SS バタフライシスターズの慰安旅行

第377話おやつは300円まで




「え~、明後日は一泊二日で、この前予定に入れておいた、キャンプに行く事にしました。なので皆さんは明後日までに、なるべく調理しやすいもので、各自美味しいものを用意してください。各自持ち寄ったものでお食事にするので。あ、因みにおやつは300円までなので超えないようにお願いします」



 夕食を食べ終え、お風呂も済ました就寝前、

 部屋に集まったシスターズを見渡してそう宣言する。


 因みに就寝前にしたのは、子供たちには内緒だからだ。



「あ、ナゴタとゴナタは2日間訓練休みね。これはロアジムとギョウソにも言っておいたから」

「300円って何ですか? スミカお姉ちゃんっ!」


 ハラミのブラッシングの手を止め、シュタと手を挙げて質問するユーア。



「あ、300円じゃなくて、銅貨3枚分ね」

「少なっ! そんなんじゃ串焼き1本しか買えないわよっ!」


 言い直したその金額に対し、すぐさま異を唱えるラブナ。

 なんで串焼き基準かは不明だ。



「まぁ、それは冗談なんだけど。だからおやつは特に持ってこなくていいよ。甘いものは私が持ってるから。みんなは外で食べられるものを用意して欲しいかな? 調理済でも食材でもいいよ」


「あの、お姉さま。この前言っていた『ウトヤの森』の事で宜しいでしょうか?」

「うん、確か息抜きで、泳ぐって言ってたよなっ!」


 ナゴタが確認の為か、私に質問してくる。



「そうだね、この前ノトリの街の道中で見かけたんだけど、大きくて、きれいな湖があるんだよね。あまり人も立ち寄らなさそうだし」


 そう、透明度の高い大きな湖と、澄んだ空気が印象的な森だった。

 あれだったら、森林浴にも避暑地にも最適だ。



「うむ。確かにあそこはいいところじゃな。ならわしは食材を現地調達にするのじゃ」

「あれ? ナジメも行った事あるんだ?」

「あるぞ? ただ一人では二度と辿り着けないやも知れぬが……」

「ふ、ふ~ん」


 何それ?

 本当に行った事あるの?


「ねぇ、スミカお姉ちゃん。ハラミも行っていいんだよね?」


 ベッド脇に寝そべるハラミをブラッシングしながら、ユーアが聞いてくる。

 そんな一人と一匹は、少しだけ不安そうにこちらを見ている。


 何だろう、ハラミが仲間外れにされると思ったのかな? 

 食材云々の話があったから。



「もちろんだよ。ハラミもバタフライシスターズの一員だからね」


 ユーアの頭を撫でながらそう答える。


「そうだよねっ! 良かったぁっ! ならボクはハラミと一緒に食材集めてくるねっ! ね? ハラミ。一緒に美味しい物さがそうね?」

『わうっ!』


 私の返事を聞いて喜び、ハラミにダイブするユーア。

 せっかく丁寧にブラッシングした毛並みが乱れてしまう。



「うわっ! ハラミにユーアが取られたわっ! ならアタシは……」


 その様子を見て、一気に焦りだすラブナ。

 キョロキョロと視線が泳ぎ、ふと、双子の姉妹に止まる。



「なら、ラブナは私たちと一緒でいいでしょ。ね? ゴナちゃん」

「うんっ! ラブナと狩りに行って凄いの取って来ようなっ!」


「あ、ありがとう、師匠たち……」 


 ナゴタとゴナタに誘われて、小さい声で返事をするラブナ。

 これで、食材探しの相棒は、私とナジメ以外は決まったようだ。



『それはいいんだけど………………』


 誰も私に声を掛けてくれなかった事実に、少しだけ凹む……


 まぁ、今回はそれはそれで身動きが取れやすいからいいんだけどね。

 決して強がりじゃないからねっ!



「それじゃ、各々で食材集めよろしく~。私は朝からいなくなるけど、留守中、あんまり気合入れ過ぎて危ないことはしないように。特にラブナはキチンとナゴタの言う事を聞く事」


「って、アタシは子供じゃ――――」

「はいっ! スミカお姉ちゃん」

「はい、わかりました。お姉さま」

「うん、わかったぞっ! お姉ぇ」

「うむ。承知したのじゃ」


 そうして、各自部屋に戻って、今夜のミーティングはお開きとなった。


 みんながどんな食材を用意してくるのか楽しみだ。



――――――




「さて、それじゃ私は行くから、くれぐれも危険な事はしないように。ハラミはユーアを、ナゴタたちはラブナをしっかりと守ってあげてね」


 孤児院で朝食を取り、玄関で見送りをしてくれてる、みんなを見渡しそう告げる。


「うん、よろしくね、ハラミっ!」

『がうっ!』


「スミ姉っ! だから、アタシは一人でも――――」

「わかりました、お姉さま。私たちがしっかりと監督するので、ご安心ください」

「うん、ワタシもラブナが危ない事しないように見てるなっ!」


「で、ナジメは今日も工事を手伝うんだよね?」


 最後、今日も居残り組のナジメに確認する。


「うむ。孤児院前の通りを整備するつもりじゃ。わしがやれば時間も費用を抑えられるからの。ついでに院内の庭もやるつもりじゃっ!」


 ニカと微笑み、グッと力こぶを作って、やる気をアピールする幼女。

 そんなナジメの今日の衣装は、なぜか体操服だった。


 最近、その使い分けの意味が良く分からない。



「まぁ、ナジメもあまり張り切り過ぎないでね? 適度に休んでね」


 そんなナジメに、苦笑が交じった笑顔で返す。


「うむ。わしも作業員も適度に休ませて、事故が起きないように努めるのじゃ」

「う、うん、それはいい事だね。なら、安心だね」


 どこかの現場監督みたいに、今日の安全宣言をするナジメ。

 もう、似合わない領主辞めて、そっちに転職したら?



「じゃ、夕方には帰るから、くれぐれも気を付けてね。行ってきます」


「「「いってらっしゃーいっ!!」」」


 みんなに手を振って、私だけ先に孤児院を後にする。

 私が一番遠出になるからだ。



 そんな他のシスターズみんなの行先は、


 ユーア&ハラミの従魔組は、ゴシキの森へ。

 ナゴタとゴナタとラブナの師弟組は、ビワの森へ。


 それぞれがキャンプに持ち寄る食材集めの予定だ。

 その内容は聞いてはいないけど、ちょっとだけ期待してしまう。



「なにせこの世界に来て、まだ日が浅いからね。しかもこの街以外、殆ど知らないし。だからどんな食べ物があるか楽しみだよ」


 ワクワクしながら、繁華街抜け、警備兵のワナイに挨拶をして街を出る。

 何気に独りで街を出るのは、初めてだなって思いながら。

 そんな何気ないことまで考えて、また楽しくなる。



 でも更に、私には楽しみな事が……


「みんな、待っててねっ! 今行くからね~っ!」


 逸る心を抑えられず、ニヤけながら北西に向けて走り出す。

 透明壁を足場にし、空中を颯爽と駆けて行く。


「『Safety安全 device装置 release解除trois


 みんなに振舞いたい絶品の食材集めと、我がの為に全速力で疾走する。

 私のこの世界での楽園に向けて。





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