第9蝶 妹の想いと幼女の願い3

第250話スミカ初めての貴族街に





「ん~、やっぱりゴワゴワしてて動きずらいなぁ~。そういった目的の服装じゃないのはわかるんだけど。何だか落ち着かないなぁ」


 レストエリアの前で手足を「グルン」と動かし一人愚痴る。


「似合う似合わない以前に、何か不安になるんだよね。初めて行く場所ってのもそうだけど、元々持ってるイメージが余計に不安にさせてるんだろうけどね」


 そう。

 今から向かうところは貴族の多く住む地域。

 要は『貴族街』と呼ばれるところ。 


 昨日みんなで決めた予定通りに、私とナジメとユーア

 そしてラブナで孤児院の子供たちを迎えに行く。


 その子供たちは今はナジメの屋敷で面倒を見てもらっている。

 それを4人で迎えに行く予定だ。


 他に色々とお世話してくれたロアジムに挨拶にも行こうと思う。


 それで他の貴族に会う可能性もあるからと言って、私は装備を脱いで私服に着替えてるって訳だ。因みにユーアとは今日はお揃いではない。


 ユーアは薄い黄色のワンピース。

 私は昨日ユーアが着ていた色違い。


 赤のベストと中は白いシャツ。そしてスカートも赤。

 ベストとスカートには刺繍やフリルがあつらえてある。


「まぁ、いつもの装備よりは絡まれる可能性は薄いかな? これで絡まれたら、それは私のせいじゃないって事だね」


 なんて一人ブツブツ言っていると


「スミカお姉ちゃ~んっ! お待たせしましたっ!」

「スミ姉っ! 待たせてごめんっ!」

『わうっ!』


 ハラミに乗ったユーアが帰ってきた。

 その後ろにはラブナがニコニコしながら乗っている。


 今日は一緒に行くので迎えに行ってもらっていた。

 ナジメは自分の屋敷にいるので後で会う予定だ。


「うん。それじゃ行こうって、あれ? ラブナも着替えてきたの?」

 

 いつもの赤いローブと短いタイトなスカートじゃない事に気付く。 


「う、うん。ナゴ師匠が、アタシも一応身だしなみ整えて行けって。それで昔の服を貸してくれたのよっ! 胸が少し緩いけど」


 そう言い、少しモジモジしながらハラミから降りる。


「へぇ~、随分とイメージが変わるもんだね。髪も下ろしたんだ」

「うん、それはゴナ師匠がクシで梳かしてきれいにしてくれた」


 ハラミから降りた今のラブナの格好は、薄い青のドレス。

 いつもの赤髪のツインテは解いてストレートになっていた。

 それとドレスはナゴタのおさがりらしい。


「うん、それだったら貴族の子供だって言われても信じるかも」

「や、やめてよスミ姉っ! それ昔の話だからっ!」

「うん、ラブナちゃんきれいだよねっ!」

「もうっ! ユーアまでっ!」


 褒められたラブナは、いつもよりしおらしく見えた。

 どうやらきれいな衣装は人の内面まで変えるみたいだ。



※※



 そうして私たちは貴族街に足を踏み入れる。

 ユーアやラブナは何度か来ているが、私は初めてだ。


 この貴族街と呼ばれる場所は、私たちが住んでいる一般地区から、商店街に繋がる通りの間に位置するところにある。


 特に貴族街に入るのに、堅固な高い門やら、門兵やら、そういったものはなかった。ただその代わりに、低いレンガで出来た境界線らしいものがあった。


 街並みはさほど豪邸でも、ましてや屋敷などには見えなかった。

 どちらかというと、洋風なちょっとお金持ちが住むくらいの家々だった。


 そんな感じの建物が、一定間隔で整然と並んでいた。

 そんな中をトコトコと3人と1匹できれいに整備された舗道を歩く。


「へぇ~、思ったほど豪華にも、豪邸にも見えないな。もう少し、金に物言わせた下品な家ばっかだと思った」


 街並みというにはちょっと物足りない家々を見てそう言った。

 

「ああ、それは奥に行くほど凄い屋敷が出てくるわよっ」

「そうなんだ。それじゃナジメの家は?」

「ナジメちゃんの家はもっと上ですよっ!」

「上?」


 そう言ってユーアはこの先の小高い丘の上を指さす。


 その先は緩やかな坂になっており

 上に行けば行くほど建物が少なくなっている。


 その丘の上には小さく家らしいものがポツンポツンと数軒見える。

 いずれかがナジメのお屋敷だろう。

 ひと際大きな建物も見える。


「ふぇ~意外と貴族街って家の数の割には広いんだね」 

「そうですね、でもお店は結構あるんだよ?」

「お店? そんなのあったっけ? 看板もなかったよね?」


 私は今通ってきた街並みを振り返り思い出す。

 小洒落たガラス窓が多い家などはあったけど。


「スミ姉。ここは決まった人間しか買いに来ないから看板なんて必要ないのよ。卸しに来る人たちも昔から同じ問屋からだし」


 ラブナが人差し指を立てながら説明してくれた。


「ふ~ん、それじゃ普通の人は中々区別が付かないわけだ」


 それはそれで不便なんじゃないかと思う。

 商売にもならないだろうし、買いたいものがどこにあるかも分からないし。


「普通の人はこんなとこで買い物なんてしないわよっ! ここで買うくらいだったら、街で買ったほうが安くていっぱい買えるんだもんっ!」


「ああ、なるほどね。物価って言うか、高級品ばかり置いてあるんだ」

「そういう事ね、スミ姉っ!」

「それじゃ吹っ掛けた値段で売ったりしてるものは?」


 私はちょっと得意げなラブナに聞いてみる。

 定番でそんなこともあるだろうと。


「あるにはあるけど、それは宝石品だったり、美術品だったり、珍しいマジックアイテムだったりするから、一般人にはあまり関係ないわねっ」


「なら、私たちにも関係ないね。うん、それなら納得」


 どうやら一般人にも貴族相手にも悪どい商売はしていないみたいだ。


「あ、でもお肉はちょっと高いんだよぉ~、ログマさんのところに比べると、量も新鮮さも、品揃えも良くないのに~~」


 どうやらユーアはお肉屋さんは納得できないようだ。


「そ、そうなんだ。それならログマさんのところで正解だね」


 私はハラミから降りて歩いているユーアを撫でて慰める。


「別にお肉だけが高い訳じゃないわよ? 食べ物も素材も街にはない、良いものを揃えてるから高いってだけなのよ。それ相応だと思うわよ? アタシは」


 ユーアと私のやり取りを聞いて、ラブナが口を挟む。

 恐らく元貴族として、商品の見る目はあるんだろう。


 だけど……


「で、でもラブナちゃん、お肉はログマさんのところがぁ~っ!」

「わ、わかったわよっ! でもそんなに変わらないわよっ! アタシが見た感じは」


 せっかく私がユーアを宥めたのにラブナが直ぐにぶり返す。


「ラブナ」


 私はそれを見て「ポン」とラブナの肩を叩く。

 そして耳元まで近づいて話す。


「何? スミ姉」

「お肉に関してはユーアが一番詳しいし、博識だから。負けを認めなさい」

「え、ア、アタシは別に勝ち負けなんてっ!」

「いいのいいの。何でも知ってるお姉さんアピールは、他でもできるから」

「う、ううう」

「あと、ユーアにはお肉の事で、嘘も冗談も効かないから気を付けて」

「う、うん、わかったわよっ!」


「え? どうしたんですか? 二人とも。お肉の話ですか?」


 すぐさまユーアが気付き、私とラブナを見ている。


「ううん、違うよ。何でもないよっ」

「何でもないわよユーアっ! ほら、そろそろ着くから前を向いてっ!」

「う、うん、わかったよラブナちゃん」


 そんなこんなで私たちは、特に絡まれる訳もなく、

 目的地のお屋敷の前に着いた。


「な、も、もの凄い豪邸だねっ! ナジメこんなとこにいるの?」


 着いてそうそう驚いてるのは何故か私だけだった。


 そこは来るときに下から見た、一番大きな屋敷の前だったから。

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