第291話蝶の昆虫VS超の昆虫




「ぐ、ぐぅぅ、い、いい加減、そのハサミどかして、よっ!」


 ハサミの下で、苦痛に耐えながらスキルを操作する。


 ガィンッ!


 私ごと地面に叩きつけ、穴を穿った巨大な尻尾にスキルを叩きつける。

 だが、横から叩きつけたスキルは固い甲殻に容易く跳ね返される。


「くっ!!」


 そして、更にもう一本の巨大なハサミを持つ尾が、更に私に伸びてくる。

 この最後に現れた虫の魔物は、2尾のハサミを持つ尻尾を持っていた。


 その一本で地面に抑え付け、もう一本で私を切断するつもりだろうか。



「って、このまま掴まれたらっ!?」


 ただ、その巨大さ故に鋭利な刃では決してない。切断は不可能だ。

 なので、単純に獲物を挟み込んで、力ですり潰すだけだろう。


 ガィンッ! ガィンッ!


「く、固いし、弾けないっ!」



 透明スキルに重さをプラスして叩きつけるがビクともしない。

 強固な甲殻もあるが、その内部が密度の濃い筋肉繊維でできてるかの様に重い。


「くっ、こいつは今までの魔物とは…………」


 はなから戦いにならない程の質量と存在感と力の差。

 それをこの魔物から感じる。


「明らかに違うよっ」


 これは決して人間が、相対してはいけない種類の魔物だ。


 ガシッ


「ぐはぁっ!」


 伸びてきた2本目のハサミに挟まれ、そのまま空中に吊るされる。

 まるで巨大な万力で全身を締め付けられてるようで、身動きが取れない。


 このまま魔物が力を入れるだけで、私の小さな体などブツ切りにされるだろう。


『ギギギギッ』


 尾を動かして、自分の目の前に吊るして奇声を上げる魔物。

 その黒い目には、苦しむ宙づりの私が映っている。


『ギギギッ!!』


 そして魔物は自分の勝ちを確信したかのように吠える。


 そしてそのまま、私の全身にあり得ない力が加わっていき、



「っ! ぐ、ぐふぅっ!」



 そして――――



 ガゴォ――ンッ!!



『ギッ!』



 ズドォォォォォ――――ンッ!!



 鉄を強烈に打ち付けた音と共に、巨大な魔物は頭から地面に叩きつけられる。

 脳天に何者かの強烈な一撃を受けて。



 トンッ



「うん、10tでもダメージを与えられないか」


 私は魔物の前に着地して、その様子を見る。

 そして挟まったままの実態分身を解除する。


 子分たちは3tで潰せたけど、さすがはラスボスだ。

 この分だと、まだまだ重さが足りないようだった。



『ギギギギッ!!!!』



「うん? なんか怒ってない? それは騙されたお前が間抜けなんだよ。だって私の戦いは基本、分析と解析から入るからね。怪しいアイテムなんか持ってるお前なんてその典型だよ。ある程度見極めてから姿を現すのは当たり前でしょ?」



『ギギギギッ!!!!』



「まぁ、虫のお前に言っても理解できないか。でも私がある程度理解したから、これからはちゃんと戦ってあげるよ」



 さっきまで好き勝手に攻撃を受けていたのは実態分身の私。

 気配まで纏わせたのでうまく騙すことが出来た。


 そして本体の私は、空中で見下ろして分析をしていた。

 実態分身の私を身代わりにして、相手の能力を。



「初見だったら、2本のハサミに驚いただろうけど、正体が分かれば絶対に私には当たらない。それと実態分身とは言え、好き勝手攻撃されて少し頭に来たから覚悟だけはしといてね」



 私は言葉の理解しない魔物に話しかけながら偽大剣を展開する。

 貴族のムツアカと戦った時のような巨大なものだ。


「ただあの時は人間が相手だったから、サイズはある程度抑えてたけど、お前ならその必要はないね」 


 そう言いながら、10メートルを超える大剣を構える。

 そして魔物に向かって挑発するように切っ先を向ける。



『ギギギギィ!!!!』



 挑発が通じたとは思わないが、私を見下ろす虫の魔物は巨大なハサミを振り下ろす。

 そのハサミの部分だけでも私の倍以上の大きさがある。


 ブゥンッ


「んっ」


 ガンッ!


 襲い来るハサミに大剣を横薙ぎに振るって弾き返す。


『ギギィ!』


 ガンッ


 すぐさま、もう片方の尾のハサミも襲ってくるが、これも難なく弾く。


『ギギギィ!』


 ブンッ ブンッ ブンッ


「お、一撃よりも手数に変えたのか」


 ガンッ ガンッ ガンッ 


 虫の魔物はその言葉通りに、交互にハサミを叩きつけてくる。

 巨大なハサミがピストンの様に絶え間なく上下に動き、私を打ち付ける。


 ブブブブブブンッ――――


 ガガガガガガンッ――――


 それでも、私を襲う全てを偽大剣で華麗に迎撃する。



「んっ! ここだっ! 見様見真似『豪・三連強斬』っ!」



 グガガガッ!



 攻撃の隙を見極め、ムツアカが使っていた技を放つ。

 この技は、私が受けた時はスキル武器を大きく弾かれた。



『ギギッ!?』



 その技を、2対のハサミに受けた魔物は、僅かながらその巨体を後退させた。



「よし、さすが歴戦の強者が使ってた技だねっ!」



 その効果を目の当たりにし、称賛の言葉を叫ぶ。



『そうは言っても、偽大剣の重さを、当たる瞬間にプラスした、ただの三連撃の偽物の技なんだけどね。そうしないと、私が吹っ飛ばされるし』


 心の中で、そう注釈をしながらほくそ笑む。

 何だか楽しくなってきたから。


「それじゃ、さっきやられた憂さ晴らしするから、ハサミを食いしばって堪えて見せなよっ! もう二度とお前のターンは来ないからっ!」


 そう言い放ち、もう1機の偽大剣を展開し装備する。

 そして、同じもの3機を私の周りに待機させる。

 合計5本の大型武器だ。


 いずれも大きさは、10メートルを超えるもの



 それを――


「よし、メッタ斬りじゃなく、メッ叩きだっ!」


 両手に装備した偽大剣を、虫の頭に叩きつける。

 刃の部分だけは厚みがあるので切り裂けない。あの時と一緒だ。


 ガガンッ


『ギ、ギギギッ!』

 

「まだまだっ!」


 ガガガガガ――――ン


 私がさっきやられたように、無機質に見える頭に交互に叩き付ける。



「んんんっ――――」


 更に、残りの3機を操作し、頭に向かって集中的に叩き込む。



 ズガガガガガガガガガガ――――



『ギ、ギギギッ! ――――』



 時折巨大なハサミで反撃してくるが、偽大剣で迎撃し攻撃を届かせない。

 インパクトの瞬間に重さを付加してあるので、打ち負ける事はない。



 ズガガガガガガガガガガ――――

 ガガガガガガガガガガ――――



『ギ、ギ、ギギギギギッ――――!』



 絶え間なく、頭に攻撃を受け続ける魔物は、苦しみなのか、悔しさなの、怒りなのかはわからないが、打たれながらも私に向かい咆哮する。



「まぁ、これはきっと怒ってるんだよね。何もできないし、私が何もさせないから。なら、もうそろそろ終わりにしようか、十分憂さ晴らし出来たから」



 偽大剣を全て解除し、その代わりキューブを1機頭上に展開する。


 その大きさは偽大剣に比べたら大したことはない。

 凡そ5メートル程の正方形だ。



「それじゃ、このまま圧倒したまま倒すけど私を恨まないでよ? 悪いのはこの街の人に手を出したお前だから。いや、違うのかな? お前を創造した何者かを恨みなよ」


 ブンッ


 キューブを操作し、巨大な虫の魔物の頭部に叩きつける。


 ただしその重さは50t。



 ゴッ


『ギッ?』



 グジャァッ――――ッ!!!!



 傷だらけだった、魔物の頭部は地面に叩きつけられて爆散する。


「………………」


 大きな頭部に詰まっていた内容物が飛び散るが、透明壁スキルで塞ぐ。



 そして間髪入れずに、残った胴体の上にギロチンのような三角推を展開する。

 幅は5メートル、数は5機。


 頭を潰したぐらいじゃ、活動を停止しないからだ。



「これで残りを細切れにして終了、だね」



 頭部を失い、ビクビク動く胴体に、スキルを振り下ろす。



 ズ、ババババババンッ――――



 5機の偽ギロチンで、胴体の節々を狙い切断していく。



 ズ、ババババババンッ――――


 

 見る見るうちに、巨大で太かった胴体は形を変えていく。

 更に無機質な何かの物体に。


 それを数度繰り返して、透明壁スキルを全て解除する。



「ふう~、こんなものかな。あとはアイテムと胴体を回収っと」



 1個の破片が、私ほどの大きさの破片を回収する。

 20メートルの体だったので、かなりの数が散乱していた。

 謎のアイテムは、普通の腕輪サイズにまで縮小していた。


 それもまとめて回収していく。

 アイテムは後で調べる事を念頭に置いたまま。



「さあ、残りは街の人たちだね。みんな無事ならいいんだけど」



 最後に出てきた、虫の魔物が現れた地面を見ながら呟いた。


 そこには透明壁スキルで守られた、巨大な穴が口を開いていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る