第41話頼もしい味方が合流




「さて、それじゃ時間もあまりないから準備始めるよ!」


「はい、スミカお姉ちゃんっ!」

「はいなの、スミカお姉さんっ!!」

「オウッ!!」


 私の言葉に、三者三様の返事をする。

 なかなかに気合が入っているようだ。



 私は『大豆工房◎出張所』の前に、昨日ニスマジの『ノコアシ商店』で買った大型の鉄板コンロと、大量の食器や調理器具などを取り出す。


 次に、ログマさんのところで買った大量の肉もさらに取り出す。

 他にも大量の野菜や、果物も置いていく。


 この大型鉄板コンロは、街のお祭りの出店とか、冒険者が野営などで使用するもの。しかも持ち運べる様に分解もできる。


 火元は火の魔石で出すことも、薪などでも代用で使える便利なものだ。

 大きさは200cm×150cmある。


 そう、この鉄板で、大豆工房◎出張所で売れない味噌料理を作って『試食』をしてもらい、買ってもらう作戦なのだ。現代だとデパ地下などでやっている、実演販売と試食みたいなものだ。



「それと、ユーアと、メルウは手分けして肉を切って、味噌に付け込んでおいて」

「マズナさんは、コンロに火を点けて熱しておいてちょうだい。それと鍋にもお湯を沸かしておいて」


 私は三人に指示を出していく。


「うん、わかった。メルウちゃんボクがお肉切るから、お味噌にお願いっ!」

「はいなの。ユーアお姉さんっ!」

「おうよっ!」


 指示を受けた三人は行動を開始する。


「スミカさん、何を作るか聞いていいかっ!!」


 火をおこしながら、マズナが聞いてくる。


「悪かったね、最初にメニュー教えないとかないと自主的に動けないよね」


 私は三人にメニューを伝える。


「鉄板では『味噌の肉の串焼き』と、野菜もあるから『味噌肉野菜炒め』、鍋では『お味噌汁』で、具は、豆腐や油揚げ、できれば『納豆』でもお味噌汁を作って欲しいんだ」


「オウッわかったっ! 大豆をふんだんに使った定番料理ばかりだっ! なら任せろっ!」

「メルウちゃん、ボク、分からないから教えてくれる?」

「はいなの!一緒に教えながらやりますのっ!」


 三人はお互いに確認しながら、声を掛け合い準備を進めていく。



 通りは、もうすぐ昼時の為、食事を求めてくる人が増えてきた。


「もう、下準備は終わってる?」


 私は三人に確認する。


「うん、ボクと、メルウちゃんは大丈夫だよ、スミカお姉ちゃんっ!」

「こっちも大丈夫だッ!!」


 よし、今なら良い頃合いだろう。


「なら、ユーアとメルウはお味噌汁を来たお客さんに配って。あ、食器は回収して」

「うんっ!」

「はいなのっ!」


「マズナさんは、鉄板の肉関係をお願い。私も一緒にやるから」

「オゥッ! 任せろ!!」


 マズナさんが、味噌に付け込んだ肉を焼いていくと、味噌が焼けた匂い、肉の香ばしい匂いが充満していく。


 近くの屋台を覗いていた人たちも

 「お、嗅いだ事のない旨そうな匂いだ!」

 すぐさま反応を見せる。


 よし、掴みは上々だ。



 私は、自分より大きな、透明壁を展開して、味噌の香ばしい匂いを辺りに振り撒くように大きく仰ぐ。周りには味噌の焼ける、香ばしい匂いが広まっていく。



「オウッ! そこの兄さん達、食べてきなッ! うちの大豆を使った絶品の料理ばかりだッ! 今日は『タダ』だ食ってくれッ! で、もし旨かったら、うちの商品を買ってくれなッ!!」


 マズナが、大声で宣伝を開始する。


「こっちの『お味噌汁』も具が沢山入っておいしいよっ! お野菜に『お豆腐』に『油揚げ』に『納豆』も入ってるよっ!」


「本当に、おいしいのっ! おいしかったら買って欲しいの」


 それに感化されたように、ユーアとメルウも声を張り上げ宣伝をする。


「お、なんだ良い匂いだな」

「タダなのか? なら食ってみるかっ!」

「でもあれって、腐った豆じゃなかったか?」

「ああやって、売り物にしているんだから大丈夫じゃないのか?」

「ああ、そうだな」

「俺はちょっとなぁ、旨そうな匂いなのはわかるが……」



「………………」


 ぐぅ、反応は悪くはないけど、元々の先入観が強すぎる。


 結構な人が集まってきてはいるが、遠巻きに様子を伺っているだけで、なかなか一歩が出てこない。


「っ!!」


 う――、もう少し、もう一味、誰か一人、食べてくれれば、なのに、その一人がいない。 どうする……



「よう、ここでやってたんだな。少し探し回ったぞ」

「あら、いい匂いね。冒険者時代に食べたのを思い出すわ」


「え、ログマさんとカジカさん!? どうしてここに」

 

 聞こえてきた声に驚く。

 つい先日お世話になった二人の登場に。



「はぁーい、わたしもいるわよぉ」


 二人の後ろから、またも見知った顔が飛び出す。


「ニスマジっ!?」


「そうよぉ、わたしよぉ。昨日、スミカちゃんから今日の事きいたでしょう? それとユーアちゃんの事も。だからぁ、わたしが二人に声を掛けたのよぉ。何か手伝えるかなってねぇ」


 相変わらず、クネクネ、しなを作りながら話してくる。


「まあ、そういう事だ。肉の事なら専門の俺に任せろ。もちろん味噌の事も知っている」


「それじゃ、ワタシはお客さんに、配膳する係ね。自分でもお店やってるから得意よ」


 なんとも、頼もしい味方がきてくれた!


「それじゃ、指示をだしていい?」


「ああ、頼む」

「OKよ」

「なんでも言ってぇ」


「それじゃ、ログマさんは、マズナさんに代わってもらって、肉担当に。抜けたマズナさんは、ユーアとメルウと代わって、味噌汁担当で。カジカさんは肉関係と、汁物の配膳をメーンで。外れたユーアとメルウは、引き継ぎしたら、これに着替えてきて」


 私は全員に一指示を出していく。


「わたしはぁ?」


 全員だと思ったら一人余っていた。


「ニスマジは、ここら辺で顔が広いでしょう?だったら売り込みをお願いしたいんだけど」

「はぁーい、わかったわよぉ。見知った顔も多いから、任せてねぇ」


 クネクネとニスマジは人混みに消えていく。




「マズナさん、俺はトロノ精肉店のログマだ。肉は専門だ。切るのも焼くのも俺に任せてくれ」

「オウッ! 悪いな!あんたも、この忙しい時間に」

「ああ、それは気にしなくても大丈夫だ。それよりも俺は『大人の義務』を果たしにきただけだから」

「そうか、よくわからねえが、よろしく頼むッ!!」


 マズナはユーアたちと持ち場をチェンジする。


「それじゃ、ユーアとメルウはこれに着替えて」


 私はアイテムボックスより、ある衣装を取り出す。


「え、スミカお姉ちゃん、これなんですか?」


 渡された衣装を、不思議そうに広げようとする。


「いいから、いいから。こっちきて」


 私は、ユーアとメルウを店の裏に連れて行く。

 ここなら、人目に付かないかな。




「それじゃ、この中で着替えてね」


 アイテムボックスからレストエリアを出す


「さ、入って、入って。急いで急いで!」


 私を二人の背中を押して、無理やり家の中に入れる。

 念のために、透明壁で覆って保護色にしておく。



「え、スミカお姉ちゃんっ!」

「ええっ! なんで家がでてくるの!?」


「私は戻るから、着替えたら私のところに来て」


 そう言って私は離れて、大豆工房◎出張所の前に戻る。



 ログマさんが焼いている、肉料理も、マズナさんが作っている、汁物にも、少しづつではあるが、人が集まり始めていた。


 肉大好きなユーアも認める、お店の店主ログマさんと、食堂で働く奥さんのカジカさんも、ここの近辺では有名なんだろうか、二人に声を掛けてくる人も多い。

 着ぐるみ来ていないのに。


 それでも、まだもう少し足りない。


「スミカお姉ちゃん、何これ、恥ずかしいよぉ…………」

「恥ずかしいの…………」


 私が、着替えてと渡した衣装を着た二人が、モジモジしながら目を伏せる。

 恥ずかしそうにお互いを見やる二人に、私は内心でニヤリと笑みを浮かべた。


『よしっ!』


 これで、もう一味必要だった『インパクト』が揃ったかも。


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