第188話ゴマチの正体と不穏な空気


※この物語は作者の創作の世界になります。


 他の作品の設定や、現実の倫理観とは

 異なる場合がありますので予めご了承ください。






「なぜ、その子供がここにいてユーアの服を着て寝ているのじゃ?」


 謎の少女のゴマチの正体は、ナジメの知人の貴族の孫娘だった。

 そうなると、益々分からない事と色々な可能性も出てくる。


 でも今は何かしらの情報持っているナジメの話を聞くことにする。



「ああ、それはね………………」

「うんとね、ナジメちゃん…………」


 私とユーアは、夕方に起きた出来事をラブナも交えてナジメに伝えた。



※※※※



「と、まぁ、そんな感じでここにいるんだよ」

「そ、そうなんだよナジメちゃん」


「なるほど、そんな事があったんじゃな……。ユーアを連れ去ろうとした事も謎じゃが、この子供が女子じゃったとは、わしも正直びっくりしたのぅ。ううむ。それとねぇねに助けて貰って良かったぞユーア。わしが家まで送ればこんな事にならなかったかもじゃが……すまぬな……」


 私たちの話を聞き終えたナジメは、ゴマチの正体に驚いた様子とユーアを危険に晒した事に付いて頭を下げる。


 そして、同じく話を聞き終わったラブナは、


「ご、ごめんねユーアっ! ア、アタシがナジメのお屋敷に戻ったからユーアが襲われたんだよねっ!アタシのせいだわっ!!」


 そんなユーアの危機に、自分もいなかった事を悔やんでユーアに謝る。


「え、それは違うよラブナちゃんっ!」

「ユーアの言う通りだよラブナ。誰だってこんな事予想できないし、ユーアは今までは何ともなかったんだから」


「で、でもスミ姉ぇっ!アタシがもっと早く帰って来てればせめてっ!」


「そんな事言ったら、ユーアは貴族街以外でも、常に誰かといなくちゃならなくなるし、ユーアにだって、ユーアの時間があるし、誰かが付きそうにしてもその人の時間がある。だから今回の事は事故とか天災みたいなものなんだよ。こっちが警戒したって防げない事なんだよ」


「で、でもっ!」


 と、少し涙ぐむラブナの頭に手を乗せる。

ユーアはそんなラブナの手をキュッと握る。


「………………」


『ラブナの気持ちは、私にもよく分かる。実際に私もユーアの事は度が過ぎる程心配してた自覚もあるし、不安もあった――――』


 でもだからといって全てから守ろうとしたら、それこそ部屋に閉じ込めるか、鎖で繋ぐなどそこまでしないと守る事も出来ない。不安が取り除けない。


『それを押し付けたら、ユーアを守ることは出来るけど絶対に嫌われるよね?』


 それが守ると言いきれるのだろうか?


 そんな事をしたら、ユーアの心は絶対に離れて行くし、最悪自分の顛末を想像して自害してもおかしくない。それこそ本末転倒な話だし、それで守れるのはその体だけ。心は絶対に守れない。そして精神は壊れていく。


 守る事=自由を奪う。

 ではない。


 守る事=一緒に生きていく。


 それこそが、私が求める守る意味になるのだから。



「…………それでナジメはこのゴマチの事をどれくらい知ってるの?」


 穏やかに寝息を立てるゴマチを見つめるナジメに問いかける。


「そうじゃな、ゴマチはわしには懐いておる。ような気がする」


 と、若干困惑気味に話し始める。


「なんか、曖昧だね?ようなって」


「うむ、わしはクロの村ばかりで、あまりこの街には来れていなかったからのぅ。ま、まぁそれでお主たちに迷惑をかけてしまったんじゃが……」


「…………で?」


「それでじゃな、わしはあまりこの娘に会ってはいなかったのじゃ。じゃがこの娘、ゴマチは冒険者に憧れておるのじゃ。それで元冒険者のわしにも少し懐いておるという訳じゃ。わしに会うと色々と聞かれるのでな、昔の話などを」


「なるほど…………。 なのかな?」

「え、どうしてゴマチちゃんは冒険者を好きなの?」


 と、私は首を傾げているとユーアがナジメに質問する。


 そう。それは私も気になった。



「わしもそこまで詳しくはないが、こやつの祖父が、昔冒険者に助けらたのが恐らく大きな理由じゃろうな。それとゴマチの祖父が貴族であって、父親はまだ貴族ではないぞ?何やら今は帰って来ているようだが」


「うん、それとゴマチと冒険者に何の関係があるの?」


「ああ、それは祖父のロアジムの影響じゃろうな。やつは趣味がてら最近冒険者の真似事をしているらしいのでな。厳格で躾に口うるさい父親と違い、ゴマチは優しい祖父に懐いておったからじゃな。それで元冒険者のわしにも気を許しているのじゃ。と思う。それとじゃな――――」


「うん」


 その他のナジメの知っている情報を纏めてみると、



 『ロアジム』


 ゴマチの祖父の貴族。爵位?


 若い時代、視察の道中に魔物の大群に遭遇し、Aランク冒険者の少女に救って貰ったことがあるらしい。

 そこから長年冒険者に憧れ、次第には冒険者贔屓になり、最近は正体を隠して自身も冒険者になっているらしい。ナジメはこの街に来て既に会っているとの事。ただ正体については本人の許可なしでは言えないらしい。因みに弱い。


 それでナジメも元高ランク冒険者なのもあって懇意にしてもらっているとの事。


『ふ~ん。私は貴族社会には詳しくないけど、冒険者の真似事してる暇ってあるの?それともそういった暇な時期だけ真似事をしてるの?う~ん、それか』


 それかもしかしたら大して力のない貴族で時間を持て余してる?

 逆にもの凄い力が合って、ある程度の自由を与えられてるとか?


『うん、正直良く分からないな。けど想像してた貴族よりかなりマシっぽいかも。ルーギルとかなら何か知ってそうだけど』



 『アマジ』


 ゴマチの父親にして、この街の貴族のロアジムの息子。

 

 父親と違い武勲で名をあげたく、娘を残し戦場を渡り歩いているとの事。

 今はたまたま帰郷しているらしい。


 性格は、自尊心が高く敵とみなしたものは排除する。その実力を持って。

 粗野で野蛮で、教養がないと勝手な自己解釈で冒険者を毛嫌いしている。

 

 それで元冒険者のナジメの事もあまりよくは思っていない。


 それと娘のゴマチの母親は、ゴマチを生んだ直後に亡くなったらしい。


 その影響か、父親のアマジはゴマチを疎んじている様子だとの事。

 それに反発してかゴマチの性格も行動も過激な事が多いらしい。



『ある意味、私が思ってた貴族像そのものだね。近く貴族になるか、他に兄弟がいるかはわからないけど。なれたらなれたでかなり面倒そう。それと娘の事はどうでも良さそうな感じ…』



 『ゴマチ』


 アマジの一人娘にして、ロアジムの孫。

 ナジメはその格好と言動から男の子だと思っていた。


 性格は父親に反発してなのか、はたまた片親の為好き勝手にさせていたせいか、男勝りで度が過ぎる程の傍若無人な性格らしい。かなりの常識知らずで、悪い意味での破天荒振りも有名らしい。


 厳しすぎる父とは違い、いつも自分の話を聞いてくれる祖父には懐いている。

 祖父が夢中になっている冒険者に興味があるらしい。


『うん、それで何となく冒険者風な格好をしてたってわけ?男装してたんじゃなく。それに性格は過激ってな話だけど、表面だけで気は弱い気がするんだよね。後、父娘お互いによく思ってないと』


 

てな感じで、このゴマチの正体と背景について何となく分かった。


 ただこのゴマチがユーアをさらおうとしたかの理由は分からない。


『…目を覚ましたらユーアかナジメに聞いてもらおう。私だとまだ怯えそうだし。それにこの子の性格と、父親の毛嫌いするもので、何となく推測はできるけどね……まぁそれは本人の口から教えて貰おう』


 と、まだ幼さを残すゴマチの顔を見ながらそう思った。




「それと、ねぇね。ゴマチは何処か悪いのか?一度目を覚ましたと聞いたが」


 そんな私にナジメが唐突に聞いてくる。

 

「へっ?」

「あ」


「そう言えばそうね。スミ姉ぇの戦いの時に気を失ったって聞いたけど一度目を覚ましてユーアと話したんでしょ?それとも今は寝てるだけなの?この時間に?」


「ぐっ」

「スミカお姉ちゃん……」


 ナジメに続きラブナも私に「何で」と視線を送ってくる。

 相変わらずラブナは鋭い。たまにその鋭さが恨めしい。



 し、仕方ない。


 黙っててもしょうがないし、ゴマチが起きればどうせわかる事だ。


『り、理由はなんとか誤魔化して、私がやった事だけ伝――――』



 トントン


「あ、スミカお姉ちゃん誰か来たみたいだよ?」

「え、まだ早い時間だけど、こんな暗くなってから?」


 ナゴタとゴナタなら普通に入ってくるし、今は保護色で覆ってるので知らない人は中々見付けられない筈。他に登録してる人物っていったら?


 私はレストエリアのドアを叩く音に、不思議に思いながら向かう。

 さっき会ったばかりの人物が何でまた来るの?って考えながら。



「どうしたのメルウちゃん?」

「あ、スミカお姉さんこんばんはなの。お父さんがスミカお姉さんに味見をして欲しいって持ってきたの」

「ああ、大豆屋工房サリューの食堂か屋台を出店して欲しいって話したからそれでかな?にしても早過ぎない?まだ全然決まってないよね?」

「うん、実はお父さんスミカお姉さんに謝り足りなかったと思うの。だからなの」


 ああ、きっと私をこき使ったって思ってたから罪悪感を感じてたんだね?

 気にしないでって話は終わったはずなのに。


「それと、スミカお姉さん。お外で何かあったの?」


 チラチラと後ろを気にして私に聞いてくる。


「うん、何かって?特に何もないと思うけど」

「多分だけど、偉そうで怖そうな人たちが誰かを探してるの。わたしも聞かれたから知りませんって言ったんだけど」

「…………なんて聞かれたの?名前とか言われた?」


「うんとね、ゴマチっていう名前なの」

「はぁ、なるほどね…………」


 どうやら色々と面倒な事になりそうだ。

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