第248話馬子にも衣裳って?




「はぁ、何だか動きずらいなぁ?」


 私は自分の姿を見下ろして溜息を吐く。

 ユーアとお揃いの衣装を着たはいいが居心地が悪い。

 

 因みにユーアは緑色で、私は赤色だ。

 別に世界的に有名な配管工の髭の兄弟を真似た訳ではない。

 たまたまユーアに似合いそうで、お揃いであったからだ。



「フリフリなのはあまり変わらないけど、生地も厚くてゴワゴワしてて、色も派手だし。こんなだと直ぐに敵に見つかっちゃうよね? 森での戦闘には適さないな」


 何て愚痴りながら早足でレストエリアを出る。

 みんなを待たせてるからね。


「みんなどう? 着てみたんだけど、赤なんて似合うかな? ……」


 私はみんなの前に出て「クルリ」と回って見せる。

 知らず知らず声が小さくなってしまう。

 気のせいか、顔に熱が上がるのを感じる。


 きっと慣れない衣装を着たせいだろう。

 それもみんなの前で。


「どう? かなぁ?」


「「「「………………」」」」


 ん?


 ユーアを除いたみんなの動きが止まってる。

 一様に口を開けて私を凝視している。


『な、何なのこれっ! 予想外なんだけどっ!』


 せめて何か一言でも感想言ってよねっ!

 無言が一番精神的にんだけどぉ!


「そ、それじゃもう見せたから、また着替えてくるねっ」


 みんなの視線に居た堪れなくなり私は戻る事にする。

 何だかんだでいつもの装備が落ち着くし。


『ふぅ、馬子にも衣裳って訳にもいかなかったなぁ?』


 ちょっと残念だけど仕方ないよね。

 どうせ私はあの装備にしかアイデンティティないんだもんね。


「あ、あのぉ、お姉さま……」

「ん、何? ナゴタ」


「お、お姉ぇ、あのさぁ……」

「どうしたの? ゴナタ」


「ス、スミ姉……」

「ラブナも何?」


「ねぇね、お主は……」

「ナジメ?」


 それぞれが私の名前を呼んで下を向く。

 余程お気に召さなかったのだろうか?

 気のせいじゃなければ、また耳が赤くなってる。


『………………』


 色々と可笑しくて言い出せないんだね。 

 それを堪えて赤くなってるんだよね? きっと。


「な、何もなければ着替えてくるね。あまり評判良くなかったし……」


 私はとぼとぼと引き返す。


「お、お姉さまっ!」

「お姉ぇっ!」

「スミ姉ぇっ!」

「ねぇねっ!」


「え? な、何?」


 「ガバ」と4人揃って勢いよく顔を上げる。


「ど、どうしたの? 顔まで赤くなって…… あまり気にしないでいいよ? 私はみんなほど目を引く美人じゃないし、愛嬌があるわけでもないから。だからいつものに着替えてくるよ」


「違うのですっ! お姉さまっ!」


「え、違うって何が? ナゴタ?」


 私はやっと顔を上げたナゴタに聞いてみる。

 それを感じてか、他の3人も顔を上げる。


「違うのですっ! 私たちはお姉さまの変わりように感動していただけなんですっ! だから勘違いをさせてしまいまして、申し訳ございませんでしたっ!」

 

「へ? 感動? 勘違いって?」


 珍しくナゴタが声を張り上げて興奮している。


「お、お姉ぇのいつもの黒い蝶の衣裳も、とっても似合ってて可愛くて、大人っぽくてワタシも憧れてたんだっ! でもさぁ、それは卑怯だよっ!」


「ひ、卑怯っ!?」


 続いてゴナタもナゴタと同じように必死に訴えている。


「そ、そうよっ! それを着た途端に、なんでしおらしくなるのよっ! いつもの自信満々な態度はどうしたのよっ!」


「な、自信満々って?」


 ラブナも2人に続いて声高に訴えてくる。

 ような気がする……


「そうじゃぞっ! ねぇねよ。なぜ顔を赤くして小さな声で『に、似あう?』なんて言うのじゃっ! そんなのいつものねぇねじゃないのじゃっ! ズルイのじゃっ!」


「今度はズルイっ!? な、なんで私が?」


 一体何なのこれ?


 みんなを気にして着替えようとしたら、今度は文句を言われるの?


『うううっ~~~~』


 踏んだり蹴ったりだよっ!

 弱り目に祟り目だよっ!

 泣き面に蜂だよっ! 


「スミカお姉ちゃん違うよ?」

「え? 違うって何が? ユーア」


 この中で一人「ニコニコ」と成り行きを見守っていたユーア。


「みんなスミカお姉ちゃんに驚いたんだよ?」

「う、うん。それはわかる」


 だってみんな顔を赤くしてまで我慢してるからね。


「ううん、そうじゃなくて、スミカお姉ちゃんがきれいで、みんなびっくりしたって事だよ? ナゴタさんもゴナタさんも、ラブナちゃんもナジメちゃんも」


「えっ!? そうなの?」


 ユーアの言葉に驚いてみんなを見渡す。


「あ、あのぉ、私が先ほど言ったのですが、みんなそれぞれ感動して声が出なかったんです。お姉さまがいつもの毅然としたお姿ではなく、年相応の少女のような振る舞いだったので……」


「そうだぞっ! お姉ぇ。だからワタシたちはそんなお姉ぇに衝撃を受けたんだぞっ! いつもの強いお姉ぇもいいけど、守ってあげたくなるそんな可憐な感じだったんだぞっ? さっきのお姉ぇは」


「まぁ、師匠たちが殆ど言っちゃったけどそんな感じよっ! だからそんなか弱い振りしなくてもいいわよっ! なんだかウズウズするからっ」


「うしし、ねぇねよ。お主はもっと自分を自覚した方が良いのじゃ」


 ユーアに促されるように、みんながそれぞれに感想を言ってくれる。

 でも結局それってどうなの?


 ただいつもと違くて驚いただけだよね?


「で、それで、あのさ、結局…………」


 私はたどたどしく聞き返す。

 最後までを聞けなかったから。


 装備がないせいか感情が外に出やすい気がする。

 そんな事も今になって気付いた。


 特に「気落ち」や「気恥ずかしい」といった感情が……


 なんて、一人考えていると――――



「とてもですよっ! お姉さまっ!」

「お人形さんみたいでぞっ! お姉ぇっ!」

「アタシと同じ色も中々じゃないっ! スミ姉っ!」

「ねぇね、のじゃっ! 可愛いのじゃっ!」


「えっ! あ、ありがとうみんなっ!!」


 みんながそれぞれに褒めてくれた。

 そして聞きたかったことを言ってくれた。

 ユーアとお揃いのこの衣装で。


 この瞬間に、私もこの世界で認められた気がする。

 何のチートもない、この世界の服装で似合うって言われたことに。


 ユーアや、みんなが住むこの世界の住人になれたとさえ錯覚する。


『……あの装備は便利だけど、あれを着てるとどこか私だけ違う世界の住人だった。でも、もうこれで吹っ切れた気がするよ。ユーアやみんなには感謝だよねっ!』



 知る人が知れば、それは大袈裟だと笑い飛ばすかもしれない。

 たかが衣装を褒められたぐらいで、何をそんなに。なんて。


 それでも私は嬉しかったんだ。


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