第421話ティータイムと状況説明




「名前は透水澄香。呼び方は適当でいいよ。で、私はコムケの街の冒険者で、この村には護衛依頼で来たんだよ。はい、これが冒険者カード」


 みんなが落ち着いた頃を見計らって、説明をしながらカードを見せる。

 村人たちは一瞬ざわついたけど、カードを見て黙り込む。


「はい、それとこれ暖かいから飲んで。ここにいたら冷えるでしょ?」


 大人しくなったみんなに、それぞれ暖かい紅茶を渡す。

 私は大丈夫だけど、みんなは白い息を吐いていたから。


「あ、ああ、すまんな助かる。ここは夏でも夜は特に冷えるからな。ふぅ~」


 暖かい紅茶を口に付け、ホッとしたように一息吐く。

 


「それで、なぜスミカはこの洞窟までやって来たんだ?」  


 代表してなのか、イナの父親のラボから質問が飛ぶ。

 魔物を追い払ってた時も指示を出していたので、きっとまとめ役なのだろう。



「それはさっき説明したよね? イナに懇願されたって」

「あ、そうだったっ! ならイナは無事でいいんだよなっ!?」


 娘の名前を出した途端、急に声を荒げるラボ。

 さっきイナの名前を出した時は、天井に投げ飛ばした直後で混乱してたんだっけ。



「うん、外にもあの魔物が20体ぐらいいるけど、今は無事だよ。襲われた後もケガしていなかったし」


 動揺するラボにそう説明する。


「20体っ! しかも襲われたってどういう事だっ!」


「どういう事も何も、私たちが駆け付けた時に、ちょうど襲われてたんだよ。ケガが無いって言うのは、寸前で助けられたから大丈夫って意味」


「そ、そうなのか、で、今はどうなってる? イナとそして村はっ!」


「そっちも大丈夫だって。外の魔物は妹に駆除を任せてあるから。イナは私の依頼人と魔法壁の中にいてもらってるから、そこなら絶対安全だから」


 ラボにはそう説明をして、後ろを指差す。


「あ、あの魔法で出来た壁が外にもあるんだな?」


 説明を聞いて、村人も合わせて私の後方に視線を移す。

 そこには蛍光ピンクの透明壁スキルがあった。



「そう。だから安心していいよ。仮に魔物が総攻撃を仕掛けても、もしこの山が崩れて、崩落に巻き込まれても娘さんは無事だから」


 キュージュースを飲みながら説明する。

 

「そ、そこまで頑丈なのか? 一体どんな魔法なんだよ……」


「でもラボ。実際に魔物たちが外から攻撃しても何ともないぞ」

「山が崩れても無事だって…… そんな魔法が使えるのかっ!」

「うわぁ、一体この壁ってなんなんだろうな?」

「なんで桃色なんだ? 目がチカチカして仕方ないぞっ!」


 唖然とするラボに、それぞれに騒ぎ出す村の人々。


 一応だけど、ここの安全もわかってもらえたらしい。

 一番最初に説明しておいたからね。じゃないと話が出来なかったから。



「それでこの後はどうするんだ? 安全なのはわかったけど」


 みんなが落ち着いた頃を見計らって、ラボが口を開く。


「だから助けに来たんだって。ラボさんもみんなも、それと牛たちも」

「俺たちだけじゃなく牛たちもか? 一体どうやって」

「どうって、そんなの簡単でしょ? 魔物を全部駆除したら安全になるんだから」

「はぁ?」


 スクと立ち上がり、ラボも含めてみんなを見渡す。

 

「あの魔物を倒すだってっ!? いくら何でも飛び回ってる魔物だぞっ!? しかもアイツら見かけは違うが恐らくドラゴンの一種だっ! そう易々と倒すなんて不可能だっ!」


「なら、この壁を透明にしておくから、その目で顛末を見届けてよ。それと牛たちはみんな無事なの? もしかしてその奥にいるの?」


 声高に反論するラボに答えて、その後ろを見る。

 その後方には、細い通路が目に入る。



「あ、ああ、牛たちはこの通路を下った広場に避難させている。そこに至る通路も狭く、あの魔物も入って来れないと思ってな」 


「ああ、なるほどね」


 答えながらMAPを見てみる。


 ラボの言う通り、ここから細い通路が続いて、その先が広くなっている。

 そしてその広場の先には、枝分かれした通路が続いているようだ。


 さすがは地元民。なんて感心する。

 迷路のようなとこなのに、道を熟知していて。



「で、牛たちの様子は?」

「足にケガを負った者もいるし、無理やり走らせたから衰弱しているものもいる」


 さっきよりも落ち着いたラボにそう説明される。


「なら、これを小分けにして牛たちに与えておいて? その間に魔物は何とかするから」


 みんなの前に、Rポーションを20個置く。


「これは? 回復薬…… か?」

「そう。それでケガと衰弱が治ると思うから。症状が酷い牛から少量ずつ使って」

「少量でいいのか?」

「うん、数滴で大丈夫だと思う。聞いたところそんなに酷いのはいないんでしょ?」

「あ、ああ、うん……」

「ならそれでお願い。それじゃ私は行ってくるから」


 不思議そうに、ポーション手にするみんなに手を振り踵を返す。


「数滴で効果が出るって…… こんな高価なもの本当に譲ってもらっていいのか? なんなら俺も手伝うぞっ! いくら冒険者だからって、スミカみたいな子供に任せる訳にもいかないからなっ!」


 なんて背中越しに、ラボが助っ人宣言をする。


「そ、そうだっ! 俺たちも戦うぞっ!」

「「「おうっ!!」」」


 それを聞き、他の村人も触発されたように立ち上がる。



『う~ん……』


 自分たちも何かをしたいのはわかる。

 見た目子供の美少女に、村の存続を託す事に気が引けるんだと。


 なんだけど、正直――――



「そう言うのいいから。私は私の仕事をするだけだし、あなたたちにはキチンと仕事を与えたよね? ならそっちを完璧にこなしなよ。みんなそれぞれ大人なんだから」


 盛り上がるみんなをギンと睨み、凄味を利かす。

 さすがに邪魔とは言えない。一応気持ちだけは汲んでおくけど。



「あ、ああ、わかった。な、ならお願いしようスミカさん」


 先頭のラボがしどろもどろに答える。


 目が泳いでいるのはきっと見間違いだろう。

 さん付けで呼ばれたのも、聞き間違いだろう。



「そ、そうだな。魔物は冒険者さんに任せる事にする。うん」

「ど、どれ、俺は先に牛の様子を見てくるぞっ!」

「ラ、ラボはここに残ってくれっ! スミカさんが見てろって命令だからな」


「ちょっと待て、俺を一人ここに残すのかっ!」


 ラボと同じように挙動不審になりながらも、ここを離れる村の人々。

 気のせいでなければ、初対面で私を見た反応と酷似していた。


 そうしてここには、ラボと私の二人きりになった。



「じゃ、後はよろしく」


 そう言って今度こそ、隠れていた洞窟から抜けて、空中に躍り出る。

 その際に『通過』を使って壁をすり抜け、ついでに透明に戻す。



((うおっ! 壁をすり抜けたっ! しかも無くなったっ!?))


 その後ろでは、またラボが騒いでいたけど、気にしている暇はない。



「ユーアたちもきっと頑張ってる。なら私も張り切っちゃうよっ!」


 外で奮戦しているであろう、ユーアとハラミを思い浮かべ、気合を入れ直した。

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