第294話真っ赤なお顔と真っ赤な中身??




「しっかし、どんどん便利になる装備だよね。最初ゲットした時はハズレ装備かと思ったよ。半径2メートルしか展開できなくて、最大数も1機。しかも他の武器防具も装備不可。これで銃撃戦を戦えってんだから、無茶を通り越して、馬鹿にしてるんだと思ったもん」



 40人以上をぞろぞろと連れて、縦穴になっている洞窟を垂直に上昇していく。


 円形の台座のようなスキルに大人が3人1組で乗っている。

 私に一番近い真下の青年は、訳あって今は一人乗りだけど。



 降りる時は急いでたので分からなかったが、ラスボスが掘ったであろう洞窟内は、殆ど緩やかなストレートな道で、怪我しそうな突起もなく比較的安全だった。


 そんな訳で、先頭でスキルを操りながら装備メニューを見てニヤニヤしている。

 ラスボスの魔物との戦いで、レベルの上がった詳細を見て。



「それでも、そこで燃えるのが私なんだよね。優勝賞品の最新防具がハズレなわけないってのもあったんだけど、縛りプレイっぽくてかなり本気出してレベル上げしてたっけ」


 「うんうん」と一人頷き、過去の思い出に浸る。


「ただ、防具のデザインだけは最初はドン引きしてたな、周りのプレイヤーも私も。 だってSFな世界観なのに違和感あり過ぎだし、実年齢的にも恥ずかしかったからね。アバターを小さくしといて良かったと思ったもん」


 「じゃなきゃ、装備しなかったかも」なんて思ってしまう。

 30過ぎの女性に、ゴスロリチックな蝶のコスプレなんて罰ゲーム過ぎるし。



「あ、あのぉ、姐さん?」


 真下の青年から、おずおずと言った様子で声がかけられる。


「ん、何? どこかぶつけた? それとも傷が痛むとか?」


 青年の様子を見て、心配してそう答える。

 私が振り向くと、青年は顔が赤いまま下を向いてしまったからだ。


「い、いや、あのぉ、そのぉ、真っ赤とは……」


 何かブツブツ言って、直ぐさま顔を伏せてしまうのは『カイ』という青年。


 実はこのカイという、見た目10代半ばの青年は、地下に避難していたビエ婆さんの息子だった。顔見知りの息子という事で、ずっと私の後ろに付いてもらっている。


 それは知り合いの、身内の人がいたから色々聞きやすかったからだ。

 決して私がコミュ障なわけではない。この世界で、ある程度克服したし。


 ただ気になるのが、ビエ婆さんの孫娘のニカさんの方が、絶対に年上な事。


『息子より孫娘が年上って、普通に考えたらおかしいよ。ビエ婆さんはいったい何歳の時にカイを生んだの? かなりの高齢での出産だよね?』



 それと、カイが私への呼び方が変なのは、ここに来るまでに変わっていた。

 カイも含めみんなには、簡単に私の事を説明してから。


 私が冒険者で、コムケの街の英雄って話や、ここに来るまでの経緯。

 そしてみんなのケガを一通り治したことを。


 なのでその青年、カイの態度から、もしかして傷が完治していないのかと思った。


 今回、回復アイテムは一人一個ではなく、無駄が無いように数人で一個を使ってしまったので、効果が足りなかった可能性があったからだ。



「え、何が真っ赤なの? もしかして血が出てるのっ!」



 危機感を煽る言葉に、私は座り込み、真下のカイをまじまじと見る。

 見た感じはどこも血が出ているようにも見えないし、痛がってもない。

 真っ赤だと言う箇所も見当たらない、顔以外は。



「わ、わわわっ! あ、姐さんっ! いい加減気付いてくださいよっ!」


「え、気付くって何? どこも怪我してないように見えるけど、もしかして中身が真っ赤なの? 体の中身が治ってないって事?」


 私は両手をついて、更に真下にいるカイをよく見てみる。

 そうは言っても、さすがに体の中身は見えないけど。



「そ、そうですよ、その中身が真っ赤なんですっ!」


 そう言って、目を片手で覆いながら、もう片方で指差しをする。


「え?」


 その指を差す方向を、追っていくと…………



「ま、ま、まさか…… あ、あ、あああっ!!!!」


 それは私のスカートの中だった。

 カイの指先はまごう事なく、中に装備している、小さな布切れを差していた。



「って、このぉっ!」


 バシュッ


「うわっ! 目が、目がぁっ!」


 私はすぐさま発光を閃光に変える。

 すると目を抑えて叫びながら蹲るカイ。


『も、もう最悪だよっ! だって今の私の態勢って――――』


 カイの真上で座り込み、両手をついて覗き込んで丸出しなのだ。

 しかも今日はユーアとお揃いの、派手な色を着用していた。赤色の。


 それを真下にいるカイは必死に教えてくれていた。

 ずっと私のパンツが見えてる事を。


 ただし、そのタイミングが――――



「ちょ、もう少し早く言ってよねっ! ここまで来るのにずっと会話してたよねっ? なんでもう少しで着きそうなタイミングで言うのよっ! カイが満喫したからって今更言うのは卑怯だよっ!」


「い、いや、それは姐さんが足場を途中で透明にしたからじゃないですかっ! 顔が見えないと上と下で話がしずらいからってっ!」 


「あ」


 そう言えばそうだった。


 結構込み入った話になると思い、白から透明に戻したんだった。

 お互いに顔が見えないと、話もしずらいなと思ったから。



「ぐ、そ、それにしたって、もっと言い方があるでしょっ! 何で色でって、わざわざ報告するのよっ! だなんて紛らわしいんだよっ! だったら無言で指さすとかして欲しかったよっ!」


 本当に、何でこの街の人たちはわざわざ色で報告するのっ! 

 前にも2回ほどあったよね? ワナイ警備兵から怒られた事。



「い、いや、まさか姐さんみたいな子供の容姿で、そんな派手なの履いてる事に驚いてしまって、英雄さまの中身が真っ赤だなんて……」


「……………………」


 しどろもどろになりながら、そう言い訳するカイ。

 

 何? 少女が赤いの履いて背伸びしちゃダメなの?

 今日は妹の幼女だって同じの履いてるよ?



「そ、それと色で言わないと、下のみんなが気付いちゃうと思ったんですよっ! 見えてるって事実に。でもそれももう手遅れですけどね、姐さんが色々と暴露しちゃいましたから」


 何やら気まずそうに視線を逸らすカイ。


「へ?」


 暴露したって何?


「だってさっき姐さん言ってましたよ『何で色でパンツが見えてるって報告するのっ!』とか『真っ赤だなんて紛らわしいっ!』とか、大声で叫んでましたよ」


「あ」


 つい、恥ずかしさと、頭にきて言ってたような気がする。

 いや、確実に口に出している。



 そして地上に戻り、ボウたちが待つ地下室へと急いだ。

 特にこれ以上は何の問題もなく。


 私の二つ名が『蝶の真っ赤な英雄』に変わったこと以外は。


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