上に、透明壁スキルで蓋をして。



「まぁ、これなら余裕で入れる大きさだけど、出口がわからないから正直恐いね。それでも行くしかないんだけど……」


 ブツブツと独り言を言いながら、暗い穴の中を見てみる。

 どこに続いてるかはわからないが、恐らくこの先に巣があると思う。


 じゃないと、子分を使って街の人たちを攫っていった先がわからないからだ。



「多分、あの小さいのは、って言っても普通に比べたら異常な大きさけど、ラスボスの為か、何か他の目的があって活動してたんだと思う。それも目立たないように、スラムの人たちを狙って」



 私はナイトビジョンゴーグルを付けて穴に飛び込む。

 穴の大きさは5メートルほどあるから、ちょっとした洞窟みたいだ。


「よっと」


 暫く暗闇の中を真下に向けて降下していく。

 体長20メートルを超える虫の魔物だったから、かなり深い。


「ん、さすがに暗すぎるな、暗視はやめてライトに切り替えよう。それと足場を作りながらの方が良さそうだね。距離感掴みずらいし」


 落下の途中で暗視モードからヘッドライトに切り替え、足場を何度も展開しながら徐々に地下に降りていく。最初の自由落下で10秒以上は経過してるから、かなりの深さまで降りてきている。


――


 トンッ


「とりあえず、ここが最下層なのかな?」


 固い地面に足を付け、周りを見渡す。

 ライトが届く範囲には何も危険が無いように見える。


「横穴が北方面と南だけ、と。あまり動き回らなかったみたいだね。あんな巨大な虫があちこち移動してたら地盤が危なかったよ。子分たちに任せて、自分は大人しくしてたのかな? 以前の腕輪をしてた他の魔物みたいに」


 今思い出すと、サロマ村のオークもトロールも、仲間がやられたのを見計らって出現していた。その存在を知られたくないのか、そう操作されてるのかはわからない。


 恐らく腕輪の機能が解明しない限りは、行動原理は不明のままだと思う。



「う~ん、相変わらず索敵には何も映らないな。道は北と南の二択かぁ、だったら」


 メニュー画面のコンパスを頼りに北に向けて洞窟を進んでいく。

 高さも幅も私の3倍以上もあるから問題ない。強度も地質のせいか大丈夫そうだ。





「うん、思った通りにこっちが正解っぽいね、良かったよ。南は街の中だし。もし、潜んで行動したいなら、北に向かうはずだからね、もうここはとっくに街の外の距離ぐらいだろうし」

 

 暫く進んだところで、索敵に40以上の反応を見付け、ホッとする。

 何の反応もなかったら、それは生物ではなくなっているからだ。



「よし、少し急ごう。生きてるのは良かったけど、状態がわからないから」


 私は足場に気を付けながら、小走りで急ぐ。

 ギリ索敵の範囲なので、恐らく走ってすぐだろう。




「ここは?」


 ライトを照らしながら、周りの状況を確かめる。

 40以上の反応があったところは大きな洞穴になっていた。


 天井も横幅も、今までの10倍以上の広さだ。

 恐らくここに最後の魔物は潜んでいたのだろう。


 そして、その一番奥には――――


「う、うう……」

「あ、あああ……」

「はぁはぁ……」

「…………うくっ」

「だ、だれか……」


 大勢の男女の人間が横たわり、みな呻き声をあげている。

 全員まともに意識が無く、力なく倒れている。



「…………結構ひどいね」



 見た目の衰弱だけではなく、虫の魔物と戦った者なのか、はたまた、連れてこられる間で何かあったのか、体の一部が抉れてたり、出血の跡のある者が多かった。


「先に治しちゃおうか」


 幸い血液は固まりつつあるが、抉れた部分が見当たらない。

 それと全員が全員、衰弱が激しすぎる。

 たった数時間で何があったというのだろうか。



 私はアイテムボックスより、2種類のアイテムを出す。


 『リワインドポーション』  欠損部分を治す。

 『リカバリーポーションS』 ケガと体力を回復する。


 ついでにヘッドライトを消して、キャラライトを床に置く。

 今度は軍用ジープタイプの模型風だ。



「最初はこっちから」


 まず最初にリワインドポーションを使用することにする。

 リカバリーの方を使用すると、気付け薬にもなるので目が覚めてしまう。


 リワインドポーションを一気に使わずに、少しづつ使用していく。

 患部の状態を見ながら量を調整する。


「うん、やっぱり効果が高いから、丸々使う必要ないねっ!」


 この使いは、ムツアカにあげたレーションの時に思いついた。

 少量でも、効果があるって。

 なので試してみたら、このアイテムもそうだった。


「それじゃ、次は――――」


 意識のない全員の欠損を治した後で、同じようにリカバリーも使っていく。


「あ、あれ? ここって――」

「俺たちは一体? ――」

「う、うん、なんか暗いな――」

「確か、でっかい虫がみんなを――」


 見る見るうちに目を覚ます街の大人たち。

 直ぐに周りを見渡し、状況を把握しようと視線を巡らす。


 そして、ある一点に注目する。


「「「うわっ! また違う虫がっ! 今度はが生えてるぞっ!」」」


「………………」


 洞窟内に映された、何かのシルエットに驚き大騒ぎを始める。

 言うまでもなく、キャラライトで照らされた私だ。



『……なんだよ、虫の魔物のせいで、私まで虫扱いで怖がられちゃってるよ。でっかい羽根があるんだから、天使とか妖精とか思いついてもいいでしょ? …………あれ?』


 私は驚くみんなを他所に、視線を背中に向けてみる。

 みんなから気になる単語を聞いたからだ。



「…………ああ、これは確かに驚くかも」



 シルエットにも映っていたが、ある一部分が大きくなっていた。


 それは――



 パタパタ



「うん、一応羽は動かせるし、小さくも出来る。これなら邪魔にはならないね」


 そこには大きな羽根を生やした私がいた。

 どうやら魔物との戦いで、スキルレベルと共に成長したようだった。


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