第146話二人のスミカとナジメの能力




 2機の追加展開した円柱スキルと両手持ちを合わせ、合計4機分をナジメの『土鉄壁』と呼んでいた魔法の壁に向かって振りかぶる。


 スキル自体の大きさはいずれも1.5m程の片手で握れる細い棒だ。

 だが、1機につき最大重量は5t。


「んんんっ」


 それを4機まとめて横薙ぎに叩きつける。


 ブフォンッ×4



「無駄じゃ、無駄じゃっ! わしの『土鉄壁』を敗れた者は人間にはおらぬっ! そのお主の攻撃がわしの壁を破れなかったなら、その後は覚悟しておくのじゃっ!」



 ゴッ


 ゴガガガッ――――ッッッッ!!


「んなっ? なにっ――――!!」


 ボゴォ――ッッ!!



 私はナジメを守っていた魔法の壁に小さいながらも穴をあける。


「今回も言う程、頑丈でも鉄壁でもなかったみたいね?」


 ヒュッヒュッヒュッヒュッ!! 

 ゴッゴッゴッゴッゴッゴッ!!



 更に4機のスキルを操作して、ナジメの壁を叩きつけていく。

 砕け散った大小の破片がパラパラと辺りに降り注ぐ。


「よし、こんなもんかな?」


 そして小さい穴から広がるようにナジメの魔法は砕け散った。

 そこにはあわあわとした顔のナジメが立っていた。



「んなっ、んなっ! 何なのじゃっ! お主はっ! 今度は――っ!?」

「反撃なんかさせないよっ!」


 ナジメが言い終わる前に、スキルをナジメに叩きつける。


 バキキッ!


「うがぁっ!!」


 ナジメは攻撃を喰らい、絶叫を上げながら「ピュン」と真横に吹っ飛ばされる。


 そのまま、


 ドゴォ――――――ンッッ!!!!



「うぎゃあぁっ!!」


 自分で作った巨大な土団子に激突し、その動きを止める。

 その激突の威力でゴロゴロと土団子が動き出し、地面に倒れている人物が姿を現す。


 それは――――



 ナジメの魔法の土団子に潰された『もう一人の私』だった。



「よしっ! 使い方はこんな感じが一番効果的だね」


 うつ伏せに倒れているナジメと、もう一人の私を見て満足する。



「お、お姉さまが、ふ、二人いますよっ!!」

「なっ! お姉ぇが二人にっ!!」

「はぁっ? どっちが本物なのっ!? スミ姉が二人っ!」

『わうっ!?』


「お、おいックレハンッ! スミカ嬢がッ!?」

「え、ええっ! 信じられませんが二人に見えますっ!!」


 それを見て、シスターズの面々とルーギル達も驚愕の声を上げ、



「な、なんだそりゃっあぁぁぁ―――――っっ!!!!」

「ちょ、蝶が二匹になっちまったぞっ!?」

「それじゃ、スミカも双子姉妹だったことかぁっ!?」

「そ、そうらしい。でもあの姉妹には二人になっても……」

「ああ、二人足してもあの部分は……」


 「「一人分にもならないけどなっ!」」


 観客たちも同じように大騒ぎしていた。



『イラッ』


 相変わらず苛つく一部の人たちも含めて、新しい能力に驚いている。


 この能力はスキルレベルが上がったわけではなく、防具の特殊効果の鱗粉の能力が新たに追加されたものだ。


 その効果はみんなが騒いでいた通りに、分身が可能になっていた。

 ただ分身と違うところは、その分身が実体を持っているという事。



―・―・―・


『実体分身』


 鱗粉散布で実体を伴った分身を作れる。

 気配は本体、分身体どちらでも纏わせる事が出来る。

 分身体を動かす事は出来るが、基本能力はほぼ皆無。


―・―・―・


 とまあ、こんな能力が付加されていた。

 それと鱗粉の透明効果も私の意志で剥がせるようになっていた。


 これはゴナタとの模擬戦直後に付加されていて、ユーアが私の羽根が大きくなったと言っていた時に初めて気付いた。

 

 蝶の鱗粉はいわゆる鱗と同じだ。

 これからも新たな能力が増えてもおかしくない。


 鱗には光の反射で姿をくらましたり、体表を守ったりと、鱗自体には色々な効果がまだあるのだから。


 もしかしたら、防具効果の寒暖差やステータス異常を軽減するのも、鱗粉の効果から来ているかもしれない。なんてことも考えられる。



 そんな訳でナジメも、私を土団子で潰した時に、感触も気配も感じていた。

 そしてうまく騙された背後から、私はナジメを攻撃したのだった。



『ナジメも含め、みんなも騙されたようだけど、ユーアだけは気付いてたね。ユーアの能力はもしかしたら、私の想像を超えるものかもしれない………… 発動にはまだ何か秘密がありそうだけどね』



「『土龍』」


「っ!!」



 そんなナジメの声に反応して、足元から「ズズズ」と長く巨大な何かが姿を現す。


 それは土で形作った龍であった。

 竜でなく龍の方の長い龍。


 その土龍と呼ばれた胴体回りは、私の身長を大幅に超えており、長さは地中に潜った部分があるので正確にはわからない。もしかしたら胴体を形成しながら地中から出てくるのだろうか。


 そしてその巨大な龍は、私に向かって鎌首をもたげている。


「うむ、中々の威力の攻撃じゃったな。だがわしには全く効いておらぬぞ? お主にはびっくりしたが、ここからはわし『も』本気を出させてもらうのじゃ」


 ナジメはダメージを受けた素振りも無く立ち上がり、私に向かって挑発するかのような笑顔を見せつける。


「へえっ、何ともなかったんだ」


 私は声の聞こえた方、ナジメに視線を這わす。


『…………………』


 多少手足が汚れているだけで、スク水にもその体にも傷一つ見当たらなかった。


 10tもの直撃を受けて無傷なんてあり得るのだろうか。

 サロマ村の5メートルを超える巨大オークでさえ、建屋を2軒貫いた吹っ飛ばした威力なのに。だ。


 しかも今回は倍の10tの重さの直撃だ。



『…………魔法で防御されてなかったのは、私自身が一番わかっている。なのに、あのスク水とナジメ自身に傷もケガもないのが気になる』


 ナジメが作った土龍が私の周りをグルグルと周回している。

 胴体はある一定を見せてはいるが残りは地面の中だ。

 術者の合図でいつでも攻撃を仕掛けてくる様相だ。



「…………案外ナジメ自身も頑丈なんだね? それともその変な装備のせいなの? 私が知らないだけで実は防御してたとか?」


 私は鎌首をもたげたまま、私を囲んで周回している龍を警戒しながらなんと無しに聞いてみる。これで答えてくれればそれでいいし、話に乗ってこなかったなら実力で聞き出すだけだ。



「ああ、この装備は関係ないのじゃ。この装備はただ頑丈で寒さとか暑さに強いだけなのじゃ。わしがダメージを受けなかったのは、わし自身の能力のせいじゃ」


「能力? それじゃその装備は全く関係ないんだね。でもその服は一体何処で手に入れたの? かなり頑丈だよね」


 話に乗ってきたナジメから情報を聞くために、更に問いかける。


 能力の事も気になるが、まずはこの世界の物とは思えない装備から聞いていく。


 その答え次第では、


『――――明確な敵かどうか、わかるかもだから』


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