第218話得意な武器とは?
「やった………… か?」
アマジは2本のムチを軽く引き私の両手首の拘束を外す。
そして茂みの中から姿を現し、微動だにしない私に近づく。
「……手応えはあった。だがこれしきの事で奴がくたばるとは到底思えん。それでも倒れているコイツは――――」
そう呟きアマジは横たわる私を足蹴にしてゴロンと仰向けにさせる。
「やはり本物、か…… 大口叩いた割に意外とあっけなかったな」
倒れたままの私の姿を一瞥し踵を返す。
「さて、アイツの仲間に起こさせて俺の前で跪かせなくてはな」
そう一人呟いて、広場脇に向け歩いていく。
「あ、ごめんね。ムチは真似できないから他のにしてくれる?」
「っ!!」
歩き出すアマジに私は背後から声をかける。
「ま、まだ動けるだ……と、な、何だそのもう一人のお前はっ!」
即座に振り向いたアマジは、目を見開き、立ってる私と倒れてる私を交互に見て驚愕の声を上げる。
「何って。戦う前にあなたのお父さんが言ってた事だけど」
何て白々しく言ってみる。
そもそもそういう情報は耳に入ってたはずだから。
私も分身が出来るって。
それを端から見ていたシスターズたちは――
「あ、あの男、お姉さまの美しい分身体を汚い足で蹴るだなんてっ!」
「ワタシ、お姉ぇとの対戦が終わったらアイツを蹴ってやるぞっ!」
「さすがねぇねじゃなっ! いつ入れ替えたかが分からなかったのじゃっ!」
「ね、ねえ? ユーアはまたわかってたのっ!?」
「う~ん、前みたいにスミカお姉ちゃんいっぱい動いてなかったから、はっきりとは分からなかったよ?」
各々に感想を漏らす。
「な、あれは俺らの投影幻視じゃないのぉっ!?」
「い、いや違うぞバサ、あれは触れられる実体があるっ!」
「一体どうなってるんだっ!あの分身体はっ!!」
それと同じタイミングでアマジ陣営内も騒いでいた。
「スミカちゃ~~んっ! さすがだよっ! カッコよかったよっ!」
「ス、スミカ姉ちゃん、す、凄いあの一瞬で……」
最後はロアジムとその孫のゴマチの声。
みんなが言う通りに、私はムチに手首を絡められる前に分身体ですぐ真横に逃れ、透明鱗粉で潜んでいた。
「こ、これもお前の魔法なのか?」
「う~ん、それは秘密かな? さすがにそこまでは教えられないよ」
まだ二人の私を見比べているアマジにそう答える。
まぁ教えられないっていうか、私にだって良く分からないんだけどね?
その仕組みがどうなってるのかなんて。
「ねえ、もういいでしょ? あまり倒れてる私の美しい寝顔をジロジロ見てると色々勘違いされるよ? 耳年増な娘のゴマチに」
「なっ!」
実態分身を解除しながらアマジをそう茶化す。
誰だって倒れてる無防備な自分を晒したくないだろう。
それが私みたいなか弱い乙女だったら尚更だ。
まぁ茶化した理由は別にあるんだけどね。
「お、俺がお前みたいな幼いっ――――」
「あ、それ以上は言い訳に聞こえるからいいよ」
珍しく感情を剥き出したアマジの話を寸断する。
なんか余計な事言い出しそうだったし。
でもまぁ、これで話を誤魔化すことが出来た。
「で、話は戻すけど私ムチは使えないから、そっちの勝ちでいいよ」
片手をあげてひらひらさせる。
「……チッ、本当に忌々しい奴だっ」
声を若干荒げながらムチをしまい新たな武器を手に持つ。
「ん?」
今度は…………
右手に小剣
左手―― には鉄の輪らしきものが握られている。
『ナックルダスター……てやつだよね? って事は接近戦やる気かな?』
その二つの武器を見てそう判断する。
アマジの持つ武器はそれに特化したものばかり。
比較的射程が短い小剣と拳に嵌める接近戦が主な鉄甲。
これを見れば近距離の戦闘を仕掛けたいのだとわかる。
「なら、私も」
スキル4機を使い似たようなものを装備する。
小剣は、四角柱2機と連結を使って。
鉄甲も、2機と今度は連結と湾曲を使ってそれぞれを真似る。
「でさ、なんか今まで使ってた武器より構えがサマになってる気がするんだけど、私の気のせい? それともそれが一番得意とか?」
「さぁ、どうだかな」
私はアマジの雰囲気が今までのどこか危なげなものではなく、妙に落ち着いてるというか、腰を据えているというかそんな印象を受けた。
『いや、違うね。もっと端的に言えば――――』
似合っている。
そう、これが一番シックリくる。
ドワーフに斧。エルフに弓。
のように違和感がないというか
「やっと本気出すって事? 違うって言っても私にはわかるけど」
「……ただ過去で一番使ってきた武器なだけだ」
などと、どちらとも取れない返答をするアマジに
「なるほどね。まぁ別に詮索する意味もないからこれ以上は言わないけど、ただこれだけは言えるよ」
「なんだ?」
「今までより少しはマシになった。ってね」
知らず笑顔になって素直な感情を伝える。
まぁ、聞く人が聞けば挑発にしか聞こえないけど。
「なんだ、どういう意味だっ! お前は何が言いたいっ!」
「どういう意味も、今までの武器はただ単に扱えてただけでしょ? 決して使いこなしてたわけじゃないから」
煽りと捉えたアマジから鋭い視線を向けられるが、それはそうだなと思いながら更に続ける。
「だってあなたが扱えると言った武器の対決は、ほぼ素人の私に負けてんだよ? あ、ムチはもちろんノーカンで。あれは負けを認めたから」
「…………それでなんだ?」
若干苛つきながら先を促すアマジ。
「それで簡単に言えば、その今の武器は使いこなしてるってわかっただけ。それを持ったあなたの雰囲気とか構えとか全然違うし。今までのはどっちかっていうと子供が何となくの知識で刃物を振り回してたって感じ。扱い方は分かるけど正しい使い方が分からない、みたいに」
「………………」
「だってそうでしょ? 双剣も大盾もハンマーも長槍も確かに振ることはできたけど、その手数や強固さや重さや射程などの特性を使いこなしてないんだもん」
「だから私にも負けたんだよ」
苦虫を嚙み潰したようなアマジの顔を見て会話を締める。
「……俺は今までかなりの数の戦場なり戦闘をこなしてきた。魔物もそうだが対人戦に於いても数多くの経験をしてきたつもりだ。強くなるためにな。だが今までお前のようなムカつくことを言った者はいなかった。それは――――」
「それはその相手が弱かっただけでしょ? 私はあなたが戦ってきた魔物や人間たちより圧倒的に強い。だから気付くこともできたし、それを真っ向から打ち破ることもできた。ただそれだけでしょ」
特にアマジの反応を気にすることなく淡々と事実を話す。
だってそれが真実だし。それ以上言う事もない。
「言うに事欠いて圧倒的だと? お前がか。だがそのお前が言う圧倒的な力のせいで俺は、俺たち家族は―― いやもうどうでもいいか。ではさっさと始めるぞ」
一瞬だけ殺気が膨らんだがすぐさまそれを意志で抑えるアマジ。
「そうだね。これからが本番っぽいし」
そして溢れ出た殺気以上にアマジからの凄まじい威圧を感じる。
「ああ、そうだな、これからが本番だ。だからその圧倒的な力を見せてみろっ」
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