第316話お手伝い完了と新たな神さま




「どれ、次は平らに整地して終わりじゃな」



 小さい手をチョコチョコ動かすと、土が生き物のようにうねりだす。

 そしてなだらかな段差をも一瞬で平らになり、小石一粒もなくなる。



「「「………………」」」



「ん? こっちも小さな穴が開いておるのじゃな? ならついでじゃ」


 小さく呟き、近くの穴を見つけトコトコ歩いていく。

 俺たちの驚愕と畏敬の視線に気付かずに。



「うむ、こっちも終わりじゃ」


 そして無数の穴も、同じように手を挙げただけで全て埋まっていく。

 穴の大きさや形なんて、意に介していないみたいだ。



「「「じ~~~~」」」 



「な、なんじゃっ? こ、ここは終わったから次を案内して欲しいのじゃが……」



 この辺りの作業を一瞬で終え、俺たちの無言の視線に気付きモジモジしだす。

 どうやら大勢に見られてた事が恥ずかしいらしい。


「あ、あなたは一体――――」



「「「うおぉぉぉっっ――――!!」」」



 俺が声を掛けようとすると、弾けた様にみんながナジメさんの元に駆けよる。



「な、な、なんじゃあっ!」


「いや、それはこっちのセリフだぞっ! 何だったんだあれはっ!」

「数か月の覚悟でいたのに、一瞬で穴を塞いじまってっ!」

「こ、こんなにちっこいのに何だったんだっ! あの現象はっ!」


「あ、あれはわしの魔法じゃっ! わしは土魔法が得意なのじゃっ!」


「いや、あれは得意を通り越して神業だったぞっ!」

「そうだっ! 神速の域だったぞっ!」


「そ、そうかのぉ?」


「そうだっ! あんたもスミカさんのような英雄に相応しいっ!」

「いやぁ~、さすが姐さんが連れてきた人物だっ!」


「ねぇねと? わ、わしがちょっと本気出せばこれくらいはなっ!」


「次も案内するからこの調子でお願いしますっ! また神業を見せてくれっ!」

「ナジメ神さまっ! こっちだっ!」


「か、神さまっ! ねぇねみたいにかっ? なら、わしに全部任せるのじゃっ! 皆の者いくぞっ!」


「「「おお――――っ!!!」」」


 ダダダッ 


「え?」



 そう掛け声を上げて、次の現場に向かうみんなとナジメさん。


 オドオドしていた態度も、腰に手を当て、今はどこか誇らしげだ。

 みんなに褒められたのが、よほど嬉しかったのだろう。

 

 そんなナジメさんは号令を上げ、案内人より先に駆けて行ってしまった。

 そしてそれを慌てて追いかける街のみんな。



「……は、はははっ! さすがは姐さんの連れの方ですっ! 英雄さまの連れはやっぱりとんでもないっ! って、俺も早く追いかけないとナジメさんに任せっきりじゃ姐さんにも失礼だっ!」


 先行する小さい背中を追い駆けるみんな、それを見て俺も走り出した。




 その後はさっきと同じように片っ端から穴を埋めていき、終わったのはお昼前だった。


 魔物の襲来がもたらした穴、その穴全部を埋めるのは数か月先と見込んでいたのに、それを短時間でナジメさん一人でこなしてしまった。


 そんなナジメさんをみんなで胴上げし、頭を撫でてあげたり、手を繋いだり、柔らかそうな頬っぺたをツンツンしたりして楽しく戻ってきた。


 ナジメさんも俺たちのそんな歓迎に付き合い無邪気に笑っていた。



 きっとその巧みな魔法から、見た目よりずっと年上なんだと思う。

 姐さんとはまた違った魅力のある少女だと思った。



 そしてこの後、ビエ婆さんに呼ばれた地下室に移動し、ある驚愕の事実が俺たちを襲う事になる。


 ただ作業が終わり浮かれている、今の俺たちには知る由もなかった。 





「ビエ婆さんきっと驚くだろうなっ!」

「うん、ニカ姉さんも、カイもびっくりしちゃうかも。うふふ」


 さっき完成した地図を掲げて、笑顔で歩くボウとホウの双子姉妹。

 向かう先はもちろん依頼者のビエ婆さんの元。



「それでお昼は地下でいいんだね? なんで避難してるわけじゃないのにまた地下に行くの?」


 確認のため、もう一度姉妹に聞いてみる。

 正午になったら地下に集合とのお達しが、ビエ婆さんからあったそうだ。



「街民の集まりはいつもは広場でやるんだけど、雨の日なんかはあの地下でやるんだ。でも今日は雨じゃないから、わたしもちょっと不思議だったんだ」


「ふ~ん、確かになんでだろう?」


 二人で空を見上げて同時に首を傾げる。

 確かに今日はいい天気で、地下に行く理由はない。



「ボウお姉ちゃん、その訳はビエ婆さん言ってたよ? あそこはスミカお姉さんと初めて会った場所なのと、スミカお姉さんのアイテムが置いてあるからって」


「え?」


「だから今度からはあそこを集会所にしたいって。街を救ってくれた恩人と会った場所で、これからはもっと有意義な集まりにしたいって」


 それを聞いて、妹のホウが詳しく説明をしてくれる。


「え? そうなのか? ホウ」

「うん。朝にそう言ってたよ、ボウお姉ちゃん」

「そうだっけ?」



『………………ふふふっ』


 相変わらず姉のボウは、そそっかしいというか、直情型というか、細かいことは気にならない性格の様だ。


 対して妹のホウは、そんな姉をフォローするかのように聡明で、慎重、思慮深いイメージがある。同じ姉妹でも、ナゴタたちとは姉と妹が正反対だ。



『そう言えば姉妹じゃないけど、ルーギルとクレハンも正反対の性格で上手くやってるよね。大雑把と几帳面の真逆の性格でさ』


 

 ボウとホウを見ていると、ふとそんな事が思考をよぎる。

 磁石で言うと性質が正反対の「S極」と「N極」が惹かれ合う様に。



『だとすると、私とユーアもそんな感じなのかな? お互いに無いものに惹かれ合う磁石みたいな関係だったりするのかな?』


 ユーアを思い出して私との関係もそうだったらいいなと思う。

 ただ私の場合は一方的にユーアにくっついてる気がするけど。


『あっ! でも……』


 ただお互いに正反対でも、それぞれに共通しているの事を思いだした。


『それはきっと……』 



 それはお互いにお互いを尊重しあえている事だった。


 だからうまく付き合えているんだと思った。

 





 この街で一番大きな建屋に入り、三人で地下室に向かう。

 メニュー画面で見ると、時刻はお昼少し前だった。


 恐らくナジメ達は穴の数にもよるが、もう少し時間がかかるだろう。



「あれ? だったら先にナジメ達に――――」


 地図を渡した方が良くなかった? 


 そう言いかけて、口を紡ぐ。


 そんな事をしたら、二人の喜びが台無しになってしまう。

 折角ビエ婆さんに完成した地図を見せに行くのに。



「どうしたんだい? スミカ姉ちゃんっ」


 途中で話を止めた私を不思議に思い、ボウが聞いてくる。


「ううん、なんでもないよ。みんなも喜んでくれるといいね」


 しれと誤魔化し話題を変える。


「うんっ! これもスミカ姉ちゃんのおかげだっ! 早く終わったのもっ!」

「まだ見せてないけどきっと喜んでくれますっ! しかも速くて正確だって」


「でも元々は二人で穴の位置は調べてたんでしょう? 早いのはそのせいもあるからね。ただ私は二人を空に上げただけだから大したことじゃないよ」


 二人を軽く撫でながらそう答える。


 確かに私は手を貸したけどそれはただの手助けであって、大部分は二人で頑張った結果だ。それに地図を書き直した時は、ボウの記憶を頼りに穴の位置も直ぐに書き込めた。


 そんなボウは意外にも記憶力が優れていた。


 恐らくこの姉妹は、本来は頭のいい方なのだろう。

 ただそれを育てる環境が今まで無かっただけの事。


 孤児院でユーアやシーラたちに教えてもらえれば、きっと伸びると思う。




「スミカ姉ちゃん着いたぞっ! 後はこの下だ」

「スミカお姉さん着きました。みんなはこの先です」


「うん、案内おつかれさま。ボウとホウ」


 二人にお礼を言って三人で階段を下りていく。


 すると階段の途中から、地下より灯りが漏れているのがわかる。

 私が昨日置いて行った、キャラライトを点けているんだろう。



「ビエ婆さんっ! スミカ姉ちゃんも連れてき、た? ――――」

「ニカさん、途中でスミカお姉さんと会いまし、た? ――――」


 入り口をくぐって直ぐに、二人が動きを止める。

 私はそんな二人が邪魔で中に入れない。


「何やってんの? 二人とも」


 なので不思議に思いながら声を掛けてみる。


「な、な、な、――――――」

「あ、あ、あ、――――――」


「?」


 そんな二人は声にならないようで、しきりに口をパクパク動かしているだけだった。



「? 一体中に何があるって言うの? どれどれ」


 固まる二人を怪訝に思いながら、肩越しに中を見てみる。



 そこには――――



「え、えええ~~~~っ!!」



 祈りを捧げるように、深々と頭を下げる大勢の街民の姿があった。

 そしてその頭が向く先にはライトで照らし出される小さな影があった。



『な、な、な、何これっ!?』


 私もそれを目の当たりにし、ボウとホウのように思考が固まる。


 その異様な光景はまるでサバトのようだった。

 集会は集会だが意味合いが全く違ってしまっていた。



 そんな人々が平伏し、一途に祈りを捧げるその相手、


 それは――――



「うむ。みんな顔を上げるのじゃっ!」



 キャラライトで神々しくも煌々と輝く、この街の領主のナジメだった。



「「「は、はは―――――― ナジメ大地母神さまっ!!」」」



『は? はぁっ!? 一体何がどうなってっ!』


 どうやらこの瞬間、Bシスターズにまた新たな神さまが誕生したようだ。


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