第318話する側される側と気になるお年頃




「で、今更だけどこの子がこの街の領主で、私のパーティーメンバーね」


「あらためてナジメじゃな。ねぇねの紹介通りにこの街の領主をしておる。じゃがわしは個人の理由でこの街を留守にしておったし、領主としてもまだまだ未熟じゃ。じゃから緊張せずになんでも話してくれると嬉しいのじゃ」


 何とかみんなの緊張をほぐした後でナジメの自己紹介をする。

 気のせいか私が紹介した事により、少しだけ弛緩した空気に変わる。



「あ、あのぉ質問いいの、ですか?」


 そんな中、おずおずと言った様子でボウが挙手をする。

 相変わらず怪しい敬語を使いながら。


「なんじゃ? え~と、お主はボウじゃったか?」

「うん、じゃなくて、ひゃいっ!」


 名前を呼ばれ素っ頓狂な返事をするボウ。

 いくら何でもそんな簡単に慣れるはずもない。



「ボウ、ナジメは礼儀とかあまり気にしないから普通でいいよ? 私のメンバーにもそう言ってくれたし」

「うむ、ねぇねの言う通りじゃ。みんなもわしにはそこまで気を遣う必要はないぞ。それでも無理強いは出来ぬから、各々に任せるがのぅ」


 若干緊張気味なボウとみんなにそう話す。

 そうは言っても立場に差があるので、気休め程度だと思うけど。



「そ、それじゃ、ナジメさまっ! いくつ何ですか?」


「あ、俺も気になりましたっ! あの卓越した魔法と言い、領主といい、姐さんが連れてきたんでずっと気になってたんですよっ!」


「う、むぅ、歳の話かぁ…………」


「「「………………」」」


 ボウに続き、カイも顔を上げてナジメに質問する。

 そんな質問にちょっとだけ雰囲気が柔らかくなる。


 まぁ、そこは最初に気になるところだよね?

 私も実際そうだったし。


 そんな二人の質問に、みんなも興味津々と言った様子で注目する。



「わしも女じゃから、歳はあまり言いたくはないのじゃがなぁ……」

「いやいや、今更気にする年齢じゃないでしょっ!?」 


 何故か口ごもるナジメに間髪入れずツッコミを入れる。

 普通の人間だったら、半世紀以上前に言うセリフだよ。



「いや、そうは言ってもわしも乙女なのじゃっ! 心は未だ50代なのじゃっ! だから106歳とは言いたくないのじゃっ!」


「50代って…… それも今更なんだけど」


 私のツッコミに反論して、そのままネタバレをするナジメ。

 それをブーメランのように返す私。



「えっ? ひゃ、106歳っ! って何歳だっ? ホウ」


「106歳ですかっ!? そ、それはちょっと盛り過ぎなんじゃないかと……。せいぜい姐さんの少し下ぐらいですよね? その幼い(ごにょごにょ)だと……」


 ナジメの歳を聞いたボウは直ぐには理解できないようで、訳の分からない質問をホウにする。そして交互にナジメを見ながら、自分でも指折り数え始める。

 カイも驚愕の表情を浮かべながら、しきりにナジメと私を見比べている。



 うん。その気持ちは良く分かる。

 色々と年齢不詳の事をするからね、言葉遣いにしても魔法にしても。


 ただカイはどこを見て私と比べたの?

 そしてみんなもそれを聞いて頷かないでよね。



「わ、わしは混血なんじゃよ。エルフとドワーフの長寿命種の。多少、年齢に比べて背が小さいのと、土魔法はドワーフの血が濃いのが理由なのじゃ」


 みんなの疑問にナジメが出自について話す。

 一昔前だったらは禁忌とされ、差別されるであろう異人種の事を。


「と、まぁ、年齢の事はそんな感じだから。あまりこれ以上聞かないでね?」


 ナジメの顔色を見ながらみんなに注釈を入れる。

 これ以上は誰も得する話なんてないから。



「それでは今日、ナジメさまはどうしていらっしゃったのじゃ? スミカには領主さまが来ていただける話は聞いておったのじゃが……」


 そんな空気を察してかビエ婆さんが話題を変える。


「うむ。わしがここに来た理由なのじゃが、一応領主としての視察もあるんじゃが、ねぇねが救いたいと思った人々を見てみたいと思ったのじゃ」


「それでナジメさまは、わしらを見てどう思ったのかお聞かせ願いますか?」


「そうじゃな、一言で言えば『同じ』じゃ」


「『同じ』? と言いますと」


「さっきも言ったが、わしは出自が理由で、幼いころから虐げられておった。言葉も容姿もそんな変わらぬと言うのに、それだけで長い間迫害されておった」


「………………」


「そして正直言うと、お主らの事はわしは疎んでおった。ルールを守らない輩の集まりじゃとな。じゃが実際会ってみて『同じ』じゃと気付いたのじゃよ」


「気付いたとは一体? ナジメさま…………」


「うむ。それはわし自身がお主らを何も知らずに差別していた事じゃ。気付いたら、わしも迫害される側から、する側になっていた事じゃ」


「そ、それは、わしの口から何とも……」


「「「………………」」」


 ナジメの告白にも似た独白に、ビエ婆さんも言葉を濁す。

 それに触発されてか、地下室の空気が重くなる。



 だが、次のナジメの一言でその雰囲気が一気に払拭される。


「もう一々暗くなるのはやめるのじゃっ! 簡単に言えば、わしもお主たちも同じ人間だという事じゃっ! それが今日ここにきて、皆と話して感じた事じゃっ! それにねぇねが関わっているのだから当たり前だったのじゃがなっ!」


「えっ?」


「じゃから今後、わしもお主たちに手を貸すのじゃっ! そしてこれから後ろ暗い思いをせぬように、しっかりと自立してもらうのじゃっ!」


 小さい胸を張りながら笑顔でみんなに宣言する。

 私だけではなく、小さな領主も味方になってくれる事を。



 そしてそれを聞いたみんなの反応は


「「「よろしくお願いいたしますっ! ナジメ領主さまっ!」」」


 ナジメの言葉に揃って快活に返事を返す。

 そんなみんなの瞳には、少しの緊張と大きな希望が見える。


「ふふ」


 その姿と光景を見て、私は小さく笑みを漏らす。

 何だかんだナジメも領主として自覚してきたのかなぁ? って思って。


 法を犯す領民を、ただ単に切り捨てる。ではなく、

 更生させる方向に導く、私が望むいい領主に。



 その後はみんなで昼食を済ませ親交も深め、簡単な打ち合わせもし、ナジメの領主としての初訪問はこうして終わったのだった。



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