第249話競技大会(仮)のお話と慰安旅行




「う、うんと、それじゃ、引き続き孤児院の話だねっ」


「「「はいっ!!」」」


 私はいつもの装備に戻って仕切り直す。



 ちょっとだけ名残惜しいけど、あまりジロジロと見られたくはなかった。

 みんなが褒めてくれたのは嬉しかったけど、それとこれとは別の話だ。


 それに一応あの衣装でも、貴族の人たちには失礼がないと、ナゴタとラブナとナジメから太鼓判をもらった。だから今はこれ以上着てる必要はない。


『それにしても、ナジメはあのおかしな衣装で、なにも失礼がないってどうなってるの? ただ単に見かけで判断されて仕方なく思われてるとか? だってどう見てもあれは正装でもないし……』


 さっきナジメが出した園児服と体操服セットを思い出してみる。

 どこからどう見ても、正装には見えない。


 それにまだ気になる点もある。


『そもそも普段のスクール水着だっておかしいのに、突っ込む人が殆どいないのは何故? もしかして認識阻害とか、そういった付与能力がある装備だとか?』


 一人悩んでみてもこれ以上、今は何もわからない。

 それでも特殊な何かがあるのは間違いない。


 そんな事を一人悶々と考えてしまう。



「あのぉ、スミカお姉ちゃん? お話しどうするの?」


 すると、それに気づいたユーアが声を掛けてくる。


「あ、ごめんね。え~と孤児院の話なんだよね」

「はい、スミカお姉ちゃん」

「そうよスミ姉。いきなり間抜け面してたけど、どうしたのよ?」

「べ、別に何もないよ。それで孤児院の話って言うか、実は子供たちの話なんだよ」


 私はユーアとラブナに向き合い話を進める。

 


 それはこの前手伝った大豆屋工房サリューの働き手募集の事だ。


 メルウちゃんとマズナさんだけでは繁盛し過ぎてお店を回せない。

 それで孤児院の子供たちを雇ってみてはどうかと提案した事。

 マズナさんとメルちゃんは是非ともと喜んでいた事。


 それらを踏まえてみんなの前で説明する。


「え、孤児院の子たち働けるの?」


 目をまん丸くしてユーアが驚いている。


「うん、それでナジメもユーアたちも大丈夫かなって聞きたいんだけど」


「ボ、ボクは賛成ですっ! それにあの子たちも喜ぶと思いますっ!」

「アタシも賛成だわっ! それだったら自分たちで稼いで好きなもの買えるからねっ! 反対する理由が見つからないわよっ!」

「わしも特に反対意見などないのじゃ。いい事だと思うのじゃ」


 関係者の満場一致で問題なく可決された。


「よし、ナジメたちの許可が取れて良かったよ。具体的な日時とか、人数とかは私がマズナさんに聞いておくから。あ、後それと子供たちは読み書きとか、ちょっとした計算出来るの?」


 私は気になってた事を聞いてみる。


 全く出来ないとなると、逆にマズナさんたちが大変だ。

 まぁ、最悪は雑用だけをやって貰えれば問題ないけど。


「小さい子はまだだけど、ボクより下の子まではみんな出来るよっ!」


 ユーアがにこにこして自慢げに語る。


「へぇ~、それは立派だね。でもどうやって覚えたの?」


 私は笑顔のユーアを撫でながら尋ねる。


 逃げ出した孤児院の院長たちがそんな事を教えてたとは思えない。

 だったら何故と? 思ってしまうのは普通だろう。

 事情を知ってるが故に。



「それはね、ラブナちゃんが教えてくれたんだよっ!」

「ラブナが? あ、ああ、そういう事かぁっ!」


 「ポン」と手を叩いて思い出す。


 ラブナは元々貴族の子供だった。

 それで学園にも通ってたみたいな事も言っていた。


『ああ、だからさっきも私の衣装が失礼じゃ無いか知ってたんだね?』


 ユーアとお揃いの服がナジメとナゴタとラブナから

 太鼓判を押されたことを思い出し、そう納得する。


「なるほどね。ラブナがねぇ」


 私はチロチロとラブナを見る。

 

「だからありがとうねっ! ラブナちゃんっ!」


 そう言って「きゅ」とラブナの腕にユーアが抱きつく。


「べ、別にアタシはユーアだけに教えたかっただけなのに、ユーアがみんなに教えたいって言うから仕方なく付き合っただけだかんねっ! だからあんまり大袈裟に言わないでいいわよっ!」


 相変わらずニヤニヤしながらも、言ってる事は正反対だった。

 ちゃっかりとユーアの体に自分を寄せている。



「それでもマズナさんたちの負担が減るから、ある意味ラブナの大金星だよ。良く教えてくれてたね、さすがラブナだねっ。ユーアもありがとねっ!」


 私はそう言い、ユーアを一緒にラブナの頭を撫でる。


「えへへっ」

「ちょ、ちょっとスミ姉もいちいち大袈裟なのよっ!」


 ラブナはそう言いながらも少し嬉しそうだった。

 ユーアと一緒で撫でられるがままだったから。


「そ、それでスミ姉、多分4~5人くらいしかまともに出来ないわよ? 小さい子は読むのもギリギリだし、計算は簡単なのしか出来ないけどいいの?」


「うん。それで回せるように考えるから心配しないでいいよ」


 その数名でも子供たちの中にできる子がいれば十分。


 ローテーションでその子と出来ない子を組ませれば、教えながら働けるし、それか役割で仕事を分けてもいい。とにかくマズナさんの負担が減る事には変わりはない。


 ユーアの面倒見の良さと、ラブナがいてくれて僥倖だともいえた。



「それじゃ孤児院の件は、明日にも進めるとして、次は――――」


「お姉ぇっ! 次は競技大会の話だよなっ!」


 次の議題を思い出そうと、みんなを見渡していると

 ゴナタがいち早く反応する。


「そうだね。確か2か月半くらい先だったよね?」

「うむ。そうじゃ、ねぇね」


 次に返答をしたのは、一番この話に関わるナジメだった。


「なら何となくだけど、大会に付いても話し合おうか。その為にもみんなは強くなることを望んだんだよね? なら誰がどの部門に出場するか決めようか? 」


「「「はいっ!!」」」


「え~と、今回も一緒だったらこんな感じだったかな?」


 私は記憶を頼りにメモに書いていく。


 【剛腕、力自慢】部門

 【素早さ、俊敏さ】部門

 【魔法使い】部門

 【射撃手】部門

 【異種混合戦】部門

 【チーム戦】部門


「そうだねお姉ぇ。それで間違いないぞっ!」

「うむ。わしの時もそんなじゃったな」


 それを見て、この中で一番楽しみそうなゴナタと、何度か出場していて、数年前の優勝経験者のナジメからOKを貰う。


「これって今思うと、どの部門でもバタフライシスターズの今の戦闘スタイルに当てはまってるよね? 特に『剛腕』と『俊敏』何かは特に」


 ナゴタとゴナタの姉妹を見てそう思う。


「そうですね、お姉さま。それに『魔法使い』だとナジメはもちろん、ラブナでも当てはまりますね? 些かまだ未熟ではありますが」


 次いでナゴタがナジメと弟子のラブナを見てそう発言する。


「後はユーアが『射撃手』で完璧だねっ!」


 最後に私はユーアの頭に手を乗せながらそう話す。


「え? スミカお姉ちゃんは?」


 そんなユーアは私が勝手に射撃部門に名前を上げたのに

 何も気にしていない様子。


 その落ち着きぶりを見ると、元々自分の中で決めていたんだとわかる。

 ユーアもナジメの為に力になるって決心してたはずだから。


「私はもちろん、これだよっ!」


 腕を伸ばしてある一点を指さす。

 そこは個人で出れる最後の部門『異種混合戦』


「まぁ、スミ姉は必然的にそこになるわよね? メンバーと被っちゃったら、潰し合いになっちゃうわけだしっ!」


 ラブナがいの一番に反応してそう話す。

 確かにラブナの言う通りだ。


「でも、お姉ぇは何処に出ても優勝しそうだけどなっ!」

「そうですね、お姉さまなら全部門で優勝できるでしょうっ!」


 今度はナゴタとゴナタがちょっと興奮したようにそう話す。


「いや、そんな簡単にいかないと思う。だってナジメが数度挑んでも1回しか優勝できなかったんだから。それにみんなもナジメの強さは知ってるでしょ?」


 楽観視している姉妹の二人に、少しだけ釘をさす。

 私を認めてくれるのは嬉しいけど、気の緩み過ぎだと思う。

 

「はい、知っていますお姉さまっ! ナジメには私たち姉妹の二人がかりでも、恐らく引き分けにも持ち込めないでしょう。せいぜい『いい勝負だった』て言われるくらいですね」


「ワタシもそれぐらいはわかってるぞお姉ぇっ! でもワタシたちやみんなはもっと知ってる事があるんだぞっ!」


「そうだね二人とも。なら安心した。ん? もっと知ってるって何が?」


 二人が理解してて良かったと頷きながらオウム返しに聞き返す。

 今の話で、それ以上何を知っているというのだろうと。


「お姉さま。それはみんなが当たり前に知っている事ですよ?」

「そうだぞお姉ぇっ! わからないのかい?」

「はぁ、やはりスミ姉は天然だわっ!」

「うむ。それがねぇねらしいと言えばそうなのじゃがなっ!」


「え? 何、私に関係する話だって事?」


 みんなからの視線を受けながら、首を傾げる。


「ねぇ。スミカお姉ちゃん」

「え? どうしたのユーア」


 ポンポンと肩を叩きながらユーアに呼ばれる。

 

「え~と、みんなが言いたいのはきっとこうなんだよ。『スミカお姉ちゃんはどんなに難しくても、どんなに相手の人が強くてもきっと勝っちゃうんだよ』て言いたいんだよ」

 

 「ねっ!」と周りを見渡しユーアがみんなに同意を求める。


「はっ? いやいや、それは嬉しいけど、もしかしたら私より強い人だっているんだよ? それでも私は勝てるって言うの? みんなは」


 私もユーアと同じようにみんなに同意を求める。


 なんか言ってる事が理にかなわないというか、支離滅裂というか

 ただの希望的な願望にしか聞こえないから。


「もし、仮にじゃが。ねぇねよりずっと強い者がおるとするとしよう。腕力や、素早さ、体力や魔力。それらの全てをねぇねより上回っている相手じゃ。それでもわしを含むみんなはねぇねが勝つと思っておるのじゃ」


「へ? それって、どういう――――」


「そうよスミ姉っ! スミ姉より相手が、強い弱いなんて関係ないのよっ! そもそも誰もスミ姉が負けるとは思ってもないんだからねっ!」


「………………え?」


 私はナジメに続きラブナが言った意味を理解して少し驚く。


 実に簡単な事だった。


『…………………』


 いや、簡単と言うか単純だった。


「はぁ、わかったよ。なんだか微妙に納得できないけど約束するよ。私はに負けないし、みんなの期待にに応える。 そして絶対に優勝する。ね? これでいいでしょ」


 シスターズを見渡して「ニヤリ」とする。

 要は最後にこれが聞きたかったんだろうと。

 リーダーとして私の言葉が必要だったんだろうと。

 きっとそれが各々の士気にも繋がるのだから。


「はいっ! スミカお姉ちゃんっ!」

「そうよっ! スミ姉っ!」

「す、素敵ですっ! お姉さまぁっ!」

「か、かっこいいぞっ! お姉ぇっ!」

「わ、ワシを抱いてくれなのじゃっ! ねぇねっ!」

『がう~~っ!!』



 それぞれが声を上げて喜んでいる。。

 どうやらこれで良かったみたいだ。


「あ、まだ聞きそびれてたんだけど、一人なん部門に出場できるの?」


 私はみんなが「キャッキャ」してる中ナジメにそっと聞いている。


「2部門じゃよ。ねぇね」

「了解。なら問題なく『チーム戦』にも出れるってわけだ」

「うむ。じゃが、異種混合戦と同じで危険が伴うのじゃ」

「やっぱりそうだよね、ならチーム戦は少し考えておくよ」

「うむ。わかったのじゃっ。任せるのじゃ」


 私はそこまで聞いて話を終える。

 年少組の事はもう少し様子を見る必要があるなと

 頭の片隅に置いておく。



「それじゃ大まかな事は話し終えたから最後の報告だよぉ~!」


 少しだけ声のトーンを上げてみんなの意識をこちらに向けさせる。 



「なんですか。最後の報告って? スミカお姉ちゃん」


 ユーアが代表してなのか、首を傾げながら聞いてくる。


「うんとね、孤児院の件も落ち着いたら遊びに行くからね」


「遊びですか? どこですか?」

「まさか危ない夜のお店じゃないでしょうね? スミ姉」


「ここから北西にある森に行くんだよ」


 ラブナを無視して話を進める。


「え~、ここから北西の森って言うと――」

「ウトヤの森よ、ゴナちゃん」


「そんな森に何しに行くのじゃ? ねぇねよ」


 名称の分からないゴナタにナゴタが教える。

 その隣のナジメが不思議そうに聞いてくる。


「ピクニックと泳ぎに行くんだよ。大きな湖がそこにある事は知ってるから。それでみんなも最近忙しかったよね? だからみんなでゆっくり遊ぼうと思ってさ。要は息抜きをしに行くって事」


「お、泳ぐんですか? ボク初めてかもっ!」

「ならアタシが教えてあげるわよっ! ユーア」


「確かにお姉さまの言う通り、息抜きも必要ですねっ!」

「ワタシは大賛成だなっ! どこか抜けない疲れがある気がするもんなっ! 


「さすがねぇねなのじゃ。みんなの事を考えておるのじゃっ!」

『わうっ!』


「なら決まりだねっ! それじゃ今日の議題は出し切ったからこれで終わりね」


 私はみんなの笑顔を見て今日の話し合いを終える。

 それぞれが喜んでくれて良かった。


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