第293話救出とレベルアップ
『なるほど、これはびっくりするよね。でもちょうど使える能力で助かるよ。これが偶然なのか、仕様なのかわからないけど、さすが最新最強防具って感じ』
大きくなった背中の羽根は、私の体よりはみ出ていた。今までは正面から見え隠れする程度だったのが、今はどの角度でも目立ってしまう。
さすがに、本物の蝶のように体と羽根の比率が全く違う訳ではない。
それでも正面から見ると、4枚の羽根が肩口や腰からかなり覗いて見える。
せいぜい、本物の黒アゲハ蝶の比率の半分の大きさだ。
『ただ、大きさを変えられるのは良かったよ。これ以上目立つのは嫌だしね』
普通サイズから、最大まで自由に縮小と拡大が可能。
なので小さくすれば初期状態の大きさにまで戻せる。
「よし、ちょうどいいから早速使ってみよう。まさにこのタイミングで使う場面だしね。これって実は進化だったりしない?」
羽根を最大限に広げて試してみる。
すると羽根の全体から光が溢れ出し、薄暗い洞窟内の全体を照らす。
今回追加された羽根の効果。
【発光】
使用することで発光できる。
輝度を任意で変えられる。
羽根の一部、全体、表裏と光の位置も変更可能。
鱗粉を対象に散布することで、対象も発光できる。
閃光の様に目くらましとしても使える。
―――――――
「うわっ! む、虫が光りだしたぞっ!」
「に、逃げろぉっ! また見た事もない魔物だぞっ!」
「で、出口はどっちだっ!?」
「あ、あの得体のしれない虫の後ろだぁっ!」
「………………」
羽根を発光させた瞬間に、また叫びだす街の人々。
逃げ場所を探してパニックになっている。
「………………あの、私が助けに来たんだけど」
発光を消して、キャラライトの灯りだけにして声を掛ける。
「う、うわっ! 今度は言葉を話したっ!」
「に、逃げろぉっ! 人語を話す魔物だぞっ!」
「で、出口はどっちだっ!?」
「あ、あの得体のしれない虫の後ろだぁっ!」
「………………」
話しかけただけなのに、余計に混乱して騒ぎ出す。
さっきと殆ど似たような事言ってるし。
バシュッ
「う、うわっ! 目が、眩しいっ!!」
「に、逃げられないっ! め、目がぁっ!」
「で、出口が見えないっ! 目が痛くてぇっ!」
「あ、あの得体のしれない虫が爆発したぞぉっ!?」
「………………」
今度は閃光を使ってみたけど、反応はあまり変わらなかった。
何気にこの人たち語彙力が低すぎだよね。
「もう一度言うけど、私はボウって少女に頼まれて助けに来た冒険者だから。虫の魔物は全て片付けたし、あとはここから逃げるだけなんだけどどうする?」
未だに慌てふためく街の人に声を掛ける。
どうするも何も、連れて帰るのは決定事項なんだけど。
せっかく見つけて、治療もしたんだから。
「ボ、ボウだと?」
「そう。妹がホウって言う、双子姉妹の姉の方」
ボウの名前を出したところで、やっと違う反応を見せる。
知り合いの名前を聞いて、少し落ち着いたみたいだ。
「それと、ビエ婆さんと、ニカさんってお姉さんも知ってる」
「な、それは本当かっ? それと全て倒したって?」
「うん、本当だよ。ボウって少女が助けを呼びに冒険者ギルドまで来たんだよ。それで私が来たって訳。コムケの街の方にも被害が出る恐れがあったから。それと――――」
ここで一旦話を止めて、アイテムボックスより、
「これがここを根城にしてた、ボスのハサミ部分。頭は爆散しちゃったからないけど、胴体はきれいに残ってるよ。はい」
ここに入る前に討伐した、ラスボスの破片を並べる。
倒した証拠としては、これ以上証明できるものはないだろう。
「「「っ!!!!!!」」」
目の前に出された魔物の巨大な破片を見て、一瞬で場の空気が固まり、見る見るうちにみんなの顔が恐怖に歪んでいく。
「ふぅ、もう大丈夫だって。キレイに見えて嘘みたいだけど、死んでるんだよ?これで。だから安心していいよ」
私の身長を軽く超える、ラスボスの破片を視覚化したスキルで叩く。
「ほら? ここまでバラバラにすれば生きていないでしょ?」
「どう?」てな感じでみんなを見渡す。
「「「………………」」」
すると次第に視線が破片から離れ始め「コンコン」と叩く私に集まる。
「………………なに?」
さっきとは違う雰囲気が気になって声を掛ける。
「「「お、お前は一体なにものだぁ――――っ!!」
「い、いや、それはさっき説明したでしょっ、冒険者だって」
恐怖の表情から一転、一斉に叫びだすみんなに説明する。
少しだけ言い淀んでしまったのは、異様な剣幕に押されたからだ。
「ち、違うっ! そういう事じゃないぞっ!」
「はぁ、もういいから、さっさとここを離れようよ。上のみんなも心配してるし、ここもいつまで安全かわからないからね」
発光で、洞窟全体を照らしてそう説明する。
いい加減説明するのも疲れるし。
それを聞いたみんなは少しだけ表情を崩す。
「それじゃ、帰りながら説明するからそれでいいよね?」
「あ、ああ、今はそれでいい。あなたの言う通りだから」
「そう、良かったよ。それと私の名前は透水澄香だから。澄香って呼んでいいよ」
「あ、スミカだな? 今度からはそう呼ぶ。で、俺は――――」
「自己紹介も帰りながら話そうよ。移動しながらでも」
「ああ、しかし、ここは地中だろ? 覚えているがかなり深かったぞ」
「それは心配しないで。私が運ぶから」
「運ぶ? スミカがか?」
私は透明壁スキルを展開して、そのままみんなを乗せる。
「わ、足元から白い板がっ!?」
大きさは、幅3メートルの円形にする。それを15機。
それぞれ1機につき3人を乗せて洞窟内地面より浮かす。
「それじゃ、足場はちょっと狭いけど、そこから落ちないでね。ここはまだいいけど、この先の通路はずっと昇りだから」
「あ、ああっ…………」
「「「………………っ」」」
驚き、まだ何かを言いたそうなみんなを他所に、洞窟内を進んでいく。
さすがに15機を動かすのは神経を使うので、慎重に進んでいく。
暫く進むと、真上に昇る縦穴に到着する。
穴の幅は5メートルを超えるので、暴れなければ問題ない。
縦穴も羽根の発光で照らして、ゆっくりと昇っていく。
『羽根の効果もそうだけど、スキルレベルが上がったのも良かったよ。展開数が増えなかったら、また戻って来なきゃだったしね』
慎重に進みながら装備画面を見てニンマリする。
『これだけでも、ここに来た甲斐があったってものだよっ!』
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