第373話なんちゃってランクアップと思わぬ勧誘




――――――


 名前 スミカ

 種族 人間

 性別 女

 年齢 15?

 冒険者ランク C+++

 商業者ランク F


 所属パーティー バタフライシスターズ


 職業 蝶の街の英雄(魔導師?)

 拠点 コムケの街

 討伐種 ※※※※

 討伐数 ※※※※

 預金  ※※※※


 特記事項 閲覧不可


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――――――



『う~ん、大して変わってないけど、なんか…… 変』


 受け取った冒険者カードを眺めて、首を傾げる。


 ランクの隣の異様に多い「+」が気になるんだけど。

 何かの撃墜数じゃあるまいし。

 そもそも「+」なんて聞いたことないし。


 それに職業が英雄なのはあれとして、なんでってなってんの?

 拠点にコムケの街って記載してるでしょう?


 あと、魔導師ってなに? 魔法使いで登録したよね? 

 その後の「?」も気になる。何なのこれ、適当過ぎない。


「ん~」


 色々とツッコミどころが多くて、本物かどうかも怪しいくらいだ。

 ってか、よく見ると年齢の脇にも「?」付いてる。まだ年齢疑ってんの?



「あのさ、もの凄く聞きたい事が盛り沢山なんだけど?」


 顔を上げて見ると、そこにはニコニコした顔のロアジムがいる。

 何やら機嫌が良さそうだ。

 逆に私は不機嫌なんだけど。



「うん、何かな? スミカちゃん」

「これ、本物なの? あと、なんでロアジムが持ってんの」


 ヒラヒラとカードを振って聞いてみる。


「これはもちろん本物だよ。あとワシが持っている理由は、スミカちゃんが午前中にギルドを訪ねた事を、通信魔道具で知っておるから、すぐさま更新して持ってきてもらったのだよ。ワシから渡したいとルーギルに相談してなっ!」


 気持ち、胸を張りながらドヤ顔で答えるロアジム。

 自分でわざわざ渡したいって、本当に冒険者が好きなんだね。

 色々ルールを無視してる気もするけど……



「そうなんだ。で、この+が異常に多いのはなに? そもそもこんな記号あったんだ」

「ああ、その記号はワシと、ルーギルとクレハンが付けたものだよ」

「へ~、それじゃ、これがいくつか貯まるとランクアップ、とか?」


 キリのいい、5個とか10個とかでBランクになるとかだろうか?


「いいや、Cランクはそのままだよ、スミカちゃん。その+はギルドでの役職があるものや、貴族としての位が高いものが付けられるのだよ。まぁ、一種の票みたいなものだな」


 満面の笑みで、人差し指を立てて教えてくれるロアジム。

 

「票? ふ~ん、なら良かったのかな? 私はランクアップとかしたくなかったからね」

「え? そうなの? スミカ。なんでさ」


 思わずと言った様子で、ロアジムとの話に割って入ってくるリブ。


「なんか、面倒なんだもん」

「はぁっ?」

「だってBランクになったら、国とかギルドの要請で、あちこち飛び回らなくちゃいけないでしょう? 私はそれが嫌なんだよ。妹のユーアと離れたくないからね」


 困惑するリブに、私は至って真面目に答える。


 そう。

 これ以上ランクが上がると必然的に、ユーアと一緒の時間が減るし、身の危険が迫っても駆け付けられない。

 

 それに何日も離れ離れになるなんて、私には耐えられない。

 そもそもユーア成分を定期的に補充しないと、どうなるかわからないし。



「あ、あんたねぇ、子供じゃあるまいし……」


 私の言い分を聞いて、ジト目で睨むリブ。


「わははっ! そう思ったので、今回はランクアップはしなかったのだよっ!」

「え? ロアジム、さま?」


「さっすが、ロアジム。気が利くねっ!」

「って、スミカ、ほんと、いい加減に――――」


「スミカお姉さんは、その方がらしいです」

「スミカ姉さんは自己中でカッコいいです」

「はぁ? マハチとサワラまでっ!?」


 ロアジム、私、マハチとサワラ、全てのコメントに反応して突っ込むリブ。

 ここまでくると、もう、条件反射みたいなものだろう。

 


「まぁ、リブの言いたい事もわかるぞ。でもスミカちゃんはそうなんだよ。ユーアちゃんの為に、Cランク冒険者と戦ったり、ユーアちゃんの願いで、大豆屋工房サリューを立て直したり、住むところや、孤児院だって全部、ユーアちゃんを想っての事なんだからなっ!」


 呆れるリブに対して、ロアジムがあらすじの様に説明をする。

 

「は、はいっ! 承知しましたっ!」


 それに対し、若干戸惑いながら返事をするリブ。

 ロアジムにここまで言われると、納得せざる得ないんだろう。



「で、次に『魔導師』ってなに? それと『蝶の街も』」


 もう一度冒険者カードに目を移して、更におかしなところを聞いてみる。


「『魔導師』ってのはな、ルーギルとクレハンが決めたんだよ。意味合い的には、未知の魔法を生み出す者や極める者を指す言葉だなっ! スミカちゃんの魔法は、そう言った類のものと判断して決めたらしいぞっ!」

「うん。何となくだけど、わかったよ。で、もう一つの蝶の街は?」

「それはワシが決めたんだよ。将来的にそうなると見越してなっ!」

「将来的に……? って、それって一体どういう?」


 さっきよりも胸を逸らして、得意げに語るロアジムに確かめる。



「ま、それはまだ時間が掛かるだろうから、今は気にしなくてもいいよ。それよりも、もう一つ大事な話があるのだよっ!」

「なに? 大事な話って」


 何かはぐらかされたされた気もするが、次の話に進むように促す。



「うむ。スミカちゃんは、リブたちロンドウィッチーズが、ワシのお抱えの冒険者って知っておるよな?」

「うん。それぐらいは――――」


 知ってるよ。

 冒険者オタクだって、ぐらい。



「それでリブたち以外にも、各地にそう言った者がおるんだよ。新人から、Aランクの冒険者たちが王都や、はたまた他の大陸にもなっ!」

「へぇ~、それって、ロアジム以外の依頼は受けられないって事? ロアジムが仕事を選んで斡旋してるの?」


 前々から気になってた事を聞いてみる。


 ロアジムが普通の貴族ではないと、薄々と感じていたから。

 自身の体裁にも結び付く何かを与えているのかなと。



「それは違うわよ、スミカ」

「うん?」

「私たちは普通の冒険者と何ら変わらないわよ。ただし、ロアジムさまからの依頼は優先的に受けて、それ以外は自分たちで仕事を探しているわ」

「そうですよ、スミカお姉さん。ただロアジムさまからの依頼は報酬が多いです」

「うはうはです」


 ロアジムの代わりに、今、話の上がったリブたちが教えてくれた。



「うむ、リブたちの言う通りだな。で、折り入って話があるのだが――――」

「……………」


 ここでロアジムは、キリと姿勢も表情も正し、私と視線を合わせる。


「――――スミカちゃんとバタフライシスターズ共々。ワシ直属の冒険者になってくれぬか?」

「ごめんなさい。他を当たってください」


 いつもより真摯な表情のロアジムに、軽く頭を下げて即答した。



 だって、そんなのになったら絶対に面倒だし、振り回されるもん。


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