第13蝶 初デートは護衛依頼
第334話赤い少女とお説教
「ではわしらは一度帰るぞ。次は3日後じゃな」
「それじゃね、みんな。今度はスラムの子たちと仲良くしてね」
『わうっ!』
「姐さん、俺たちもマズナさんのところに行ってきます」
「「「いってきます」」」
「うん、ビエ婆さんとニカ姉さんは気を付けて帰って、あと、みんなによろしくね。カイたちもお店の方頑張ってね」
私たちは早い朝食の後、スラム組の5人のお見送りをした。
ビエ婆さんとニカ姉さんは一度スラムに戻るために帰って行った。
次来るのは孤児院が落ち着くであろう。3日後だ。
あと、ボディーガードで見送りはハラミも一緒だ。
カイたちは今日もマズナさんのお店の手伝いだ。
恐らくお店の方は3日ほどかかる。
その後は孤児院の子たちと合流してスラムに戻る予定だ。
それとナゴタとゴナタは一番早くに出かけて、冒険者ギルドに行っている。
こちらはいつもの訓練指導だ。
「んじゃ、今日もユーアたちは孤児院の片付けとお世話だね。で、ボウとホウは残って良かったの? ビエ婆さんたちちょっと寂しそうだったけど」
「うん、わたしたちは先に色々と覚えておきたいんだっ!」
「スラムの子たちより、少しでも賢くなって教えたいんです」
今の話の通りに、ボウとホウは戻らずに孤児院に残る事となった。
理由は、後からくるスラムの子たちの為に予習をしたいとの事だった。
そんな二人は両脇からユーアの手を握り、満面の笑みを浮かべている。
仲の良いのはいいけど、ユーアはちょっとだけ居心地が悪そうだった。
※
「んじゃ、みんな忙しそうだから、私は冒険者ギルドに行って、ルーギルと話をしてくるよ。そろそろサリューを手伝える冒険者を見つけてくれたかもしれないから」
みんなに手を振って私もそのまま出かける。
「うん、いってらっしゃいスミカお姉ちゃんっ!」
「す、スミ神さま行ってらっしゃいです」
「あ、ちょっと待ってよっ! スミ姉」
「え?」
すると、留守番組のラブナから呼び止められる。
「なに? ラブナ」
「今日はアタシも一緒に行くわよっ!」
そう言ってユーアたちから離れ、私の隣に並ぶ。
「なんで? 孤児院は大丈夫なの」
「こっちはお手伝いさんもいるから大丈夫なのよ。後は細かい片付けだし」
「ふ~ん」
「アタシ細かいの苦手だし、息抜きもしたいし、ユーアは取られちゃったし」
「取られた?」
「いいからさっさと行くわよっ! ここだと丸聞こえだからっ!」
私の手を強引に取り、歩き出すラブナ。
「わかった、わかった。それじゃ一緒に行こうか。私はラブナと行ってくるからユーアたちもほどほどに頑張ってよ」
「うん、ラブナちゃんの事もよろしくねっ! スミカお姉ちゃん」
「ラ、ラブナ姉さまも楽しんできてくださいね」
こうして、今度は私が見送られて孤児院を後にした。
※
「それで、ユーアを取られたってボウとホウにって事?」
ユーアにべったりだった姉妹を思い浮かべてラブナに聞いてみる。
「うん、そうよ。だから今日はアタシが身を引いたのよ。はぁ」
やれやれみたいな仕草で手を振るラブナ。
「身を引いたって何? 何か負け惜しみに聞こえるんだけど。未練たっぷりな癖に、後から現れた許嫁に仕方なく譲ってやるみたいな」
いきなり大人びた事を言うラブナを薄目で睨む。
「ち、違うわよっ! アタシとユーアはもう繋がってるから、ただ単に貸してあげてるだけよっ! アタシもお姉ちゃんだし」
「つ、繋がってるって言い方やめてっ! 聞く人が聞いたら勘違いするから」
「何でよ? 勘違いって何よ? スミ姉」
「いや、今のは忘れてよ説明しずらいから。それよりも何か予定あるの?」
「特にないわよ。なくちゃダメなの?」
「ダメってわけじゃないけど、それってサボってない?」
堂々と暇人宣言するラブナに突っ込む。
「それも違うわよ。ユーアがたまにはスミ姉と出かけたらって言ってくれたのよ」
「へ~、ユーアが許可してくれたんだ」
「そうよ、だからアタシはユーアを双子に譲ったの」
「なるほど、お互いに姉と妹を交換したみたいって事かぁ」
「ん? まぁ、そんな感じかな。だから今日はよろしくね、スミ姉っ!」
そう言って一歩駆け出し、クルっと回って振り向く笑顔のラブナ。
長くキレイな真紅の髪が広がって、更にその魅力を際立たせる。
出会った頃よりも美少女に磨きがかかってるように見える。
きっとこれもお風呂のせいだろう。
『まぁ、ラブナも黙ってれば十分可愛い部類だしね。それに何だかんだで思いやりもあるし。負けず嫌いなのも私から見れば長所だし。なら今日は一日ラブナとデートしようか』
足取り軽く私の前を歩く、笑顔の赤い少女を見てそう思った。
ただこの時は考えもしなかった。
ラブナと二人で街の外に出かける事になるとは思ってもいなかった。
※※
ギィ
「おはよぉ~ ルーギルいる?」
「おはよ………………」
冒険者ギルドに着き、中を見渡し声を掛ける。
まだ朝の時間帯だからか、10数名の冒険者が残っていた。
「ん、スミカの嬢ちゃんか、ルーギルさんは下にはいないぞ。何やら貴族さまから依頼が入ったって事で、その内容を精査しているようだぞ」
私たちに気付き、返事をしてくれたのは碧眼の男ギョウソだった。
この街の冒険者のまとめ役でDランク冒険者だ。
「え、それじゃここにいないって事?」
「いや、そうじゃなくて上で調べものをしてるって事だ」
「上?」
「ルーギルさんの書斎だ」
「ああ、あそこかぁ、わかった行ってみるよ。それじゃありがとうね」
私は踵を返し、カウンター裏に歩き出す。
「それにしても今日は珍しい組み合わせだな」
「え?」
立ち止まり、私の後ろで大人しくしているラブナを見る。
「ああ、今日はラブナも時間が出来たから連れてきたんだよ、ほら、ラブナ」
「う、うん、おはよう、ギョウソ、さん」
私が促すと「ペコリ」と軽く頭を下げるラブナ。
「お、おお、おはよう。そう言えばお前、ここに来たのまだ2回目じゃないか? 登録に来た日以来来てないだろう?」
「うっ……」
「お前、じゃなかった。ラブナは新人でも冒険者なんだから、依頼を受けるとか、せめて見に来るとか、じゃないと立派な冒険者になれんぞ?」
「ううっ……」
「私も新人なんだけど?」
ここぞとばかりにギョウソに苦言を言われるラブナを庇う。
私が連れてきちゃったのが原因だと思うし。
「うっ ス、スミカの嬢ちゃんは依頼を受けてるだろう?」
「え?」
「オークとトロールの討伐に大豆の採取。数は少ないがかなり貢献してるぞ」
「そう言えば、そんな事してたね」
ギョウソの説明を聞いて思い出す。
「はぁ、この街を救っておいて、そんな事呼ばわりとは…… 相変わらず豪胆って言うか、自分の成果を自覚出来てないっていうか」
ため息交じりに私を見るギョウソ。
さらに続けて、
「まぁ、そんな訳で俺らは冒険者なんだ。それだけで宿屋とか買い取りとかは一般人よりも優遇されるし、使える設備も多い。で、それを負担してるのはギルドなんだ」
「う、うん」
「………………」
「なら、新人だろうがベテランだろうがギルドに貢献しないと冒険者証剥奪になる。じゃないとタダでギルドを利用してるってなるからな」
そこまで言い切り、腕を組みラブナを見る。
ただ内容は厳しい物だったけど、その目と表情は柔らかかった。
それは新人を見守るベテラン冒険者の様相だった。
「う、うん、わかったわよ。アタシもスミ姉や師匠たちみたいに立派になりたいから出来るだけ依頼を受けるわよ。これでいいでしょ?」
「え? 立派って私も? だから私も新人だって」
「おう、ラブナの周りにはユーアも含めてベテランが多いからな頑張れよっ!」
「うん、アタシだって最速でランク上げてやるんだからっ!」
「だから私もなったばかりだからって…… はぁ、もういいや」
そうしてギョウソからの叱咤激励を受けてここを離れた。
ギョウソが冒険者のまとめ役で、そして慕われるってのも分かった気がする。
※
『う~ん、確かにラブナは冒険者でも最近は忙しかったから依頼とか受けてないしね。そもそもパーティーメンバーがバラバラだしね、色々あって』
階段を大人しく付いてきているラブナを見てそう思う。
『だったら、ルーギルの話の後で依頼表見てみる? 簡単なのあったら受けて見てもいいかも。せっかくギョウソに気に掛けてもらってるし』
そんな事を考えていると、ルーギルの書斎に前に来る。
コンコン
「ルーギル、私だけど」
((んあッ? ちょうど良かったッ! そのまま入ってきてくれやッ!))
((おお、スミカちゃんかっ! さすが英雄さまは分かってるなっ!))
ルーギルの声と、どこかで聞いた声が部屋の中から聞こえてくる。
「なんだ、ロアジムもいたんだ」
「あれ? これロアジムさんの声じゃない?」
何となく二人のセリフを不思議に思いながら中に入っていった。
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