第42話ネコ仮装する少女たち




「スミカお姉ちゃん、ど、どうしたのこの衣装?」

「なんか、恥ずかしいの……」


「ううん、二人とももの凄く似合ってるよ。二人とも可愛いからねっ!」



 二人に渡したのは、私がプレイしていたゲーム内の2月22日のイベント限定で手に入るいわゆる、だ。


 2月22日『猫の日』限定の。


 因みに、ユーアは灰色の『ロシアンブルー』タイプ

メルウは『三毛猫』タイプを、それぞれ着ている。


 猫耳カチューシャに、レオタード、猫の手袋、猫足の靴。

 のフル装備だ。



 更に、この衣装はネタ装備とされるだけあって、

 見た目だけじゃなく、が付いている。


「ダメだよ、二人とも。カチューシャと手袋もキチンとハメないと。全部揃った方が可愛いんだから」


 二人とも、ネコ耳カチューシャと手袋を持ってるだけで装備していない。


「え~だって、手袋したらお料理持てなくなっちゃうよ? スミカお姉ちゃん」

「そうですの、運ぶのも出来なくなっちゃうの」


「そっちは、ログマさんたちで回るから心配しないで大丈夫。だから二人には売り込みをして欲しいの」

 

 「だからお願いっ」と付け加える。


「スミカお姉ちゃんがそう言うなら」

「わかりましたの」


 二人は何やら思案顔でカチューシャと手袋をはめる。


 その効果は――



「スミカお姉ちゃん、これで大丈夫ですかにゃ? ――にゃ!?」

「手袋もしましたのニャ。――ニャニャ!?」


 そう、装備をする事によりセリフが猫になってしまう『ネコ装備』なのだ。

 因みに言語の変換はカチューシャだけでOKだ。


「にゃんで、ボクの言うことがネコににゃっているの!!」

「ニャニャニャニャ!?」


「それじゃ、二人とも時間もないから早く売り込みを開始しようか」


 混乱している二人の手を取り、有無を言わせずに引っ張っていく。



「ちょ、ちょっとスミカお姉ちゃんっ!」


 ユーアが開いている手でプニプニと、叩いてくるが肉球なので痛くない。

 寧ろ癒される。


「二人とも、私が上にから、大豆商品をしっかり宣伝してね!」


「にゃ! にゃにゃにゃっ!?」

「ニャ――――ッ!?」


 スキルの透明壁を展開して、二人を5メートル程空中にあげる。



「二人とも大丈夫――?落ちる事はないけど一応暴れないでね――っ!」



 いきなり宙に浮かんで、あわあわしている二人に声を掛ける。


「ス、スミカお姉ちゃん!ボクたちだけずるいですにゃっ!」

「そうですの!スミカお姉さんも一緒にやるのニャ!」


「えっ? 私もっ!?」


 思わぬ二人の反撃に驚いてしまう。


「そうにゃの! 一緒にしてくれにゃいとボクたちもやらないのにゃ!」

「そうニャのニャ! そうニャのニャ!」

「いいいっ!!」


 二人ともかなりご立腹のようだ。


『うぬぬ――っ!!』


 二人が今放棄したら、今までの作戦が全てダメになってしまう。

 それだけは避けたい。


 しかし…………



「はーやーく、スミカお姉ちゃんっ! 時間ないって言ってたじゃにゃいのですかっ!」


 ユーアが更に急かしてくる。

 それはそうなんだけどっ!


「スミカお姉さんも、急いで着替えるのニャ~~!」


 メルウもユーアに被せて大声を上げる。



「あ――もうっ! わかったよっ! 私も一緒にやるよっ! ここまでした責任もあるしねっ! その代わりカチューシャと手袋だけだから。!魔法の効果が弱くなっちゃうからっ!」


 もうやけくそになって二人にそう叫び返す。



 ただ流石にレオタードと靴は着れない。

 スキルが使えなくなってしまうからだ。



 私は出しっ放しにしていたレストエリアにダッシュで入る。


「な、なんでこんな事に…………」

 

 ニスマジの言っていた似たり寄ったりの店が並ぶ中で、その店特有の『インパクト』が必要って言ってたのを思い出して実行したのに、まさか自分がに参加するハメになるとは…………



 私は、速攻で装備してレストエリアを収納しユーア達の元に跳躍する。


 そんな私を二人はジロジロ見ている。


「にゃ、にゃによ。これでいいでしょ?」


 まじまじと見てくる二人の視線にそっぽを向く。



「ス、スミカお姉ちゃん、き、きれいですにゃ……」

「う、うん、全部真っ黒でかっこいいニャ……」


 二人は茫然としてそう呟く。


 私は『黒猫』の装備をして二人の前に姿を現した。



「さ、さあ、私の事はいいから、早く宣伝を開始するのにゃ」


 テレを誤魔化すようにそう告げる。


「う、うん、わかったですにゃ。スミカお姉ちゃん、ありがとうにゃ!」

「一緒にがんばるのニャ!」


 二人は私の言葉に反応して宣伝を再開する。



「マズにゃさんの作った、大豆の食べ物はおいしいのにゃ――っ!」


「試食もあるから、おいしかったら買ってなのニャ――ッ!」


「大豆は、タンパク質やビタミン、ミネにゃルも豊富で健康に最適だにゃ――美容にも効果的だから、女性にもおすすめにゃ―――っ!!」


「にゃんですか? たんぱくしつって」

「みねニャる?」


「…………あれ?」


 ユーアとメルウは二人して、私の言葉に振り返る。


 この世界にはかなり早かった知識で、宣伝をしてしまったようだ。



「オ――――イッ、スミカ嬢なんか面白れぇ事やってんなァ!! なんだそれぇ? 今度はネコかァ!!」


「おや、可愛らしいですね。流石あの二人。早速予想できない事をやってらっしゃるようで。それにしてもネコの衣装ですか?」


 ギルド長のルーギルと、副ギルド長のクレハンが私たちに声を掛ける。



「にゃっ!? み、見るにゃ――――っ!!」



 私はユーアとメルウの後ろに隠れる。

 こんな罰ゲームみたいな姿を知り合いに見られたくない。



「オウ、隠れたって無駄だぜぇ! 透明で何処に隠れても下から見えちまえぜぇ!」


「そうですよ、逆に隠れないで堂々とした方が、逆に目立ちませんよ? それにわたしは『ネコ』のスミカさんもいいと思いますし。ユーアさんも素敵ですよ」


 そんな事言われたら、逆に出ずらくなる。


「ちょっと二人とも、にゃんでここにいるにゃっ!!」


 シャーッっと威嚇するように二人に叫ぶ。



「あ、何って、ユーアが『ギュウソ』と一緒にいる冒険者に『明日のお昼に来て欲しい』って言ってたらしいんだよォ。で俺らも来たんだよォ。なァ!」


 ルーギルが後ろを振り返ると、30人以上の冒険者風の男たちが現れた。



「よう、嬢ちゃん。早速、恩を返しに来たぜ」


 眼帯をした40過ぎくらいの男が前に出てくる。


『ギュウソ?』


 ああっ! 冒険者を纏めてるって人か。

 ギルドで私たちに礼を言ってきた。



「まあ、大豆の店の宣伝なんかじゃ、恩返しには足りないがな」


 と続けた。


「お――い、ユーアちゃん! 約束通りにおじちゃんもきたよ――!」


 もう一人の冒険者は、ユーアに向かって声を上げる。


 ん!?

 

 そういえば…………



 ユーアがギルドで冒険者の男たちに、何か話をしていたのを思い出す。




※ ※ ※ ※ ※



「うんとね、ボクね、スミカお姉ちゃんとね――」

「そうです――――よ?」

「恥ずかしいから、聞かないでくださいっ――」

「明日なの」

「――うん、ありがとうおじちゃん!!お願いね!」 ←この



34話参照  


※ ※ ※ ※ ※   

 



『あ――――っっ!!』


 ユーアはこの時点で大豆工房の宣伝を開始していたんだ。


 そして、おじちゃんがギュウソに報告して多くの冒険者を連れてきた。

 それで耳に入ったルーギルは、面白そうだと思ってクレハンときた。



「それでぇ、ユーアちゃんおじちゃんは何をそればいいのかなっ!」


「おじちゃんたちは、マズにゃさんとログマさんが作った料理を食べて、感想を大きな声で言ってちょうだいですにゃ! おねがいですにゃ!」


「お――わかったよ―― ユーアちゃんっ! ギュウソさん、そういう事ですので皆んなで食べてましょう」


 おじちゃんは、ユーアに手を振りながら笑顔で答えて、ギュウソとその周りの冒険者たちに伝える。


「おう、わかった。嬢ちゃんたち、馳走になるぜっ!」


 ギュウソがそう答えて、ぞろぞろとカジカさんの所に移動する。



「ギルド長、わたしたちも行ってみますか? かなり美味しそうな匂いが鼻孔をくすぐるので」

「オウッ! そうだな! 折角嬢ちゃんたちが呼んでくれたんだァ。馳走になるかァ!!」


 クレハンとルーギルも揃って料理を貰いに向かう。



 いや、あなたたちはユーアも呼んでいないからね。



「あらぁん、ここかしらぁ、あの人が言っていた大豆のお店はぁ」

「そうねぇ、ここじゃないかしらぁ?」

「…………随分と良い匂いがするわねぇ」

「なんでも大豆は美容にもいいそうよぉ――!!」



「今度は何っ!?」


 私は声のした方に振り返る。


「っ!?」


 それは20人以上のガチムキの集団だった。


 これ絶対、あっちの世界の人ニスマジたちだよね?

 ノコアシ商店の店の前の『あの三人』と同類だよね。



 私たちはここにきて、やっとフルに動き回れるのだった。



 あ――― 忙しい忙しいっ!!



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