第147話無双少女と鉄壁幼女
『ナジメの能力? それも気になるけど、まずはそのスク水装備が気になるよね? 幸い、会話に乗ってきたから、その答えも判断材料にしようか』
そう方針を決め、一緒に土龍の攻撃範囲の中にいる、
ナジメに向かって質問を続けることにした。
「それじゃ、その装備は何処で手に入れたの? かなり珍しいと思うんだけど」
ナジメは腕の前で組んでいた腕を解き、
「これか、いいじゃろうっ! これはわしの作った村に行く道中で会った商人?らしきものから売って貰ったのじゃっ! それでだなこの装備の凄い所はなぁ――――」
自分の姿を見渡して、自慢するようにペラペラと話し始めた。
「先ほども言ったと思うがこの装備は頑丈なのじゃっ! 防具と言う意味ではないぞ? とにかく破けなくて、雪山でも砂漠でも寒さも暑さも防いでくれる素晴らしい装備なのじゃっ!」
「あ、ちょっと待って、その売ってくれた人の話を聞きたいんだけど」
ナジメの話を一旦止めて、核心であろうところを聞いてみる。
「んあっ? それがわしにも良く分からんのじゃ。その者は独りで街道を歩いておって、わしに声を掛けてきたのじゃ」
「ふ~ん、その商人はどんな人だったの。男?女? それと年齢とかは?」
「うむ、男じゃな。声もそうじゃが、全身鎧の形状から男だと思うのじゃ。まぁ見た事もない珍しい鎧じゃったが。それと年齢は―― わからぬな。何せ顔も兜で隠れておったからのう」
『………………』
珍しい鎧? ねぇ。
「え、なんでそれで商人なんて思ったの? 冒険者か騎士って方が当てはまらない? 鎧来てるんだし」
「それなんじゃが、わしも最初はそう思うとった。じゃが話を聞いてみると、あちこちの街を周って商品を売り歩いてる話だったし、わしの装備以外も色々なアイテムを持っておったからな。それでじゃな」
「う~ん、それじゃ何者かも、どこにいるのかもわからないよね?」
「それは、あちこち流浪してる風だったしのぉ。わしにもわからないのじゃ。と、それよりもお主もしかして――――」
「うん、何?」
「もしかして、わしの素晴らしい装備と同じ物が欲しいのじゃな! でもそれは無理じゃっ! これは1着しかなかったと言っておったからなっ!」
「…………別にいらないけど」
「もう手に入らないからと言って、わしから奪おうなどと思うなよっ! これはわしの物じゃっ! 簡単に奪わせないのじゃっ!!」
何故か勝手にそう決めつ、私から跳躍して距離を取る。
「『土龍』よっ! アイツを喰ろってやるのじゃっ! 盗人は成敗なのじゃっ!」
ズズズッと土龍の巨大な胴体が、私を取り巻くように動き出す。
「ねえ、まだナジメの能力の話聞いてないんだけどぉ!」
「それはお主も何となくわかっておるのではないか? 先ほどの攻撃でわしが傷一つ付いてなかったのを確認しておったのじゃからな」
「…………まあ、ね。 装備の効果を聞いた時に見当は付けてたよ。装備はただ頑丈なだけで、そしてナジメ自身が頑丈だって事をね」
そう。
怪しげな装備の効果が関係ないなら、その本人が単純に頑強なだけだろう。
10t分のスキルと私の腕力をプラスして殴っても無傷なのだから。
「そういうわけで無駄話はもう終わりじゃっ! いくぞ蝶の英雄よっ!」
ズズズッと、土龍の体がとぐろを巻くように円を狭めて来る。
円の中の私を締め殺すつもりだろう。
術者のナジメは土龍の頭の上にちょこんと座っていた。
「いやいや、こんな遅い動きになんて、さすがに捕まらないから」
土龍の範囲から抜け出すために跳躍をする。
「っと!!」
が、それはナジメが許さなかった。
土龍の大顎が開かれ、そこから無数の杭のような、鋭いものが私に向かって打ち出されたのだから。
「よっと」
ガンガンガンッ!
ガガガガガガガガガガッ!!!!
高速で迫るそれを両手のスキルで弾く。
「って今度はまたあの土の球っ!?」
ニードルを防いでいる私の周囲には、最初にスキルを使用するきっかけとなった『土合戦』の準備が整っていた。
前後左右私を取り囲むその鋼鉄の硬度を持つ球は、またもや100以上。
「さあっこれで逃げ場はないぞっ! 土合戦で全身の骨を砕かれるか、土龍に締め付けられて全身の骨を砕かれるか―――― あれ? どっちも一緒じゃなっ。どちらにせよお主はこれで終わりじゃと言うことじゃなっ!!」
土龍の攻撃を弾いている私に、今度は拳大の土球が迫ってくる。
「まずいっ! この手数じゃ全部は防ぎきれないっ!『
ズガガガガガガガガガガッッッッッ!!!!
ズガガガガガガガガガガッッッッッ!!!!
三桁を超える攻撃が私に降り注ぐ。
「くっ!」
その攻撃の多さに、私の姿までもが消えてしまう。
それ程の物量での攻撃だった。
そして最後に待っていたのは、
「さぁっ! 絞め潰してしまえ土龍よっ!!」
ズズ――――――――――ンッッッッ!!
と、本格的に私の姿を掻き消した。
土龍がその上で万力のように締め上げ、とぐろを巻くように鎮座していた。
「うわっはっはっ! やはり英雄と言っても大した事はなかったのじゃっ! こんな小さな街じゃただの英雄もどきだったのうっ! 実力も無いのにわしを本気にさせた罰じゃっ! わはははっ」
その土龍の頭の上では、仁王立ちで勝利の雄たけびを上げるナジメがいた。
一方、その光景を目の当たりにした、大勢の観客たちは――
「お、おいっ、いくら何でもあの固そうな球と、でかい龍の攻撃をまともに受けたんじゃもう立てないだろう? いや、立てないどころか、もう……」
「い、命を無くすことはないと思いたい。これがAランクの実力なのか……」
「つ、強すぎるだろうっ! スミカちゃんは殆ど攻撃も出来なかったぞっ!」
「それでも良くやった方だと思う。だってスミカはCランクだったんだろう?」
「さ、最初から勝負になんてならなかったかもな……」
「ね、ねえっお母さんっ!あの蝶のお姉ちゃんはっ!」
「だ、大丈夫よっ………… きっと」
ナジメの勝鬨を聞いて、触発されたように観客の悲痛な声が聞こえる。
さすがはAランクの実力だった。
そしてこの街の英雄は良くやったと。
だが、シスターズの面々だけは違っていた。
「ふうっ、心臓に悪いわね、スミ姉ったらさっ! ユーアならわかるんでしょ?」
「うんっ! だってボクの自慢のお姉ちゃんだからっ!!」
「お姉さまの最愛のユーアちゃんが言うのであれば、何も心配ないですね」
「でも、Aランクの実力って凄いのなっ! ワタシも戦ってみたいなっ!」
『わううっ!!』
心配はしていても、それを勝る程に信用していた。
それとスミカとパーティを組んだ事のある二人も、
街の人たちとは違った反応をしていた。
「うおッ! 随分えげつねえ攻撃しやがるなナジメの奴ァ。さすがのスミカ嬢も無傷はさすがに厳しいかァッ?」
「そうですね、スミカさんでもあの物量では厳しいかも知れませんね」
それはもちろん、ギルド長のルーギルとクレハンだった。
――
「ふう、危ない危ないっ」
バサバサとなびく髪を抑えながらスキルを空中で展開する。
それはギロチンの刃のような三角錐。
その大きさは黒に視覚化した全長25メートル。
それをどうするかって?
「そんなの決まってるじゃない。あの龍の首を落とすためだよっ! そぉれっ! ぶった切れぇぇっっ――っ!!」
ズ、バッァァァァ――――――ッッッッ!!!!
ナジメが乗っている土龍の首をスキルで切断する。
「んなっ! 何がどうしたのじゃっ! 土龍の首がぁ~っ!」
ナジメは慌てて土龍の首から跳躍する。
『よしっ』
さあ、今度は私のターンだね。
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