第217話何度も宙を舞う私




 ビュンッ――――


『まさか弾き飛ばされるなんて思わなかったよ。今の本気と私のスピードも上乗せしたんだよ?雰囲気が変わったらいきなり数倍も強くなったよね?』


 私は飛ばされながらもアマジの姿を探す。


 盾で弾かれた瞬間にはもうアマジの姿は消えていた。

 私を弾き飛ばした力も即座にいなくなった速度も異常すぎる。


 ならきっと双子兄弟のように魔力で増幅できるのだろう。


「っと、下っ!」


 飛ばされる私の体の真下から大剣での突きが襲ってくる。


 私は今は空を見上げて飛ばされている状態。

 だからこのままでは防御も回避も間に合わない。


「ならっ!」


 私は左手の大盾のスキルを消して背中に展開する。


 ガギィンッ!


 直後、アマジの突き上げた大剣がスキルに当り火花を散らす。


「なっ!防いだ、だと、だがそれでは身動きが取れまいっ!」


 確かにアマジの言う通り私の体は未だ宙に浮いている。

 しかも大剣での突きで更に地面より上昇してしまった。


「もう一撃っ!」

 それを絶好の機会と踏んで、アマジが再度大剣を突き上げる。


「んっ!」

 私は大盾を振りグルンっと天地を入れ替える。


 そこにアマジの突きが襲ってくるが、


『湾曲っ!』


 大盾のスキルを私を包むようなドーム状に変形させて、


 ガインッ!

 と、突きの軌道を右側方に逸らす。


「く、変形だと」

 アマジは突きが逸らされたと同時に右側に退避する。

 そこに盾に守られた私が落ちてくるからだ。


「よっと」

 そして私はアマジのいない地面に難なく着地する。


「さあ、次は何を見せてくれるの?」

 と、両手に持つスキルを解除しながら背後を振り返る。


 アマジの手には次なる獲物が握られている。


 右手に長槍

 左手に大槌(※ハンマー)


 それはナゴタとゴナタが使っていたものと同じものだ。 



「チッ!いちいち真似やがって。本当に鬱陶しい奴だなお前はっ」

「うん、だって武器勝負だもん。今のところ私が勝ってるけど」


 そう挑発して私の身長を超える程の長槍もどきの円錐と

 円柱2機で組み合わせたハンマーもどきを片手ずつ持つ。



「どうやらお前は魔法戦士よりも、奇術師や贋作師を名乗ったほうが相応しいようだな。お前のやるその殆どが奇をてらうものや偽物だろうからな」


「そう?私から言わせればアマジの方が偽物に思えるけど」


「俺が偽物?どういう意味だ。模擬戦用だが武器は本物だ」


「う~ん武器の話じゃないんだけど、まぁ別にいいよ何でも。私も言うほど慣れてないし、それに戦ってればすぐわかるし」


「ならさっさとかかってくればいいだろう?それで分かるんならな」


「言われなくても行くよ。私にも色々とやる事があるんだから」


 私は体の回転と同時に長槍をアマジに振るう。

 狙うは左手の武器。


「早いっ!だが」


 アマジはそれを左手のハンマーで軽々と防ぐ。


 次に私は左手のハンマーを脳天目掛けて振り下ろす。

 それに対してアマジは空いてる長槍を掲げて防御に当てるが


 ガッ


「っ!?」


 すぐさま自分の過ちに気付くがもう遅い。

 片手の長槍だけで重いハンマーの一撃を防ごうとした時点で。


 それでも私のハンマーはその長槍を弾き

 アマジの鼻先を掠るように通り過ぎてしまう。


「ちっ!」


 どうやら身体強化で重いハンマーの直撃は逸らせたようだ。


「てやぁっ!」


 次に長槍を引き戻し私は突きを放つ。

 アマジはそれさえも強化した能力ですり抜ける様に真横に躱す。


「おお、これも避けるんだ」


 私はその動きを見て感嘆の声を上げる。


 振り下ろしたハンマーの一撃を片手で逸らす腕力と言い、今の突きを即座に回避する動きと言い、双子兄弟程ではないがかなり身体能力が上がっている。


「でもまだ安心するのは早いよっ」


 私は突き出した長槍をそのままアマジを追いかける様に

 横薙ぎに振り回し、


 ギュンッ


「がっ!」

 脇腹を強く殴打し苦悶の表情を上げるアマジ。


「まだまだっ」


 私は長槍を一度手放して、動きの止まったアマジに接近する。


 そして両手持ちに切り替えたハンマーを思いっきり横薙ぎに振り回す。


「んんんっ!ぶっ飛べぇっ!!」


 ブンッ!


「ぐっ、がぁっ!!」


 アマジは咄嗟にハンマーでの防御を試みたようだったが、それごと私のハンマーはアマジを打ち付け大きく吹き飛ばした。


 そしてその体は広場脇の森の茂みに紛れていった。


「よし、吹き飛ばされたお返し完了っ!」


 私はスキルを解除して追撃の為にアマジの姿を追う。

 次は何をしてくるんだろうとちょっとだけ期待しながら。


 ヒュンッ パシッ!


「っと!」

 茂みに近づいた瞬間、森の中から飛んできたそれを受け止める。


「これは……短剣?」


 襲ってきた飛来物を見て小さく呟く。

 それは刃渡り20センチ程の短剣。


 ヒュヒュヒュッ!――


 すると続けざまに茂みを割いて小型の物体が高速で飛んでくる。


 カカカカンッ!


「う~ん。これも短剣。って事は次はこれかぁ」

 手に持っていた短剣で新たに飛んできた短剣を全て弾いてく。


『んん、正直短剣勝負だと数が出せないんだよね?最大10機だし』

 

 カカカカンッ!


 私は若干テンションを下げながらまだ飛んでくる短剣を弾いていく。


『………………』


 展開と解除を繰り返すならば数は用意できるけど、最大で投擲出来る数は変わらない。それじゃアマジが10本以上同時に投げられたら対処できないな。


 なんて思っていると、


 バシィ!


「えっ!」


 私は装備の袖の上から右手首に巻き付いたそれを見つめる。

 もちろんそれは短剣などの固い武器ではない。


「これって」


 どうやらそれは無数に飛来してくる短剣の中に紛れていたようだ。


「って取れない!」


 私はそれを振りほどこうと左手で掴むが、


 バシィ!


「く、しまっ!」

 その左手も同じように何かに絡めとられる。


「ム、ムチなんて武器の概念がこの世界にもあるのっ?」


 私の両手首に巻き付いてるのはウィップと呼ばれるれっきとした武器。

 

 この世界にも馬車もあるし、きっとそういったものを使う職業や拷問器具としてもあるだろう。それと特殊な趣味趣向な人たちにも。


「って、それよりも今は抜け出さないと――」


 私は逃れる方法を探して思考を巡らすが、不意にグイと強く両腕が引っ張られる。茂み向こうのアマジが引いているのだろう。


 私もググッと抵抗して引き寄せようとするが、


 グンッ

「っえ!!」


 綱引きのようにお互いの力が拮抗することなく、圧倒的な強い力で引っ張られ、そのまま森向こうの茂みの上を飛ばされる。


 飛ばされるというよりは引っこ抜かれた感じだ。

 それ程の強い力だった。


「ぐっ、いきなりアマジの力が――」


 私は両手首を2本のムチで縛られたまま高速で宙を舞う。

 その向かう先は大小多くの木々が茂る森の中。


「ぐう、取れないっ!」


 片手でもう片方のムチを握るが何重にも巻かれてしまったのと、回転の遠心力、そして自重も合わさって力だけでは到底抜けそうにない。


「し、仕方ないっ!あまり使いたくなかったけどっ!」


 『Safety安全 device装置 rel解―――』


「って、今度は逆!?」


 私は緊急脱出用の全ステ上昇スキルを発動しようとするが、今度は反対側に強く引っ張られる。森の中ではなく今度は広場の方に向けて。


「も、森よりはマシだけど、回避がっ!――」

 その向かう先は荒れた広場の地面。


 アマジの力の前に身動きが取れないまま私は


「――間に合わないっ!!」


 ドゴォォ――ンッ!!


 と、超高速で地面に叩きつけられた。

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