第335話ラブナ初めてのお仕事




 ガチャ


「おはよ~、どうしたの? また朝からお酒とか飲んでるの?」

「おはようございます。ロアジムさん。あと、ルーギルも」


 ルーギルの書斎の扉を開け、ラブナと一緒に中に入る。



「ああ、はようッ。なんだ? 初めて見る組み合わせだなッ?」

「おおっ! ラブナちゃんも一緒だったのか、この前はありがとうなっ!」


 それぞれに挨拶をするルーギルとロアジム。

 そんな二人はテーブルを挟んで、何やら険しい顔をしていた。

 もちろんこの前みたく、そこにはお摘まみもお酒もなかった。



「それでどうしたんだ、今日は?」

 

 テーブルの書類から目を離し、聞いてくるルーギル。


「うん、この前の大豆屋工房サリューの手伝いの人員、どうなったかと思って」


「ああッ、数名なら融通できそうだぜッ? ただ大豆食品の製造となると詳しい奴はいなかったがなッ。それでもそれなりに出来そうな奴はいたなッ」


「そうなんだ。それでも全然いいよ。少しでも詳しい人がいれば、マズナさんとメルウちゃんの負担が全然違うから。で、そっちはどうしたの?」


「うん? スミカちゃんは大豆屋工房サリューとも今も交流があるのかい?」


 ルーギルとの話の最中でロアジムが入ってくる。


「うん、実は――――」

「あるも何も、嬢ちゃんは今でも気に掛けてだなぁ。それで俺にだなぁ――」


 何故か私の変わりにルーギルが話始める。

 ってか、なんでちょっとだけ得意そうなの?



「まぁ、いいや。ラブナ、私たちはこっちの椅子に座ろうか」

「うん、わかったわよ、スミ姉」


 説明はルーギルに任せて、ラブナとソファーに腰を下ろす。



「て、訳だなッ! ロアジムさんよぉッ」

「ふむ、スミカちゃんたちはわしが知らないところで随分と活動しておるのだな。スラムの件といい、今の話と言い」


「で、なんでロアジムはサリューのお店知ってるの? あんな庶民のお店なんか貴族さまからしたら、小汚い腐った豆売ってるお店なんじゃないの?」


 二人の話が終わったタイミングで口を挟む。


「わははっ! スミカちゃんは物事をハッキリ言うなぁっ! そもそもわしはここでは冒険者だよ。それとサリューの件についてはわしも応援に行ったんだがなぁ。覚えてないのかな?」


「ん? ん~ ――――」


 腕を組み、首を傾げて考えてみる。


 応援って事は…………



「あ、おじちゃんだっ! それと――――」

「正解だなっ!」


 ロアジムの仮の姿を思い出してそう答える。


「――それとユーアのストーカーだった」

「ん? すとーかー? とは」

「幼女にしつこく付きまとう変態の事だよ」

「変態? い、いやそれは違うぞ? わしはユーアちゃんに助けてもら――」

「はぁ? ロアジムさんって、そういう趣味なの?」

「ラブナちゃんもだから違うと言っておろうっ! 駆け出しの時にだなぁ――」

「まぁ、孫のゴマチにも異常な愛を注いでるからねぇ。もう言い逃れは出来ないね」


 私は最後にロアジムを「ビシィッ」指差して止めを刺す。


「だ・か・らぁっ! ゴマチはただの可愛い孫であって、その頃は父親のアマジとも不仲だった事もあり、わしが可愛がらないと後々に親の愛とか温もりとか感じぬままにだなっ! あとは――――」


「まぁ、全部冗談だけどね」

「そもそもユーアが嫌ってない時点でロアジムさんは白よ」


「は?」


 言い訳するように、捲し上げるロアジムにネタをばらす私とラブナ。

 それを聞いてあんぐりと口を開けているロアジム。



「ク、クククッ! さすがのロアジムさんも、このはねっ返りの二人には敵わねぇなッ! ここまで言えんのも恐らくこの二人だけかもなッ!」


 やり取りを聞いていたルーギルがほくそ笑みそう話す。


「わははははっ! 本当にスミカちゃんのパーティーは面白いなっ! 何だかわしも楽しくなってきたなぁっ!」 


 そんなロアジムも釣られて笑い出す。



「で、私たちの事は話したけど、ロアジムとルーギルはなに話してたの? 私たちが来た時に、ちょうど良かった、とか言ってなかった? ギョウソも依頼がどうとか言ってたし」


 机の上の書類を見ながら話を戻す。


「んじゃ、それはここの依頼主から詳しく聞いてくれやッ!」

「え? 貴族さまの依頼って、ロアジムだったの?」


 ルーギルがロアジムに頷いたのを見て驚く。


「うむ、これはスミカちゃんたちに関わる依頼だったのだよ」


 笑顔だった表情が一転して真剣なものに変わる。


「それで?」

「………………」


 私も佇まいを正してロアジムの話の先を促す。


「うむ、実は孤児院のお世話する女中たちをわしが手配しておったのだが」

「うん、それはナジメから聞いてる」


 予定だと2~3日中に来る予定だとも。


「で、その女中たちが途中の街で足止めしておるんだよ」

「足止め?」

「そう、要は護衛の冒険者がケガをしてしまい、そこから動くことが出来ないのだよ」

「何でそんな事になったの? あ、ケガって事は」

「そうじゃ、魔物に襲われて全員が直ぐには動けないそうだ」

「だったら、一先ずその街の冒険者に依頼したら? 護衛の続きを」


 ロアジムの話を聞いてそう提案する。

 代わりを用意すればいいんじゃないのと。


「ああッ、それがその街に冒険者ギルドは無ぇんだッ、スミカ嬢」

「え? そうなんだ。街ならどこでもあるんじゃないの?」


 ロアジムの代わりに答えたルーギルに聞き返す。


「うんにゃッ、その街はそもそもあまりデカくねぇ、俺たちの住む街とは全く規模が違うんだッ。店や宿もあるが、繁華街や商業地区など無ぇ小さな街だッ。だからギルドは無ぇんだよッ」


「ふ~ん」


 要は都心と郊外みたいなものだろうか?

 ここみたいに商業が主な栄えてる街と、普通に暮らせる平凡な街と。

 


「それでこの街の冒険者に依頼をしようとわしはここを訪れたって訳だな」


「そうなんだ。それで私が来た時に『ちょうどいい』って言ってたのは、たまたま依頼に私が関わってたから?」


 ロアジムの話を先読みして聞いてみる。


「ああ、そうだ。まぁ、依頼を受けるのは嬢ちゃんじゃなくてもいいんだが、ただロアジムさんが依頼した冒険者はDランクだったんだッ。それが魔物に襲われて棄権ってのが引っ掛かるんだかなぁッ!」


 何故かロアジムに変わって答えたルーギル。

 何と無しに面白がっているようにも見える。


「ルーギルの言う通りなのだよ、スミカちゃん。ただその場合は女中の到着が遅れるのは許して欲しいんだ、この場合は」


「う~ん、ちょっと待ってて」


 ロアジムの話まで聞いて考える。


『ん~、ルーギルの言い方はあれだけど、ロアジムの話もわかるんだよね。予定では3日後にはスラムの子供たちも来るし、面倒見てくれる人は早く揃って欲しいし……』


 チラと隣に座るラブナを見る。


「何よ? スミ姉」

「………………」


『だったら、ギョウソのお説教の話じゃないけど、ここでラブナと依頼を受ければ一石二鳥かな? お手伝いさんも間に合うし、ラブナも冒険者の活動できるし』



 暫くはユーアたちも忙しいし、ナゴタとゴナタは訓練指導だ。

 ナジメは孤児院の工事の打ち合わせで、いつ時間が取れるかわからない。


 だったら、


「その依頼、私が受けていい?」


 ロアジムとルーギルの顔を見てそう答える。


「ああ、嬢ちゃんならそう言うと思ったぜッ!」

「なら、わしも安心して任せられるなっ!」


 私の返事を聞いて肯定する二人。


「あ、ただしラブナも一緒で問題ない?」

「え?」


 次にそう付け足す。 


「おうッ! それでも問題ないぜッ! 護衛は嬢ちゃんのランクでは問題ないからなッ! ラブナだけでは受けられなかったからなッ!」


「わ、わしも一緒に行っていいかい? スミカちゃんっ!」


 同行者をラブナと聞いて後押ししてくれるルーギル。

 それを聞いて、自分も行きたくなったロアジム。



「ス、スミ姉が、アタシと………… やった」


 最後は小さく呟きガッツポーズを取るラブナ。

 余程冒険に行きたかったんだろうとわかる。



『普通の冒険者が3日だったら、何もなければ私なら1日で帰って来れるかな? 一応ユーアたちには知らせてからにしようか』



 早くも気持ちが逸るのか、私の隣でソワソワしだしたラブナ。

 足を開いたり閉じたりしている。


 こうしてラブナとの初のお出かけは、ラブナにとって初の冒険者の仕事だった。 


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