第333話あの味とアバターの危機




 マジックポーチの話はさておき、明日帰るビエ婆さんとニカ姉さんに、お土産として虫の魔物の破片を適当な数を渡した。


 そして出したついでもあり、虫の魔物も食卓に並べた。

 ここにいる私以外食べた事ないからね。



 ってかマジックポーチの話には、もうこれ以上触れたくない。

 何かあの変態に負けた気がするから……


 

 出会った頃はニスマジに対してイニシアティブを取っていた。

 なのに、最近は見事にマウントを取られている。


 それでも今回の件はかなり感謝をしているのも確かだ。


 ただニスマジ相手に弱みを握られたみたいで、後が恐い。

 それこそお礼を言ったら、更に増長してきそうで。


 あの二人は兄妹揃って、私の天敵みたいなものだ。

 商業ギルドのマスメアも、黒蝶姉妹商店のニスマジも。






「こ、これがあの虫の魔物か? あわわ」

「うわっ! こ、これがスミカちゃんが倒したって言う?」


「ま、まさかあの長いのがこんなに小間切れに、さすが姐さんっ!」


「ううう、今見ても気持ち悪いよ……」

「うっ、こんなになってもわたしちょっと怖いかも……」


 テーブルの上に並べた虫の破片を見て、それぞれに感想漏らすスラム組。

 あの時は恐怖の対象だったのだから、その反応は普通だろう。



 それに対し、


「スミカお姉ちゃん、これ食べれるの?」

「ふ~ん、変な色だけど中身はプリプリしてそうねっ!」

「シザーセクトの種類ですね。でしたらその味は絶品ですよ」

「うんっ! 火であぶっても美味しいんだよなっ!」


 シスターズは揃って食材として興味深々だった。


 ここら辺の反応が、一般人と冒険者との違いなんだろう。



『まぁ、冒険者は何でも食べるしね、最近はそんなイメージになったよ』


 現存する数々の食材を発見した冒険者は、この世界での食文化の先駆者だろう。


 元の世界でもそう言った人たちがいなかったら、未発見な食材も多いだろうし、今よりも殺伐とした寂しい食事になっていたかもしれない。


 どこの世界でもそういったチャレンジャーには感謝したい。



 そうして虫の魔物は、生では刺身と醤油、焼いては味噌を塗って美味しくいただいた。

 調味料はもちろん、大豆屋工房サリューで購入したものだ。



「スミカお姉ちゃんっ! モグッ 虫美味しいよっ! モグモグ」

「お、美味しいモグっ! ホウも食べてみろよっ! モグ」

「う、うん、モグ…… 本当だっ! 美味しいモグよっ!」


「って、ユーアも他の子が真似するから飲み込んでから喋りなよ」


 その食材に喜んでくれるのはいいんだけど、ユーアが以前に戻っている。

 最近はお行儀よく食べてたのに。


 まぁ、ボウとホウは最初からこんな感じだけど。


 これは今まで満足に食べてこれなかった弊害だろう。

 ただ美味しすぎて、セリフが変なのはご愛敬。



「な、なんとっ! あの魔物がこんなに美味しいモグとは……」

「ほ、本当モグねっ! 絶品モグよっ!」

「あ、姐さんが退治してくれたおかげモグねっ!」


「って、大人のあんたらもかっ!」


 子供たちに続いて、ビエ婆さんとニカ姉さん、それとカイもその味を絶賛するが、ボウとホウみたく言語がおかしなことになっていた。


 もしかしなくても、ボウとホウのお行儀って、大人のあんたらが原因じゃないの?



 そんな感じで、お肉大好きユーアも、虫の魔物に思うところがあったスラム組も、その美味しさに興奮して一心不乱に食べ進めていた。


 子供たちも感想を言い合いながら美味しそうに食べていた。


 やっぱり気わず嫌いは損をするんだと思った。

 こういう所は過去の冒険者に感謝するべきだよね。



 その後はお腹も心も膨れて、子供たちはこのまま就寝する事となった。


 ただ後から帰った私たちはお風呂に入る事にした。


 その際にナゴタとゴナタが何か言いたそうだったけど、別々に向かう。

 何かボウとホウも反応してたけど、それも無視して一人で入浴した。



 ユーア、この双子たちにあの事教えてないよね?



※※



 もにゅ


『………………う、ん?』


 むにゅ

 

『何だか手が…… ああ、またユーアのお尻の下かぁ』


 寝心地が悪くて目が覚めてしまった。


「ん」


 部屋の中を見るとまだ薄暗い。夜明けにはもう少し時間がある。

 まだ30分くらいは寝れそうだ。



「にしても手がお尻の下敷きで痺れるから…… って抜けない?」


 グイグイと手を引くが、何かに掴まれて動けなかった。


 しかも両手がそんな感じだった。

 ユーアのお尻ならすぐに抜けるのに。



「って、足も動かないっ!? なんでっ!」


 両手に続いて両足も動けない。


「も、もしかしてこれって…………」


 金縛りなのっ!?



 仰向けで薄暗い天井を見ながら少しだけ焦る。

 生身の体ではないのに金縛りになるなんて。


 確かにこの体は、痛みも熱さも冷たさも感じるし、生理現象だってある。

 なら、肉体にストレスが掛かれば金縛りなってもおかしくはない。


 だけど、


「いや、いや、それはないでしょっ! これ仮にもアバターだから、そこまで精巧に出来てないよねっ! そんなんだったら病気にもかかるじゃんっ! 成長だってするじゃんっ!」


 そう、そこまで人間に似せてるんだったら、もっと色々大きくなっててもおかしくない。


 あれだけ努力してるんだから、少しでも成長しなきゃ嘘だ。

 元の大きさを取り戻すために、日々頑張ってるんだから。



「んんっ! なら――――」


 無理やりに引き抜こうと腕を動かす。



 むにゅ (あんっ!)


「へ?」


 ぽにゅ (ああっ!)


「えっ!? な、何っ?」


 私の両手に、例えられない程の温もりと柔らかさを感じる。

 それと艶めかしく、くぐもった声まで聞こえる。



「げ、幻聴? わ、私の体は一体どうなってるの? もしかして、限、界?」


 今までもその予兆はあった。


 ただ寝てるだけで、それがくるのは初めてだった。



「くっ! 私はまだこの世界で何も成して――――」



「う、ん、どうしたのですか? お姉さま」

「ふわぁ~っ! どうしたんだい? お姉ぇ」


「へ?」


 耳元で聞きなれた声が聞こえる。

 もちろんユーアの声ではない。


「何だよぉ、スミカ姉ちゃん、まだ早いよぉ~」

「スミカお姉さん、もう起きるのですかぁ~」


「えっ?」


 今度は足元から聞こえる。 

 こっちも知ってる声だ。



「って、何でナゴタとゴナタは私の腕を抱いてるのっ! それとボウとホウはビエ婆さんたちと寝たんじゃなかったのっ!?」


 私の両脇でそれぞれ腕を抱いているナゴタとゴナタ。

 その腕は抱かれながらもエアバッグに埋没していた。


 両足はボウとホウが一人ずつ抱きかかえている。

 これでは身動きが取れない。


 金縛りの原因はこの2組の双子だろう。



「あ、すいませんお姉さまっ! 何か昔を思い出してっ!」

「ごめんよ、お姉ぇっ! なんか安心感があってさっ!」


 慌てたように、腕を解いてくれるナゴタとゴナタ。



「わたしたちはビエ婆さんのとこで寝てたんだけどさ」

「小さな子供たちがビエ婆さんたちと寝たいって来たんでそれで」


 起き上がって、ここにいた訳を話すボウとホウ。


 その理由を聞くと恐らくだけど、ビエ婆さんとニカ姉さんが今日帰ると知っているので、それで子供たちが一緒に寝たいって来たんだろう。



「う、うん、それでユーアは? 一緒に寝たと思ったんだけど」


 寝る前はユーアを抱き枕にしてたはずだ。


「ユーアちゃんなら、ボウちゃんとホウちゃんと入れ替わりに、ラブナが来て連れて行きましたよ? シーラも一緒でした」


「ハラミも一緒に出て行ったぞっ!」


 私の疑問にナゴタとゴナタが教えてくれる。


「本当? 私それでも気付かなかったんだ……」


 それを聞いてちょっとショックを受けた。

 もし緊急事態だったらと思うと。



 そんな私の心の葛藤を知らない2組の双子は……


「はい、お姉さまはぐっすりとお休みになってましたよ。いつものキリッとしたお姿もいいですが、歳相応の可愛らしい寝顔もまた…………」


「う、うん、無防備なお姉ぇもワタシは好きだなっ! いつものカッコイイ姿も、もちろんいんだけど、たまには…………」


「スミカ姉ちゃん、意外と寝顔は子供だったよなぁ」

「うん、でもすごく神秘的にも見えたね」


「……………やめて」


 双子姉妹はそれぞれに私の寝顔の感想を言い合っていた。

 正直そういうのは本人の前ではやめて欲しい。


 だって、寝てる時なんて誰でも無防備を晒してるんだから。

 子供なんていつもより可愛く見えるし。


 そしてユーアの寝顔は天使だから。

 それだけは間違いない。

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