第315話英雄と領主のお手伝い
「私も手伝うから、もっといい地図にしない? ビエ婆さんやみんなが驚くくらいの完璧な地図を見せてやろうよ」
物欲しそうに、子供たちの串焼きを見ている二人に提案する。
「えっ! スミカ姉ちゃんが手伝ってくれるのかいっ!?」
「スミカお姉さん、いいんですか? ビエ婆さんに会いに来たのに?」
「うん、連れがまだ時間かかるからいいよ」
驚く二人に串焼きを渡しながら答える。
「あ、ありがとうっ! それじゃ、モグ、どうするんだい?」
「ありがとうです。モグ、それではどうしましょう?」
「いや、もっとゆっくり食べなよ。誰も取らないから」
受け取るとすぐにかぶりつく二人に注意する。
性格は違うけど、こんなとこは双子なんだと思いながら。
「う~ん、そうだね。だったら上から俯瞰的に眺めて書いてみようか」
人差し指を空に向け、食べ終えた二人に伝える。
「へ? 上から?」
「ふかんてき?」
「うん、そう。その方が地形も把握しやすいからね。それじゃこっちきて」
そう言って二人と人影のない建物の裏に移動する。
「わっ!」
「きゃあっ!?」
周りに誰もいない事を確認して、二人を透明壁スキルで空中に浮かせる。
それに私も乗って、建屋の上より上昇させる。
「わ、わたしたち、なんで浮いてるのっ!」
「ボウ姉ちゃんっ!」
二人は突然の出来事に驚き、ヒシと抱き合い震えている。
「え? ゴメンゴメン。さっきのでもう分かってるんだと思ったよ」
そんなガクブルの姉妹の二人に謝る。
「う、浮くなんて分かるわけないよっ! スミカ姉ちゃんっ!」
「そ、そうですよっ! スミカお姉さんっ!」
それに対して、涙目で反論するボウとホウ。
「おおっ!」
私はその反撃に少し驚く。
珍しくホウも声を荒げていたから。
まぁ、それはそうか。
言った事も、見せた事もないんだから恐がるだろう。
しかも足場は透明だし。
「あれ? もしかして、
若干、内股気味で抱き合う二人に、ニヤニヤしながら聞いてみる。
「そそうって何だ? 舌噛みそうだけど」
「そそう? ですか?」
私の問いかけに首を傾げる姉妹。
どうやら『そそう』の意味が分からなかったみたいだ。
「びっくりしてお漏らししちゃったって事だよ」
分かりやすく言い直して説明する。
「も、漏らしてないぞっ!」
「わ、わたしもですっ!」
声高に漏らしてない主張をする姉妹。
何となく内股でそわそわしてる風に見えるけど、気のせいかな?
「まぁ、それなら良かったよ。でもあんまり大きな声で言うと、お漏らしが周りに聞こえるよ? 一応二人の姿も透明にしてるけど声は聞こえるからね」
「あっ!? ムグゥ」
「えっ!? むぐぅ」
私の忠告に、二人は慌ててお互いの口を塞ぐ。
「………………」
「………………」
「………………」
本当に漏らしてないよね? 顔赤いけど大丈夫だよね?
漏らしちゃったら私の責任でもあるからね?
『う~ん、びっくりしただけっぽいかな? なら』
大丈夫そうなので、このままこの街をゆっくりと遊覧していく。
二人も納得できる地図を書き上げるために。
※
透明壁スキルの上で、姿も透明になりながら街の上空をグルリとする。
時折停止しては、ボウとホウが地図を記入していく。
私は出来上がるメニューのMAPを眺めている。
そんな二人にはキレイな羊皮紙を渡して、それに書いてもらっている。
元々の板は見づらいし、書きづらいし。
そして合間に空中でテーブルセットを出して、飲み物や軽食を食べながら進めていく。透明鱗粉は物にも有効だから非常に便利だ。
私も二人の作業に口を挟みながら進めていき2時間ほどで完了した。
その出来栄えにボウとホウも私も笑顔で褒め合った。
「よし、それじゃそれを見せに行こうか」
「うんっ!」
「はいっ!」
そんなこんなでビエ婆さんを驚かせる地図が出来上がった。
※
一方。
ナジメを連れて穴を塞ぎに向かうカイたちは――
『う~ん、みんなに笑われるか、危険だって怒られそうだけど…… 小さな子供を連れて言ったりしたら……』
シャベルを片手に前を歩きながら俺は悩んでいた。
姐さんに紹介された、後ろの小さな少女を見て。
『でも姐さんの言う事だから、魔法使いなのは間違いないんだけど、それでも雰囲気というか、風格というか、そんなものは感じないんだよなぁ……』
平らな胸に、何故か名前の書いてある薄手の服装の幼女。
たまに後ろを振り向かないと、あっと言う間に距離が離れてしまう。
そしてそれに気付くと「トテテ」と慌てて距離を詰めてくる。
誰がどう見ても、10にも満たないこの幼女が魔法使いだなんて信じないだろう。
『姐さんは、小悪魔的っていうか、幼いながらも自信に満ち溢れてるって言うか、そんな雰囲気を持ってるからなぁ。たまに得意気で妖艶な笑みも見せるし……』
その点、この幼女はただの無邪気な幼児に見える。
実力を隠している雰囲気も態度も感じない。
見た目相応か、それ以下の年齢に見える。
「ん? 何かわしの顔についておるかのぅ?」
「い、いえ、何もないですよっ!」
ただし、このビエ婆さんと似たような話し方以外は。
『まぁ、悩んでても仕方ない。みんなも姐さんが連れてきたって言えば温かい目で見てくれるよ。そしてみんなも可愛がってくれるよ』
気が付くと何処から出したのか、片手に見た事もないお菓子を持って食べている幼女を見て、色々と考えるのをやめた。
ただこれから先、この幼女への認識を改めてさせられる壮絶な出来事と、強烈な衝撃を受ける事を今の俺は知らなかった。
※
「え~と、ナジメさん着きました」
「うむ。わしに任せるのじゃっ!」
最初の穴は、道中でナジメさんが案内してくれと言い出した一番でかい穴の前に来る。そして腕を組み、鼻息荒く一歩前に出る。
その姿は言葉とは裏腹に頼りなさそう見えた。
「お、おい、カイ。その子供はどうしたんだ? 迷子か?」
するとそんな俺たちに気付き、作業を止めて声を掛けてくる。
ここには10名ほどの男手がいた。
「ち、違うぞっ! この方は姐さんが連れてきた方だっ! 凄い魔法使いだからって手伝ってくれるってわざわざここまできたんだっ!」
俺はナジメさんから少し距離を取って、街民の肩を抱き耳元で話す。
あまり聞かれてもいい話にはならなそうだから。
「え? 姐さんが来てんのか?」
「うん、来てるぞ。今日も素敵な蝶の姿でなっ!」
「そっかぁ、うちの娘が昨日の地下室での姿に憧れてなぁっ!」
「ああ、眩い光で神々しく見えたもんなっ!」
他の街民も加わり輪になって、姐さんの話に変わってしまう。
きっとお互いに忙しくて、今まで話せなかったものが溢れてきたのだろう。
俺は楽しそうに話すみんなの聞き役になる事にした。
それぞれの姐さんへの想いを聞いてみたいと思って。
「俺の娘があれ作って欲しいって、嫁に頼んでたなぁ」
「ああっ! うちも息子が羽根が欲しいって騒いでたぞっ!」
「それに他の大人たちも騒いでたなぁ」
「………………うむ」
「そうだなっ! あの幼い姿で街を救うし、食べ物も置いてってくれたからなっ!」
「ああ、後は仕事を用意してくれるって事もだっ!」
「俺は、普通の男より、あの男前な性格に憧れるなぁ」
「………………うむ」
「だが嫁にしたらきっと尻に敷かれるぜっ! 見かけより厳しそうだからな」
「そうだな、見た目は美少女って感じだが、中身は男前すぎるからなぁ」
「ただ同じ見た目でも、姐さんが連れてきたって少女は……」
「うん、ちょっと幼な過ぎるなぁ。5~6歳くらいか?」
「………………ピク」
「なんで、あの子は胸に名前が書いてあるんだ?」
「きっと迷子になった時に、名前が分かるようにだろう?」
「ああ、なるほど。それで名前を呼んで親を探すってわけだ」
「………………ピクピク」
「恐らくは、親御さんがそれを想定して書いたんだろう」
「だとしても、蝶の英雄の姐さんとは違って、あの幼女の姿は真似したいって子供たちは思うのかなぁ? いくら変わった格好だとしても…………」
「「「う~ん…………」」」
姐さんの話の途中から、姐さんが連れてきたナジメさんの話に変わる。
気のせいか本人は下を向いたまま「フルフル」と肩が震えている様に見える。
「で、だなぁ、将来姐さんはきっとボインボインの――――」
ドゴオォォォォ――――ンッ!!!!
「な、なんだぁっ!」
「「「っ!!!!」」」
突然の轟音が俺たちの話を中断させる
立っている地面がその衝撃で僅かに揺れる。
「うわっ! 煙が目にっ!?」
そして大量の土煙が俺たちを襲い視界が遮られる。
隣の街民の輪郭さえ見えない。
『こ、この衝撃は、ま、まさかっ!?』
ま、まさかまたあの虫の魔物の生き残りがっ!?
そう警戒して震える。
またこの街が危険になるかもしれないと。
「くっ! 来るならっ!」
なんて危険に身構え、周りを伺っていると――
((もう、鬱陶しいっ! 「風龍」じゃっ!))
大量の土煙の中から、甲高い子供の叫びが聞こえる。
「んなっ!?」
「「「いいいっ!!!」」」
すると渦を巻くように土煙が集まり、そのまま全てを上空に舞い散らせる。
その姿は確かに龍の姿に見えた。
「ふむ。こんなもんじゃろ。後は整地すれば終わりじゃな」
そして煙が晴れた中から姿を現したのはナジメさんだった。
腰に手を当て真っすぐに前を見ている。
俺たちはその状況に驚愕しながら、ナジメさんが見ているものを見る。
そこには――――
「「「え? えええええっ!!!!」」」
そこには巨大な穴を塞ぐように、更に巨大な岩石がその穴を塞いでいた。
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