第116話暴走するツンツン娘
バアァァンッッ!!!!
「ちょっとっあなたたちっ! ユーアになんて危ない事させてんのよっ!」
「ちょ、ちょっとラブナちゃんっ! ボク、危なくなんかなかったよぉ、ラブナちゃん、ちゃんと聞いてよぉ~~」
そう金切り声を上げ勢いよく入って来たのはユーアの友人のラブナだった。
その傍らにはユーアが腕にしがみついていた。
「どうしたの? ユーア。お友達が何か怒ってるみたいだけど」
「……………………」
「……………………」
ラブナを止めようとしてなのか? 腕にしがみついているユーアに聞いてみる。
怒鳴り声を上げる本人に聞いても埒が明かなさそうだからだ。
姉妹の二人は私に任せるつもりなのか、口をつぐみ成り行きを見守っている。
「どうしたも、こうしたもないわよっ! ユーアを魔物に占拠された村に連れて行くなんてっ! ユーアはまだ冒険者になって半年くらいなのよっ? そんな危険な場所にこんな子供を連れて、尚且つ戦わせるなんて馬鹿じゃないのっ! ユーアに何かあったらどうすんのよっ! あなたたちっ!」
「ちょっと、ラブナちゃんっ! だから、ボクがっ―――――」
怒髪天を衝くと言うが、私たちに怒鳴り声をあげる少女が正にそれだった。
私たちを見渡し、指を突きつけて金切り声を上げるこの少女は、外で見た時のような怯える様子ではなく、同じく震えているが、それは恐怖ではなく怒りからくる震えの様だった。
『なるほどね……』
ユーアからある程度の話を聞いて心配しての事なんだろうとはわかる。
この少女は得体の知れない私たちへの恐怖より、ユーアを心配して、そのユーアを危険に晒した私たちへの怒りの感情の方が上なんだろう。
それほどユーア身を案じているのだろう。
「ちょっと落ち着いて聞いて欲しいんだけど、ユーアを連れて行ったのは、あなたが大事にしている私の妹のユーアが一緒に付いて行きたいって、自分の意志で決めたんだよ? もちろん冒険者として。それを、ラブナだっけ? あなたがどうこう言う資格はないんじゃないの?」
怒り心頭の様子のラブナに、理論正論を言って責めてみる。
別に間違った事は言ってないつもりだ。ちょっと妹を強調したけど。
「はあっ? そんなの関係ないわよっ! 何かあった時ユーアを守るのはアタシの役目なんだからあなたたちは必要ないのよっ! それにユーアの意志はアタシだって尊重している。だからユーアは冒険者になったんじゃないっ! そのユーアを守るのがアタシの役割だって言ってんのよっ!」
「っと必要ないって―――― それに守るって?」
「アタシも冒険者なのよっ! 登録したのは昨日だけど…… だから冒険者のユーアを守るって事なのよっ! アタシはそのために冒険者になったんだからっ!」
「えっ、ラブナちゃんも冒険者なのっ!?」
そんなラブナの発言に、ユーアは目を開いて驚いている。
「そ、そうよっ! ユーアと一緒にアタシも孤児院を守る為に冒険者になったんだから、そしてユーアも守ってあげるんだからっ! つ、ついでだけどね、ユーアはっ!」
「そ、そうなんだラブナちゃんっ! 一緒に孤児院を守ってくれるんだね? ボク嬉しいよっ! とっても嬉しいよっ!」
ラブナの返答に感動を覚えたユーアは、腰のあたりに「ガバッ」と抱き着く。
「なっ、ユーア、あんた離れなさいよっ! べ、別に、孤児院もユーアの事も、そ、ついでなんだからっ! アタシの家を復興させるための、ちょっとした寄り道なんだからっ!」
そう言いながらもラブナは、腰にしがみついたユーアを無理やり剥がすことはなく、言葉だけは嫌がっているがまんざらでもなさそうな表情だった。
その顔は赤くはなっているが、怒っての感情の赤みではなく、ユーアに抱き着かれての羞恥の赤みなんだろう。
「……………………」
『何? この子。いわゆる「ツンデレ」って奴なんだろうけど、実際目の前にいると非常に面倒くさい。どう反応していいかわからないよ。でもまあ、ユーアを大事にしてるって事は伝わるけどね』
「あの、ラブナさあ、私これでも冒険―――」
「お姉さまっ! ここは私が。このお姉さまに対しても、お姉さまの妹のユーアちゃんに対しても不遜な態度を続けるこの子供は、私が矯正してあげましょう。体に刻み込んで上げましょう。お姉さまとユーアちゃんの、その偉大さを。うふふっ」
「えっ!?」
「そうだなっ! ワタシも子供の言ってることだからって聞いていたけど、ちょっとわかってないよなっ! お姉ぇたちのその存在の意味をさっ!」
「へっ?」
そう言って姉妹の二人は立ち上がり、ラブナを睨みつける。
どす黒いオーラを纏いながら、黒い笑顔を張り付けて。
『うわっ! ラブナって子のせいで、姉妹の二人が初めて会った時のように戻っちゃったよっ! 冒険者狩りをしていた「オラオラッ」の時代にっ!』
さすがに、そんな姉妹に任せられる訳もなく、
「ちょっと、ナゴタとゴナタも落ち着いて? 私がもう少し話してみるから。こんな面倒な子でも一応ユーアの友人なんだからさっ! それと――」
ごにょごにょ。
最後の方は、ユーア達には聞こえないように姉妹の耳元で囁くように話す。
それを聞いた、姉妹の反応は、
「あ、ああんっ、お、お姉さま、私、耳元はあまり強くは、んっ!」
「お、お姉ぇ、ワタシもかなり敏感なんだっ、だ、だから、はうっ!」
「………………う~ん」
なんだか、こっちも色々面倒くさいなぁ?
「ちょっと、ユーアあなたいい加減にっ! 離れなっ――」
「あのさ、ラブナ。あなたユーアを守るって言ってたけど、冒険者になったばかりのあなたが、ユーアを守れるなんて思えないんだけど。それともそれなりの自信になっている何かを持っているの? それはユーアを守れる力なの?」
未だ、ユーアに抱き着かれたまま、嫌がる素振りだけのラブナにそう声を掛けた。
「当たり前じゃないっ! アタシはそのために、この場所で鍛錬を積んできたんだからっ! なのにユーアも奪って、アタシが見付けたこの練習場も奪っていくなんて許せないんだからねっ! だから勝負よっ! どっちがユーアを守れる力を持っているかをっ!」
そう啖呵を切って「ビシィッ」と私を指差してくる。
最初に怒鳴って来た、腰に手を当てての仁王立ちで。
『は~~、なんだってこの子はこんなに――――』
迂闊、なんだろう。
「ちょっと待ちなさいっ! そこの無礼な子供っ!」
「あまり調子に乗るなよなっ! お姉ぇの前でっ」
今度は姉妹の二人がラブナの挑発に反応してしまった。
「……………………」
『まぁ、姉妹に任せてもいいんだけど、頭が沸騰し過ぎで危ないよね? それにユーアの友人なんだから、私が落ち着かせた方がいいよね? 色々と教えたいし』
私はそう考えて、姉妹とラブナの間に入っていった。
※※※
一方その頃、
コムケの街から十数キロ離れた森の中では。
「おおっ! こんなところに川が流れておったとは、これで水浴びが出来るのじゃっ! 探してる時は見つからなかったのに、出口を探してたら見つかるとは不思議な物じゃのう」
森の出口を目指してたところ、昨日見付けられなかった川に辿り着いた。
余り大きな川ではないが、体の汚れを落とすのには十分な広さだ。
「うむ、水も澄んできれいじゃな。おっ、魚も沢山泳いでいるのじゃっ!」
わしは腰のポーチとブーツを脱いで水面に足先を付けてみる。
少しだけヒヤッとする。
「さすがにまだ泳ぐ季節ではないが、この「すくーる水着」という防具のお陰でわしは平気じゃからな。見えている部分も魔法で保護してくれる優れた防具? 衣装じゃからなっ! そぉれっ!!」
ザブンッ!
「おおおっ――っ! 衣装のお陰で冷たくはないが、中々に気持ちがいいのうっ! もしかして丁度いい温度に調整してくれておるのかのうっ? 気持ちいいのじゃ、体を洗うのじゃっ!」
わしは首にかけていたタオルを使い、体をゴシゴシと磨いていく。
「うひゃっ!? な、なんじゃ、魚がわしの足の間をくぐっていったのか? ヌルっとしたのじゃ。あ、魚がたくさんおるのじゃからお昼は魚を焼いて食べたいのっ! なら早速」
わしは土魔法を使い、川の上流と下流に柵を設置する。
そして水面を注意深く凝視する。
「うむ、これでいいじゃろ。幼魚などの小魚には逃げられてしまうが、これ以上柵の間隔を狭めると川が氾濫する恐れがあるからの。おっ! いたのじゃっ!」
ザクッ!
土魔法で作った銛で、わしの前を泳いでいた魚を一突きで仕留めた。
「よし、この調子で晩ごはんの分まで取り尽くすのじゃっ!!」
コムケ街から数十キロ離れた森の川の中では、幼い子供が魚取りに興じていたのだった。
ただ見かけは幼いと言っても、実年齢は澄香たちのはるかに上なのだが。
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