第372話難解恋愛とロアジムの想い




「もう、アマジは昔のアマジではないのですねっ! 姉さんを亡くして変わったのは、少女を手籠めにする変態な趣味と、娘を異常に溺愛する行き過ぎた父親になっただけですわっ! もう見損ないましたわっ!」


「なっ! お、おいっ! エーイっ!」


 エーイさんはアマジをそう罵倒して、顔を覆い屋敷の方に駆けて行ってしまった。

 その後姿に声を掛けるが、そのまま姿が見えなくなってしまった。 



「うはははっ! お前たちは、相も変わらず顔を合わせると喧嘩ばかりだなっ! 子供の頃から全く変わらんではないかっ! わははっ!」


 その光景を見て、憤るどころか、楽し気にアマジに近付くロアジム。

 息子が暴言吐かれて、ビンタされたって言うのに。



「う、むぅ。どうやら俺は何か間違ったらしい。あいつにへそを曲げられるのは慣れてはいるが、今回はあまりいい気がしないな。はぁ~」


 ロアジムと、エーイさんが座っていた椅子に視線を這わせて、長い溜息を吐く。


 まぁ、アマジにしてみれば誤解とはいえ、散々な言われようだった。

 少女趣味で変態の烙印押されたままだし。



「あのさ、エーイさんってアマジとの家族と何か関係があるの?」


 見て分かるぐらい、肩を落としているアマジに尋ねる。

 気になる単語が聞こえた来たからね。



「ああ、スミカちゃん。エーイはアマジの妻だったイータの妹で幼馴染なのだよ。アマジがエーイの姉のイータと結婚するまでは交流があったのだが、イータが亡くなってから徐々に姿を見せなくなってな。まぁ、あの時のアマジも家には寄り付かなかったがな」


 アマジにチラと視線を這わせながら、ロアジムがそう説明してくれた。


「うん、なるほどね、それで良く分かったよ。で、アマジは幼馴染を追い駆けなくてもいいの?」


 いつもよりも仏頂面に磨きがかかったアマジに聞いてみる。


「ああ、あいつとの付き合い方は、いつもあんな感じだった。だから今回も問題ない…… が、さすがに色々と誤解されたままでは気持ちが悪い。だから追いかけるとしよう」


「うん、その方がいいよ」


 屋敷の方を見ながら答えて、アマジはここから離れていった。



『う~ん、ちょっと失敗しちゃったなぁ。私の興味を優先するあまり、二人の関係性が頭になかったなぁ。色々と知っていれば、もう少しやりようがあったんだけど……』


 なんて、自己反省してみる。


 そうは言っても、事後の話なので今はどうとでも言える。

 ただ、誤解されてるって気付いた時に、早く訂正すればここまでの事態には至らなかった。

 


「ん、アマジは行ったか。すまんな、みんな。エーイを呼んだのは可愛いゴマチの為と、我が愚息の為になればと思って呼んだんだが、目論見通りにはいかなかったようだな」


 息子の姿が見えなくなったのを確認してロアジムが話す。


「それって、その亡くなったアマジの妻のイータさんの代わりって事?」


「うむ、ありていに言えばそうだな。ワシはイータによく似た、妹のエーイをアマジに引き合わせたくて、今回呼んだのだよ。ゴマチにはまだ母親が必要だろうしとも考えてな」


「あ、なるほど。でも、なんでわざわざ孤児院に呼んだの? この家じゃなくて」


「アマジはあんな性格だしな、ワシが用意したなどと知れば逆に反発しそうだったのだよ。孤児院なのは、この街で一番安全なのと、知らないところに置くのが嫌だったのだ。なので偶然を装って、この場を用意したのだがな、う~むぅ」


 さすがの切れ者のロアジムも二人の仲違いは予想外だったのだろう。

 唸り声を上げて、下を向いてしまう。



「でも、ロアジムも色々と息子の事心配してるんだね。もう成人して一度は親元を離れた息子なのに。それに一人娘もいるって言うのにさ」


「まぁ、そうだな。妻を失った時の奈落の底にいるあいつを見ておるからな。それにゴマチにも不憫を掛けたし、母親の温もりを知らずに、大人になるのも可哀想に思えてな」


 最後「一番の理由は孫娘の為だよ」と付け足して軽く笑い笑顔を見せる。

 ただそれも、私たちを気遣っての無理な笑顔なのがわかった。


 

『う~ん、興味本位で軽々しく関わっちゃダメだったね。ロアジムの心中を知っちゃうと余計にそう感じちゃうよ……』


 アマジの娘のゴマチにしても、もしかしたら母親が出来る、そんな重大な事。

 それによってはこれからの成長にも関わる事。


 母親がいるいないでは、ゴマチの情操教育にも、将来自分に子供が出来た時にも、きっと大きな影響を及ぼす事柄だろう。


 普通の恋愛事情ならまだしも、

 今回遊び半分で首を突っ込んでいい事ではなかった。



『孤児院に帰ったら、あの人に相談してみよう。私では荷が重いって言うか、そもそも助言が出来る経験値がないんだから、最初から何もできないんだよね』


 さっきのロアジムの想いを聞いてちょっとだけ落ち込んだ。

 それでも間接的には手助けしたいと決めた。


※※



「エーイの件はアマジに任せるしとして、今度はスミカちゃんの話をしようかっ!」


 陰鬱な雰囲気を払拭するように、陽気に話し出すロアジム。


「え、なに? やっぱり私にも何かあるの? ただの付き添いのつもりだったんだけどぉ~」 


 それに対して、口を尖らせて不満をアピールする。

 ぶ~、ぶ~。


「スミカ、あんたねぇ、ロアジムさんから話があるのに、その態度って何さ」


 薄目でリブに睨まれる。


「いいのだよ、リブ。スミカちゃんはワシたち家族の恩人なんだ。アマジもゴマチもワシも、バタフライシスターズに救われたのだ。それにその方がスミカちゃんらしいからなっ!」


「そうだよ、リブ。何も私たちの関係を知らないで目くじら立てないでよね? 私は私らしく生きてる事に誇りを持ってるんだからね」


 リブの小言にフォローをしてくれるロアジムに乗っかり、カウンターで返す。


「う、ぐぬぬっ」

「で、その話って何?」


 悔しそうに唸っているリブを他所に、先を促す。



「うむ。スミカちゃんは冒険者証を、今、持っておるかな?」

「持ってるよ。一応身分証明書だからね。はい」


(冒険者証を身分証明書代わりって……)


 またリブが小声で何かを言っている。


「それではこれと交換しようか。こっちは昼過ぎに届いた最新に更新したものだよ」

「え? そうなの? うん分かった。ってか、なんでロアジムが持ってんの」


 不思議に思いながら、ロアジムからカードを受け取り、ついでに今までのを渡す。

 いったい何が変わったって言うんだろうか。最新って。



「ん? 何これ? ランクは一緒だけど、その脇に何か文字が増えてるんだけど。それに職業が変わってるんだけど」


 繁々と渡されたカードを見てみる。


 そこには――――


――――――


 名前 スミカ

 種族 人間

 性別 女

 年齢 15?

 冒険者ランク C+++

 商業者ランク F


 所属パーティー バタフライシスターズ


 職業 蝶の街の英雄(魔導師?)

 拠点 コムケの街

 討伐種 ※※※※

 討伐数 ※※※※

 預金  ※※※※


 特記事項 閲覧不可


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――――――



『………………は?』


 何これ?


 もの凄く、突っ込みどころが多いんだけど。

 そもそもこれ、本物なの?



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