第43話さらに増える頼もしい味方たち




「あらぁ、随分と賑わってるじゃないのぉ――っ!」



 人混みの中から、見知った全身黒の革タイツのムキムキ男が声を掛けきた。


「ニスマジ、あなたも結構な人数集めてくれたんだにゃ!」


 まぁ、ガチムキのオネェ軍団だけど。


「じぃ~~」

「にゃっ!?」


 ギュッ


 ニスマジの視線から隠す様に、とっさに二人を抱き寄せる。

 いつの間にか無表情で、こちらをガン見していたからだ。



「…………にゃ、にゃによっ!」

「…………いいわぁっ!!」

「っ!?」

「いいじゃないのぉ~、その衣装っ! 最っ高だわぁっ! 三人とも凄く素敵じゃないのぉー! よく触、じゃなくて、見たいからわたしもそっち手伝っていいでしょっ――――!!」



『っ!?』

「きゃっ!」


 う、うわっ――っ!!


 私たち三人を見る目が血走って涎まで出てるよこの人。

 完全にロックオンされてるよね、私たちっ!


 ユーアは平気そうだけど、メルウは短い悲鳴の後、腕の中で「ブルブル」震えている。

 そういう私も鳥肌がたっていた。


 こ、怖すぎる。



「ニ、ニスマジは、悪いんにゃけど、カジカさんと、接客と販売の方を、手伝ってくれるかにゃ!」


 そう。

 冒険者たちと、ニスマジが連れてきた人らの影響で、カジカさんも手が回らなくなっている。そちらにも人手が必要だ。

 決して気持ち悪いとか、近くにいて欲しくないとか、そんな理由などない。



「んーもう、わかったわよぉ~、。それじゃ、わたしは接客の方をみてくるわ。後でまたくるからねぇ~」


「う、うん、よろしくねっ!」


 よし、これで変○は去った。


 そうは言ってもニスマジも立派な戦力になっている。

 そして意外と中身は常識人だったりする。

 だから無下にもできない。



「ふぅ、ニスマジは見た目あれだけど、任せても大丈夫かな? それよりも助っ人たちはうまくやってるかな?」


 私は一息吐き出して、状況把握する為、周りの様子を見てみる。 



※※



「お、なんだ、この味噌って奴で焼いた肉、焼き具合もそうだか味噌の味と焦げも相まって、香ばしくてうまいじゃねえか!?」


「この、味噌肉野菜炒めも野菜の甘味と合わさってうまいっ!」


 味噌料理に舌鼓を打ち、感嘆の声を上げる冒険者の二人。


 そこに、


「お前たちは、味噌が腐ってると思って口にしなかったらしいが、それは大きな間違いなんだぞ」


 冒険者二人の感想を聞いて、口を挟む肉担当のログマさん。


「そうよ、わたしたちもルーギルやニスマジ達と冒険者時代に何度も口にしているのよ。体に悪いわけないでしょ?」


 近くにいたカジカさんもフォローを入れる。


「ええっ! ログマさんとカジカさんは、昔ルーギルギルド長と組んでいたんですか!?」


 それを聞いた冒険者の男は、上ずった声で反応する。


「まあな、昔の話だがルーギルも俺たちも大豆の食品は気に入っている。だから安心して食べろ」

「そうよ、あなた達もルーギルのいう事なら信じられるでしょう?」


「は、はいっ! ギルド長も食べた事があるなら大丈夫ですねっ!」


 どうやら、トロノ精肉店の二人は問題なさそうだ。




 こちらは味噌汁担当の店主のマズナさん。

 そして近くにいたニスマジ班。



「あら、このお豆腐も、サッパリして美味しいわぁ! それと、このタレもいいわねぇ!」

「味噌のスープも、優しい味でおいしいかもぉ!」


 ガチムキオネェ軍団が、マズナさんに向かって感嘆の声を上げる。


「おうっ! 俺の作った豆腐も味噌も、褒めてくれてありがとよあんた達っ! あと、豆腐にかかってるタレは醤油ってんだっ! それも大豆からできてるんだぜっ!」


 二人の会話を聞いていたマズナさんは、すぐさま注釈を入れる。


 続いてニスマジも、


「そうよぉー、あんたたち。なんか勘違いして食べてなかったみたいだけど、わたしも好きなのよ大豆を使った食べ物は。美容にも健康にもいいしねぇ」


 畳み込むように、追加アピールする。


「ええっ! 美容にも健康にもいいなんてぇしかも美味しいしぃっ!」

「ねぇっ! みんな聞いたぁ――! ニスマジさんのお墨付きよぉ!」

「ソウナノ! あのニスマジさんが言うなら、アンシンダネッ!」


 そして、ユーアが声を掛けて集まった、おじちゃん達冒険者30人。

 更にニスマジが連れてきたガチムキのオネェ軍団20人が加わって、どの大豆料理にも舌鼓を打ち、その味を絶賛していく。


 なんか微妙に説明口調で演技っぽい人もいた気もするが、ニスマジに頼まれたのだろう。


 だがそんな大根役者の演技でも、人は多く集まってきている。



「おい、なんだあれ! ネコの格好の少女たちが宙に浮いてるぞっ!?」

「はぁ? 何言ってんだ、おま――へ? 本当だっ!?」

「…………か、可愛い…………ハァハァ」

「大豆だって? 面白そうだからちょっと行ってみようぜっ!」


 こちらは街の男性陣。


「見てっ! あの子供たち空中を歩いてるわよっ!?」

「はぁ? 何言ってんの、あな――は? 本当だっ!?」

「…………か、飼いたい…………ハァハァ」

「大豆? 何かしら面白そうだから行ってみようよ」


 こちらは街の奥さま方。


「うん」

 私たち三人の空中宣伝も、かなり目立っていい感じになっている。


 まあ、キャストもいいからねっ。

 なんか嫌な視線も感じたけど。



「おーい! この味噌を買いたいんだか誰かいないのか―っ!」

「私は、豆腐と醤油が欲しいんだけど、どこで払えばいいの?」

「俺は、一通り買うぞ――っ!」


 そしてその影響で購入者も一気に増えてくる。


 これじゃ販売する人数も足りなくなる。

 下にいる応援の人たちは、絶えず何かの対応に追われている。


 色々な結果が重なって、みんなもいきなり忙しくなる。



「お――い、スミカさんっ! もう持ってきてたうちの商品が足らなくなりそうなんだっ! 俺が取りに行ってもいいかっ?」


 人ごみに揉みくちゃにされながら、マズナさんから声が上がる。


「スミカ、こっちも肉とか野菜が諸々足りなくなっている。どうする?」


 間髪入れずログマさんからも。



「う――、ログマさん、材料は私が持っているから直ぐに行くにゃ! マズにゃさんの方は、私とメルウが取りに行ってマジックバッグに入れてくるにゃ! あ――それとも……」


 それでも微妙に回らないと思う。この人数だと。



「オ――イッ! スミカ嬢ォ! なんか人手が足りなさそうじゃねえかァ!!」

「そうですね。流石にこの人数だと回らなそうですね」


 味噌肉の串焼きを両手にそれにガブついているルーギルと、味噌のスープを片手に飲んでいるクレハンの二人が、悩む私に声を掛けてくる。


「ま、まあちょっとだけヤバいにゃ。にゃ」


 見栄を張って、ちょっとだけをアピールする。

 あまり弱みを見せたくないからね。


「カァッ! これがちょっとだけかァ? クレハン、ギョウソに言って冒険者の奴らに料理が出来る奴と、勘定をできる奴は手伝ってやれって伝えてくれやァ! それと、ニスマジのも来ていたろォ、そいつにも伝えてくれェ!」


「はい、承りましたギルド長。では」


 ルーギルの注文に、クレハンは人混みの中に入っていく。

 どうやら二人には見透かされていたようだ。



「…………ルーギル、いいの?」


 下にいるルーギルに、ネコ耳カチューシャを外してそう問いかける。

 何でそこまで?


「クレハンも昨日言ってたろォ! 俺たちは嬢ちゃんたちを気に入ってるんだァ! だから気にするなァ!」


「前にも言ったけど、私たちに期待されても迷惑なんだけど」


「それも昨日言ったろォ? 勝手に期待してんだァ、それこそ気にするなァ!」


「…………うん、わかった。今回は甘えるよ。お願いするルーギル」


 正直今は状況なのだ。

 まあネコは自分たちだけど。



「ボクからもお願いするにゃ! ルーギルさん!」

「オウッ! 承ったぜぇ! 嬢ちゃんたち任せろォ! さあ、面白くなるぜぇ!!」


 そう言って、ルーギルも人混みの中に消えて行った。


「ふう、それじゃ、そっちはルーギル達に任せて、私たちは出来る事をしようか?」

「はいっ! スミカお姉ちゃんっ!」

「はいにゃのっ!」

「ユーアは一人で上にいるのは嫌でしょう? 一度下に降りて皆を手伝う?」


 独りだけ、取り残されるであろうユーアを気遣いそう提案する。


 こんな空中でネコ装備。しかも一人。

 私だったら悶絶ものだ。恥ずかしくて。



「スミカお姉ちゃんボクは一人でも大丈夫にゃのっ! 任せて欲しいにゃ!」


 決意のみなぎった表情で、そう返事を返す。

 どうやらユーアの意志は固いようだ。


「そう? だったらお願いにゃユーア。メルウと私は大豆商品の在庫持ってきたら、すぐに合流するからにゃ」


 ネコの手袋をはめながら、ユーアの猫耳カチューシャを付けた頭をなでる。


「はいっ! 任せて欲しいにゃ!!」

「うん、それじゃすぐに戻ってくるから、よろしくにゃ」


「うニャッ!!」


 タンッ


 メルウを抱き上げて、透明壁を展開しながら下に降りる。



「はい、ログマさん。お肉と野菜をここに置いておくにゃ。これで全部にゃ」


 まずはログマさんに材料を渡す。


「ああ、すまない。お前たちは昨日大量の買った肉はこれで使い切ったのか?」

「そうにゃんです」


 ユーアが選んで、ログマさんから買った肉はこれで最後だ。


「そうか、なら明日以降に取りにくるといい。を仕入れておく」


「ログマさんお願いするのにゃ。それじゃ私は他に行くところがあるから行きますにゃ」

「ああ、大豆商品の在庫を取りに行くのだろう。気を付けて行ってこい」

「はいにゃ」


「ニャニャニャッ!」


 ログマさんと別れて、メルウを抱えなおす。

 そして透明壁を足場にして屋根の上にでる。




「ねえ、メルウ。倉庫は何処にあるにゃ? 案にゃいしてくれる。遠いの?」


 首に抱き着いて、プルプルしているメルウに声を掛ける。


「は、はいニャの! あっちですニャ! ここから歩いて10分くらいですニャの!」

「わかったにゃ。それじゃ、ちょっと急ぐにゃ」

「ニャっ!」


 メルウをしっかりと抱きかかえながら、大豆工房◎の倉庫を目指して屋根の上を疾走していった。


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