第317話領主へのお仕置きリターンズ




「うむ。皆の者顔を上げても良いぞっ!」


「「「は、はいっ!」」」



 平伏するみんなを見渡しそう叫ぶ。


 そんな本人は、木箱を2段重ねた上で胸を逸らしている。

 ちょっとだけ偉そうだ。


 その足元には私のキャラライトが置いてあり、その姿をライトアップしていた。



「それじゃ次はわしを肩車するのじゃっ! そうじゃなぁ…… カイ、お主は背が高いから最適なのじゃ。わしは高いところが好きじゃからなぁっ!」


「は、はいっ! 喜んで、ナジメ大地母神さまっ!」


 名指しで呼ばれたカイは、ナジメの前まで行き、恭しく腰を下ろす。



 そんなカイを息を飲むように見守る街の人々。

 その中にはビエ婆さんやニカ姉さんもいて、心配そうな視線を向けていた。



「うむ。もう少ししゃがんでくれぬか? 木箱から落ちそうなのじゃ」

「は、はいっ! 申し訳ございませんっ!」


 ナジメに注意されたカイは、恐々と腰を下ろす。

 それをハラハラした表情で見守るみんな。



「………………」


「………………」

「………………」


 そんな光景を私たちは地下室に入ってすぐに、目の当たりにした。



「………………なにこれ?」


 理解が追いつかず、思わずボウとホウに聞いてみる。


「さ、さぁっ? そもそもあの子供は誰なんだっ?」

「ま、迷子では…… さすがにないですよね?」


 私の問いかけに律義に答える姉妹。

 ただこの状況に対しての答えは持ち合わせていなかったようだ。



『そりゃそうか…… 私が連れてきたんだもん。みんなに会わせる為に』


 姉妹の当り前の疑問に、ここに来た理由を思い出す。

 なのでこの状況を収拾する為に姉妹の元を離れる。


 元々の原因は私だしね……



「はぁ、仕方ない」


「ス、スミカ姉ちゃんっ! どこに行くんだいっ!」

「スミカお姉さんっ!?」


 歩き出す背中に姉妹から声がかけられる。


「実はあの子、この街の領主で私の連れなんだよ。しかもパーティーメンバーだしね。それが露呈して、色々とおだてられて調子に乗ってるみたい。だからちょっと叱ってくるよ」


「えっ? りょ、領主さまだってっ!?」

「えええええっ!!」


 姉妹の呆然とした顔を他所に得意げなナジメの元へ向かう。


『………………』


 スタスタスタ



「もうちょっと屈んでくれぬか? もう少し…… あぎゃあぁ~っ!!」


「えっ! ナジメ大地母神さまっ!?」


「「「へっ?」」」


 ナジメがカイの肩に乗ろうとした瞬間、そのまま真上に弾き飛ばされる。

 そして地下室の天井と透明壁に挟まれて絶叫を上げる。



「う、うぐぐぅ、な、なんじゃあっ!?」


 見えない壁と天井に全身を挟まれ、驚愕の声を上げるナジメ。



「なんだ、じゃないでしょ? 立場を利用してわがまま言うなんておかしいよ。そう言うの私好きじゃないんだけど」


 下から見上げてナジメにお説教をする。


「うなぁっ!? ね、ねぇねなのかっ!」


「そうだよ。高いところが好きなら、そのままそこにいるといいよ」


「ち、違うのじゃっ! みんなが出来る事は何でも言ってくれって言ってたのじゃっ! じゃからわしはちょっとしたお願いをっ!」


「はぁ、それはそうでしょう。ナジメの立場を聞いたら、尚更ここの人たちは気を遣うに決まってるじゃない。その意味はわかるよね?」


「う、うむ、わかるのじゃっ! だからもう降ろしてなのじゃっ!」

「それじゃ言う事が違うよ? キチンと考えて話しなよ。自分が何をしてたのか」

「う、うむぅ……」



「「「………………」」」 


 天井と透明壁に全身を挟まれて、降ろしてと懇願するウル目のナジメ。

 それをポカンと口を開けて眺める街の人たち。



「どう? 何を言うべきかわかった?」

 

「わ、わしが悪かったのじゃっ! ちょっと調子に乗ったのじゃあっ! 領主としてはやし立てられて嬉しかったのじゃぁっ! だから許してくれなのじゃぁ~っ!」


 呆然と成り行きを見てるビエ婆さんたちの前で謝罪するナジメ。

 どうやら私の言った意味を理解して、キチンと反省してくれたようだ。



「そう、それでいいんだよナジメ。いくら出来心とは言え、権力や立場で相手を従わせる行為は、自分はいいけど、相手はそれなりの覚悟を決めてるんだからね。それをちゃんと覚えておいてね」


 ゆっくりとナジメを降ろしながらそう付け足す。


「う、うむ。ねぇねの言う通りじゃ。こちらは遊びとはいえ、相手は要らぬ恐怖を抱く恐れがあるのじゃな。肝に銘じておくのじゃ、ねぇねよ」


 そう言ってナジメは私の前に来て小さく頭を下げる。


「うん、わかってくれればいいんだよ。ナジメは今まであまり領主として扱われてなかったからだと思うけど、それでも権力をそういった事に利用しないでね」


 そんな素直なナジメを軽く撫でてそう話す。


「うむ、肝に銘じておくのじゃっ! 色々と勉強になるのじゃっ!」


「ふふっ、別にそんなに肩肘張らなくてもいいんだよ。ナジメは根は良い子なんだから。自分の村の事も、孤児院の件も手伝ってくれてるし」


「うむ、そうかのぅ? ねぇねからそう言われると嬉しいのじゃが」


 照れ隠しなのか、頬を掻きながら視線を逸らすナジメ。


「そうだよ、だからみんなもナジメの事を許してくれるよ。ね? みんな」


 今までの話を聞いてもらい、みんなに許しを得ようと後ろを振り向く。


 すると――――


 ザザッ


「えっ?」


 今度は私に向かって深々と頭を下げる街の人々がいた。


「えええええっ――――!!」

「………………」


 それはここに来た時に見た異様な光景の焼き増しだった。

 標的が私に変わっただけの。



「「「何でもお申し付けくださいっ! 蝶の英雄さまぁっ!」」」



「やめてっ! もうそういうのいいからっ!!」

「………………」


 そんなみんなを見て咄嗟に突っ込む。


 どうやら領主のナジメを叱った事により、序列が入れ替わってしまったようだ。

 それが敬意に値するものなのか、恐怖なのかはわからないけど……



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る