第145話CランクとAランクの戦い(胸部はAとAAA)




「まずは小手調べじゃっ! このくらいでやられるでないぞ英雄っ! 『土合戦』なのじゃっ!」


 

 ヒュッヒュッヒュッ――――!

 ヒュッヒュッヒュッヒュッヒュ――――ンッ!!

 


「多いっ!!」


 周囲に浮かんだ三桁を超える、拳大の土の塊が、私に向かって高速で襲ってくる。どう見ても土なんて雑多なものではない。

どれもが黒光りする鈍重な鉄球のようだ。



『これはさすがに身体能力だけでは防げないっ! スキルを使うにしても不可視は避けて、なるべく派手にっ、そしてシスターズたちと観客のみんなに被害が及ばない――――』


 両手に白に視覚化した円柱2本、更に頭上に円柱を4機同時展開する。


「よっ!」


 一番先に迫ってきた一球を、手持ちのスキルで叩き落とす。


 ゴンッ


「って、おもっ!?」


 鈍い音がして、スキルを握る腕に、強い衝撃が伝わってくる。


 やはりただの土ではない。


 ナジメの魔法によって限界まで圧縮された、鉄くらいの硬度になっている。

 そんな三桁を超えた数が無数に飛来してくる。



『なら、重さには重さで対抗しようか。まずは1t』


 カンッ


 カッカカカカカカ―――――ンッ!!


 両手に持つ円柱と、頭上に浮かせた2機の円柱で迎撃する。

 回転しながら私に届く前に撃墜していく。


 そして空いている残りの2機で、



「さあ、お返しだよっ!」


 カン、カカカカカカ――――ンッ!!


 地面に落ちる無数の土球をナジメに向かって弾き飛ばす。



「んなっ! 防ぐだけでも驚きなのにこちらに打ち返すだとっ?『土壁』!」


 ナジメは驚愕の表情を浮かべながらも、自身に届く前に得意の魔法でそれを防ぐ。


「うぬぬっ! なら次は『土路泥』じゃっ!」


「うわっ! 地面がっ」


 自分の魔法を防ぎ切ったナジメは更なる魔法を唱える。

 その魔法は、私をドロドロになった地面に一瞬で腰まで沈ませた。



「これって、ラブナも使ってた魔法じゃないのっ!?」


 全身が沈む前に、泥の中に透明壁スキルで足場を展開する。

 今なら跳躍するだけで、難なく抜け出せるはずだ。



「まだじゃっ! 『凝固』」


 ガチンッ!


「はぁっ? って、今度は地面が固まって――――」


「追加じゃっ! 『特大土団子』!!」


「っ!」


 ナジメが次に唱えた魔法は、小さな建屋ぐらいの巨大な鉄球を出現させた。

 それがゴロゴロと転がり、地面にはまって身動きの取れない私に迫ってくる。



『くっ、固められた土が予想以上に硬過ぎるってっ!』


 土の縁に手を掛け、地面の中ではスキルを足場に踏ん張ってはいるが、それでも簡単には抜けそうにない。まるでコンクリートで固められたみたいだ。


 それでも、どうにか抜け出せないかと、藻掻いていると――――  


「うわっ!」


 ズズゥ―――――ンッ!!


 脱出に間に合わず、巨大な鉄球の下敷きになる。

 そこで鉄球は動きを止め、私の真上で停止する。



「わはははっ! 随分とあっけなかったのうっ! 大口を叩くから楽しみにしておったのに、所詮は井の中の蛙だったということかのうっ!」


 その様を見て、自身の勝利を確信したかのように叫ぶナジメ。


 更に、


「ま、まさかお姉さまがっ!」

「お姉ぇっ!」

「ス、スミ姉が下敷きに? 嘘でしょっ!」

『がうっ!』


「オイッ! スミカ嬢がこんな簡単にッ!?」

「スミカさんっ!」


 私を心配するシスターズの絶叫、それとルーギル達も同じように声を上げていた。鉄球の下敷きとなって、姿が消えてしまった私を見かねて。


 そんな中―――― 

 ユーアだけは違っていた。



「え? スミカお姉ちゃんはまだ負けてないよ?」


 みんなを見渡して不思議そうにコテンと首を傾げる。



「そ、そうですよっ! ユーアちゃんの言う通りですっ! お姉さまはあんな攻撃なんかでやられたりしませんっ!」


「そ、そうだなっ! お姉ぇがまともに攻撃を受けたの初めて見たけど、お姉ぇだったらきっと大丈夫だっ! ワタシたちのリーダーだからなっ!」


「そうよっ! アタシたちが慌ててどうするのよっ! スミ姉があれくらいでやられるなんてあるわけないじゃないっ! いくら無傷の約束を破ったからって、まだ負けた訳じゃないでしょっ!」


 ユーアの一言に喚起されたのか、他のシスターズの面々も悲壮な表情から一転して、未だ姿が見えない私に励ましの声を上げる。



「ううん、ナゴタさんもゴナタさんも、それとラブナちゃんもハラミもみんな間違っているよ? スミカお姉ちゃんはまだ約束も破ってないよ? だってほら――――」


 ユーアは鉄球に潰された私ではなく、対戦相手を指差した。



「さっすがユーアだねっ! わかってるっ!」


 透明鱗粉を解いて、ナジメの背後に姿を現す。

 そして、手持ちの2本の円柱をナジメに向かって振りぬく。


 ブンッ!


「んなっ! いつの間に後ろにっ!? 確かに手ごたえはあったのじゃっ! 現に今もお主の気配はあの地面の中にあるというのにっ! 『土壁』!」


 ガギィ 

 ガギィ――ンッ!


 狼狽えながらも、私の攻撃を魔法で防御するナジメ。

 私とナジメを分け隔てるように現れた、黒い壁で攻撃を防ぐ。



「おお~っ! 固い固いっ! ならこれでも耐えられる?」


 今度はナジメ本体ではなく、土壁に狙いを定めて振りぬく。


 ブンッ!


「んははっ! そんなものはいくらやっても無駄なのじゃっ! わしの土魔法は大陸一なのじゃっ! また弾き返してやるのじゃっ!」


 壁の向こうでは、自分の魔法に絶対の自信を持つナジメの声が聞こえるが、


 

「んんっ!」


 ガゴッ、ガゴオ――――ンッ!


 そんな自信とは裏腹に、土魔法の壁は大穴を開け、ボロボロと崩れ落ちる。



「はぁっ? わしの土壁が破壊されただとぉっ!?」


「自慢するほど頑丈ではなかったと思うけど、まぁ、それなりだったかな? それじゃもう一回いくから、今度はもっと頑丈なの見せてよっ!」


 驚愕するナジメに、更に追撃せんと2本のスキルを振りかぶる。


「くっ、たかが薄皮一枚破ったくらいで随分と調子づくものじゃなっ! ならこれでどうじゃっ! 『土鉄壁』 これがわしの真骨頂の鉄壁の魔法じゃっ!」


 ナジメが唱えた次なる壁の魔法は、大きさこそ先程破壊したものと大差なかったが、その強度が違うと一目で分かった。

 今までのただの黒い壁ではなく、姿が映るくらいの鏡面になっていたからだ。

 それほどの密度ならば、恐らく強度も増しているだろうと。



「んんっ!」


 鏡面の壁に向かってスキルを叩きつけるが、


 ガガギィ――ンッ!


 予想通り、あっけなく弾き返される。


「うわっ! さっきのとは大違いだねっ! ならっ!」


 私は2本の円柱を握り直し、再度振りかぶる。

 今度は重さを最大にして。


 ゴゴッオ――ンッ!!


「うわっ! これでもダメなのっ!?」


 分厚い鉄を叩いたような音と共に、これも弾かれる。


「ふふんっ、無駄じゃっ! これがわしの真骨頂と言ったろう? わしは土魔法を得意とし、防御に特化した冒険者だったからなっ!」


 平坦な胸を逸らし、腰に手を当て自慢げに語る。



『うん、やっぱりいいねこの魔法っ! これならシスターズの後衛に欲しいくらいだよ。ただもう少し攻撃魔法も見たいかな?』


 ナジメの魔法に感嘆し、それでももっと先を見てみたいと思った。


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