第117話ツンデレ少女に敗北する微[美]乳少女
「あなた。いい加減お姉さまにそんな生意気を言う口を閉じないなら、私がその舌ごとあなたを切り刻んであげますよっ? 私が相手しましょう。外に出なさい。もう冒険者を続けたくないくらいに、冒険者の恐ろしさを教えて差し上げましょう。さあ、早くっ」
「そうだな、ちょっと調子に乗り過ぎだよなっ! ワタシも我慢の限界だ! お姉に対する態度もそうだけど、簡単に冒険者を守るって言った事を後悔させてやるぞっ! それにお姉ぇに挑むなんて100年早いって事をなっ!」
「はんっ! それじゃあなたたち、エロい双子から相手してあげるわよっ! ユーアの教育にもよくないしっ! 表出るわよっ! さっさとついてきなさいっ!」
「ちょっとラブナちゃんも、ナゴタさんたちも落ち着いてよぉ~~!」
『はぁ~~~~~~』
そんなやり取りを聞いて、特にラブナを見て長い溜息をついた。
この子、正直かなり危ないっていうか、無警戒過ぎるよね?
私は見かけもきっと子供で弱そうだからかもしれないけど、姉妹の二人はそれなりの雰囲気を持っている。その強者としての。
それを全く感じる事もなく姉妹の二人に喧嘩を売るって事は、守るべき人物の前で、自分が死ぬ可能性があるって事なんだよ?
守れる自分がいなくなったら、守るべき存在だったものはどうなるの?
それ以降どうなるの?
その事を全く考えてない、ただの無謀な無自覚の勘違い少女だ。
『ふぅ~』
だったら、仕方ない。
この子も冒険者だし、ユーアを心配している気持ちも本物だろう。
それだけの覚悟も持っている。
なら、
『私が教えて上げるか?』
姉としても冒険者としても。
「ナゴタとゴナタ。ここは私に任せてくれない? 二人の気持ちもわかるけど、妹のユーアの友達だし、ユーアを大事にしているみたいだからさ。ね、私はユーアの身内としてね」
睨み合っている両者の間に立ってそう告げる。
「はい、わかりましたお姉さま。なら私たちは退きますね? ユーアちゃんのお友達の事よろしくお願いいたします。それと、その後の事なんですが、お姉さまが許されるなら、あの子は私たち姉妹に任せてもらえませんか?」
「うん、それじゃ、お姉ぇにお願いするなっ! その方が安心だっ!」
「二人ともありがとうね、私とユーアの為に怒ってくれて。お礼に今晩もユーアのお肉料理をごちそうしてあげるからね」
退いてくれた姉妹にそうお礼を伝える。
「え、お姉さまの手作りではないのですか? こういう場合は」
「ワタシはユーアちゃんの料理が美味しかったけど、お姉ぇが作ってくれたのも食べてみたいなっ!」
「そ、それは、ま、また今度ねっ!」
「そうですか、楽しみにしてますっ!」
「うん待ってるよ、お姉ぇっ!」
「う、うん……」
この場だけは、なんとか誤魔化す。
私、料理だけは得意じゃないし。
「それじゃユーア。そんな訳だから、友人のラブナは私に任せてね? 悪いようにはしないから。ちょっとだけ教育してあげるだけだから、ちょっとだけ」
「う、うん、スミカお姉ちゃんがそう言うなら」
「はあっ!? 何勝手に決めてんのっ! アタシはそのエロい姉妹と―――」
「……そのあなたが言う、エロい姉妹って、これでもBランク冒険者だよ?」
「えっ!? ビ、Bランクっ!?」
「そうこの街を拠点にしているBランク冒険者のナゴタゴナタ姉妹だよ」
「Bランク、ナゴタゴナタ姉妹………… あああっ! あの悪名高い冒険者狩りのっ! あのナゴタとゴナタ姉妹っ!?」
「……………………」
「……………………」
「そう、その姉妹がこの二人だよ。まぁ、今はそんな事していないけどね。そんな悪名高かった姉妹の二人より、まだ私の方が『マシ』だと思うよ? 冒険者になって、まだ1週間も経っていないし」
ただし、初日でCランクだけど。
「そ、そうね、それで我慢してあげるわよっ! それじゃ、さっさと外に出るわよっ! アタシの実力を見せつけてやるんだからっ! アタシがユーアをついでに守れるって事をっ!」
「ラ、ラブナちゃん?」
そう言って、出口に近いラブナは外に出て行った。
困惑しているユーアの手を引いて。
『ついでって、その設定みたいなのまだ続けるんだ……』
出て行った後ろ姿を見て、そう思った。
「あの、お姉さま。さっき言ってた、私の方が『マシ』って、また人が悪い事を。お姉さまの事ですから、何か考えがあるってわかりますけど」
「そう、お姉ぇも意地悪だよなっ! ランクも告げないで、冒険者になったばかりって言うし。それじゃあの子供、自分と同じFランクって勘違いしてるよなっ!」
なんて、ちょっとだけニヤニヤしている姉妹。
「ちょ、ちょっと二人とも人聞きが悪い事言わないでっ! 私がなんか、いたいけな少女を騙して、いじめてるみたいじゃないっ!」
「ふふっ。私たち姉妹はわかってますから大丈夫ですよ? お姉さま」
「うん、信頼してるからお姉ぇの事をさっ!」
「そ、そう、ならいいんだけど。あ、それと二人にも協力して欲しい事があるんだけど。ちょっとこっちに来て、あのね、ごにょごにょごにょ…………」
そうして私たち三人も、ユーア達の後を追って外に出て行く。
さぁ、ここからはお勉強の時間だ。
◆◆◆◆
レストエリアの外では、ハラミがお座りをして、お利口に待っていたようで、ユーアにその柔らかなタテガミを撫でられて、気持ちよさそうに目を細めている。
その一歩離れた所では、ラブナが「ビクビク」とそんな様子を眺めている。
そんなラブナに向かって私は口を開く。
「ラブナ、私たちも外に出たけど、どうやって証明する? ユーアを守れる力を持っていて、自分がそれに相応しいって事を」
「そ、そうねっ! この広場はあの家を抜いても広いから、ここで戦って勝負しましょっ! どっちかが降参するか、気絶したら負けねっ! そしたら負けた方が、ユーアから身を引くって事で。まあ、勝つのはアタシだからここからいなくなるのは、子供の初心者冒険者のアンタだけどねっ!!」
問いかけに答えたラブナは、相変わらずの謎の自信に満ちたセリフで、私を挑発する。相変わらずの指を突き付けての、大股開きの仁王立ちで。
「あ、ごめん、今のあなたの言ってた事で、訂正とお願いがあるんだけどいい?」
「はいっ」を小さく手を挙げて、ラブナに進言する。
「な、何よっ! 今更怖気づいたっていうのっ! だったら許してあげない事はないけど、それだったらアタシの子分になりなさいっ! そうしたら許してあげるわよっ! いいっ?」
「…………はっ?」
いやいや訂正とお願いって言ってるんだけどな、私。
でもまあ、ここまでこの子を見てると、その殆どが自信の無さの表れだったって事がわかる。強気な態度で自分を誇示し、相手に自信を無くさせ、自分が優位に立ちたいのだろう。
自分に自信がないから。
『でも、ユーアを守りたい気持ちは本物だし、何かを持っているのもきっと本当だ。それはこれから引き出していけばいいし、それがどんなものかは。それによってはナゴタたちに預けても……』
なら、ちょっとだけルールを変更しようか。
「う~~ん、子分は勘弁して欲しいかな? そうじゃなくて、勝負の内容はそれでいいんだけど、負けたら相手の言う事を聞くって事に変更しない? まあ、ユーアに近付くなって言われたら一緒なんだけど」
「はあ? べ、別にそれでいいわよっ! それでもう一個の訂正ってなんなのよっ!」
よし、言質取った。
これで後の事は心配ない。
「あ、訂正って言うのはラブナがさっきから、私の事『子供、子供』ていうから、訂正したかったんだよ。私これでも15歳だから、この国では立派に成人の範囲でしょ?」
2個目の話についてはそう告げる。
確かにそう見られたって仕方ない容姿をしている事は自覚している。
ただずっと、子供子供と言われ続けられるのは甚だ不本意だ。
しかも中身はとっくに成人している大人なんだから尚更だ。
「へっ? じぃ~~~~ えええ――――っ!!」
それを聞いたラブナが仁王立ちの態勢を崩してまで驚いている。
まあ、それは全くの予想の範囲。
なんだけど、
なが~い「~~~~」の後に、驚いた意味が分からない。
あと、どこ見てるの?
「いや、いやっ! いくら大人に見せたいからって、そんな嘘つかないでよっ! あなたが15歳な訳ないじゃないっ! 成人しているわけないじゃないっ! いくらちょっと整った顔してるからってっ! せいぜいアタシと同じくらいでしょ? い、いや、ユーアと一緒っ!?」
マジマジと何処かを見ながら、全力で否定するラブナ。
「…………一応聞くけど、そこまで否定する理由ってなんで? ってか、なんで途中からユーアと一緒になってんの?」
何となく嫌な予感がしながらも一応聞いてみる。
その返答次第によっては―――――
「ぺ、ペッタンコ過ぎるでしょっ! アタシと一緒かと思ったけど、その平らな胸はユーアと殆ど一緒じゃないっ! だ、だからそう言ったのよっ! 成人してるわけないじゃないの、本当は12歳でしょ? ユーアと一緒だし、冒険者になりたてだしっ!」
ビッと、その部分に指を突きつける。
「――にこっ!」
「ス、スミカお姉ちゃんっ!?」
「お姉さまっ? ………………」
「お、お姉ぇ? そ、それ笑ってるのかい? 怒ってるのかい?」
「え? 別に私は怒ってないよ。いたって冷静だよ? 大人だし。それに子供のいう事になんて一々目くじら立てないよ。仮にも大人だからね、ただね…………」
「「「………………」」」
「私、着やせするタイプだからっ!」
後ろにクルっと振り返って、笑顔のままみんなにそう告げた。
勘違いされたままでも嫌だし。
「はっ! アンタまだそんな嘘つくつもりなのっ!? 大人大人って、そんな貧相な体でっ! ま、まあ、ユーアはこれはこれで可愛いんだけどねっ! で、でもアンタはわかりやすい嘘をつき過ぎよっ!」
またもや、全力で否定される私。
さすがにもう限界かも?
「…………言いたい事はそれだけかな?」
「そ、そうよっ! 別にアタシは間違った事言ってないからねっ!」
「そうわかった―――― なら」
お仕置き決定だね。
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