第247話明日の予定とお着替え




「それじゃ次は直近の予定と大まかな予定ね」


 みんながそれぞれ一息付いたところで仕切り直す。


「んと、まずは孤児院の事が先かな? ナジメなんか報告あるんでしょう?」


 そう言いながらナジメを見る。


 そんなナジメはユーアとラブナに口の周りを拭いてもらっていた。

 どうやら生クリームが口の周りに付いていたらしい。


「う、うむ。それではわしから話をしようぞ」


 それでも何事もなかったかのように姿勢を正して

 「キリ」と真面目な顔をする。


「あ、ナジメちゃんまだ拭くの途中だからっ!」

「そうよナジメっ! まだ動かないでよねっ!」

「わぷっ! ちょっと今はわしが話をっ!」


 だがそんな空気も直ぐに台無しになっていた。


「「………………」」


『う~ん。年長者なのに世話かかるなぁ?』


 ある意味この中で一番残念なのはナジメかもね?

 見た目的にも中身に関しても。

 


「こ、孤児院を任せる人員の件なのじゃが、昨日の内に、ロアジムのところに進捗を聞きに行ったのじゃ。元々ロアジムに協力してもらってたからのぅ」


「そ、それでどうなの? ナジメちゃんっ!」


 すぐさまユーアが口を挟み


「ナジメのとこも居心地がよさそうだけど、早く引っ越したいわよね? 何だかんだ言ってもナジメもそうだけど、ロアジムさんにも迷惑掛けぱなしだしっ!」


 次いで、ラブナもユーアに続く。


「ねぇ、二人とも、きちんとナジメの話を聞こうね?」


 ナジメが話し出して直ぐに、二人が話の腰を折る。

 いくら心配だからって、この調子では話が進まない。


 なので私は二人にやんわりと釘を刺した。


「ご、ごめんなさいっ! スミカお姉ちゃん……」

「わ、わかったわよっ! スミ姉」

 

 シュンとしながらも続きを聞きたくてそわそわしている。


「う、うむ。元々はわしが原因なのじゃ。じゃから気にせずともよいのじゃ二人とも。それで人員の件なのじゃが――――」


 落ち着かない二人に気を使ってナジメが話し出す。


※※


 要約するとこうだった。


 他の街から要請して、この街に来るのには1週間はかかるらしい。

 この辺りは、この前ナジメに聞いた凡その日程と同じだ。


 ただここから違うのが、その間に人が用意出来る事。

 なので明日からでも、ナジメの屋敷から孤児院の子供は出れるらしい。


 で、その人員って言うのがロアジムの知り合いの貴族たち。


 この街の他の貴族にロアジムが話をして、数名を融通してもらったらしい。

 期間は1週間ぐらいなので問題ないそうだ。


 他には孤児院に必要な雑貨や寝具類もナジメが自腹で用意してくれた。

 なので引っ越そうと思えば明日にでもOKだそうだ。


※※


「と、まぁ、こんな感じじゃな。わしと言うか、ロアジムが段取りを組んでくれたおかげで、早めに子供たちは屋敷から出られるじゃろう」


 ユーアとラブナに視線を送りながら話を終える。


「ナジメちゃん凄いっ! ありがとうっ! 嬉しいっ!」


「ナジメやるわねっ! でも凄いのはロアジムさんだけど、ナジメの顔があったからって事にしてあげるわよっ!」


「う、うむ、わしもそう言われて嬉しいのじゃっ!」


 話を終えたナジメに、ユーアは興奮したようでカタコトになっていた。

 ラブナはラブナなりにこれでも褒めているんだろう。

 仕方ない。リアルツンデレだし。


「ナジメ、名誉挽回ですねっ!」

「さすがこの街の領主さまだなっ! ナジメっ!」


「う、うむ。わしも頑張ったからなっ! わははっ!」


 ナゴタとゴナタの二人にも褒められ、微妙に天狗になるナジメ。


 ここは確かにみんなの言う通り、ナジメが動いて頑張った結果だろう。


「うん、昨日の休みも返上して、ナジメは頑張ったんだね。偉いぞ」


 私もナジメに賛辞を送って、頭を軽く撫でてあげる。

 今更過去のナジメを乏しめても仕方ないからね、今はこれが正解。


「う、うむむ。ね、ねぇねにもそう言ってもらえると、もの凄く嬉しいのじゃ。でもわしが撒いた種じゃからあまり褒めるでないぞ?」


 そう顔を伏せ遠慮がちに言ったナジメは、耳まで赤くなっていた。

 何だかんだでとっても嬉しそうだ。


「それじゃ明日は、私とユーアとラブナとナジメとハラミで迎えに行こうか。ついでにロアジムのところにもお礼を言いに行きたいし」


 少しだけ悩みながらそう提案する。


「うぬ、ねぇねも行くのか?」

「そうだけど、何かある? もしかして手土産が必要だとか?」


 ちょっとだけ意外そうな顔をしたナジメに聞いてみる。


「じゃったら、ロアジムは気にしないと思うのじゃが、ねぇねはユーアたちと違って成人しておるから正装をした方がいいじゃろう。他の手伝ってくれた貴族にも合うやもだろうし」


「えっ? 正装ってこれじゃダメ?」


 私はヒラヒラと背中の羽を動かす。


 正直貴族街なんて行きたくない。

 何があるか分からないし。


 でも私はユーアたちの保護者だから仕方ない。

 それ以外だったら絶対に行かないだろう。 

 もしかしたら私の偏見かもしれないけど。


「ううむ。わしからしたら、ねぇねはそれが正装だと思うのじゃが、それでも貴族の中には頭の固い輩もおるのでな? なるべくは普通の服装の方が良かろう」


 ナジメは私の羽を興味深く見ながらそう教えてくれる。


「そもそも正装ってどんなのがいいの?」

「そうじゃな、なければわしのをねぇねに貸してあげるのじゃ」

「いや、いや、サイズがそもそも違うでしょう?」

 

 むしろ、そのサイズが着れたら私は泣いちゃうよ?


「それは大丈夫なのじゃ伸びる素材らしくてなっ! ナゴタたちにはきつそうじゃが、ねぇねにはすると思うのじゃっ!」


「ふ~ん。どんなの?」

  

 また衣装自慢っぽいけど、遠回しに色々と否定された感じ。

 それでも一応聞いてみる。ナジメが嬉しそうだから。


「これなのじゃっ!」


 そう言ってナジメがマジックバッグから出したのは

 この前孤児院に着ていった衣装セットだった。


「そ、それって体操服じゃんっ! そんなのはヤダよっ!」


 ナジメが出したのはブルマと体操服&ランドセルだった。

 着れる着れない以前に、この年でそんなの着たら人生終わりそうだよ。

 社会的にも生きずらくなるよ。


「なら、こういったのもあるのじゃっ!」


 嬉々としてゴソゴソと次に出してきたのは――――


「…………………」


 上が薄い水色の丈が長い「スモック」と呼ばれるもの。

 下のスカートは紺のストレートなもの。

 その他には黄色の肩掛けのポシェットがあった。

 こちらはマジックバッグなのだろうか?


「これならねぇねにも似合うと思うのじゃっ!」

「それ園児服じゃんっ! どこからどう見てもぉっ!」

「これもサイズ的には大きくなるから大丈夫じゃぞ?」

「い、いや私は遠慮しておくよっ! それはナジメが着なよっ!」

「そ、そうか分かったのじゃ……」


 渋々といった様子で腰のマジックポーチに戻す。

 その顔はちょっとだけ悲しそうだった。


『……それにしても』


 どれだけナジメはこの世界では異質な衣装を持っているのだろう。

 一体どこでそれぞれ手に入れたのだろう。


 色々と問いただしたいけど、きっとまた自慢が始まるからやめた。

 また勧められて、断るのも可愛そうだしね。



「それだったら、ボクとお揃いじゃダメなのかな?」

「うん?」


 そう言いだしたユーアの今日の服装は


 短めの深緑のベストと、中は白いワイシャツ。

 スカートは厚手の物で少しだけ裾が広がっている深い緑色。

 そのスカートは所々にタックや刺繍やフリルなどが付いている。


 見た目的には何となくお嬢様に見えなくもない。

 ちょっとだけメルヘンな感じもするけど。


 因みに私の色は緑のところが赤になっている。


「おお、それなら大丈夫じゃなっ! 一応着替えては見てくれんかのうっ!」

「お、お、お姉さまっ! 一度お召しになって確認しましょうっ!」

「あ、あ、あ、お姉ぇっ! ワタシも手伝うからそれ着て見てくれよぉっ!」

「へ、へぇ~っ! 意外といいんじゃないのスミ姉っ! 着て見たらっ!」


「えっ!?」


 アイテムボックスよりお揃いの衣装を出した瞬間にみんなが騒ぎ出す。

 気のせいか目が怖いし、鼻息も荒い。

 そして一様にテーブルに身を乗り出している。


「わ、わかったよっ! 中で着替えるからナゴタ部屋貸して?」

「ど、どうぞっ! 何ならお手伝いしますがっ?」

「ワ、ワタシも手伝うぞっ!」

「いいよ。これくらいなら一人で着れるから」


 少し興奮気味な二人にそう言い残し、ナゴタたちのレストエリアに入る。


 テーブルの上に鎮座している「プルプル」した

 何かを見ないようにしながら。


「何だって同じ街に行くのに、こんな面倒臭いの? はぁ」


 なんて愚痴と溜息を吐きながら着替えるのであった。


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